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半導体事業経営の本質は何か、みんなで考えよう

半導体ファブの現場で働いていた頃、最大の関心事は歩留まり向上であった。歩留まり向上のためには歩留まりを抑えている直接の原因を知ることが第一のステップになる。その作業を筆者は、"Yield Loss Mechanism Identification"(歩留まりロスのメカニズム)と名付けた。この詳細はもちろん企業機密だった。

1980 年代になってKLA Instruments に奉職した頃、KLA はお客向けに歩留まり向上のためのセミナーを頻繁に主催した。KLA はデジタル原理を用いた欠陥発見のための自動外観検査機を世界で始めて開発し、ファブ内でのシリコンウェーハ上の欠陥発見を容易にした。その歩留まりセミナーではもちろん英語のみが使われていた。歩留を抑えている根本原因を英語では、セミナーで頻繁に使われた"Root Cause"だった。

歩留まりについて実は世界の半導体エンジニアの間で根強い噂があった。「世界のファブの中で最も歩留が高いのはどこか?その圧倒的なチャンピオンは日本のファブである」ということであった。歩留まりの数値も各社で高度な機密情報なので、このこと を証明することは神様しかできない。しかし筆者は1980年代から日本の歩留まり神話をかたく信じている。

一方、最近のわが国の半導体会社の地盤沈下はどうしたものか?なぜ歩留まりが高いのに競争に勝てないのか?確かに1980年代日本はDRAM製造でダントツの世界一を成し遂げた。その時に歩留まりが世界一に貢献したことは間違いなかろう。さて現在はどうなのか?筆者の推測では、今でも歩留まりでは日本は世界一であって外国のファブは日本の歩留まりを10とするなら、8-9割だろうと考えている。筆者は外国のファブでも数年間、勤務したことがあるのでそう確信する。

では日本の半導体にビジネスで勝る世界の会社の競争力はどこにあるのか?歩留まり以外の要素があるに違いない。これらを列挙すると、

リスクを採る大胆な経営戦略、
経営者が受けている教育内容、
早い決断、
製品設計に於ける競争力、
製品コスト、
サイクルタイム、
Time to market  などが考えられる。

例えば1990年代後半の頃、日本のDRAM製造ファブラインでのサイクルタイムを筆者が当事者たちとおつきあいした範囲で雑談をしながら調べたことがある。今は大分異なると思うが、100日を超える例があった。原因は仕掛在庫が多くマスク枚数も相当に多いことだった。また、現場がフォーカスしていたのは高い歩留まりと信頼性だった。このためサイクルタイムは気に留めなかったのかも知れない。1986年にインテル社がDRAM事業を撤退し日本の各社は、半導体シェア世界一になったので歩留まりと信頼性が高ければ、マスク枚数や在庫数やサイクルタイムには重点が置かれなかったようだ。

当時日本を追っていた世界の競合各社は、日本の強さと弱さを徹底して調べたのだろうと思われる。外国半導体企業の経営陣と日本の経営陣の違いは多々あるだろうが筆者が感ずる一つは、経営者が受けている教育内容においてMBAの資格の有無である。MBAは経営学修士と訳されるが文部科学省が管理する学校教育法にはMBAという学位は存在しない。MBAは、米国において企業経営を科学的アプローチによって捉える発想から誕生し、日本を除く国々で導入された。MBAは有能な経営者を育てることを最終目的にしている。

世界の経営学修士のランキングをフィナンシャルタイムズのMBAランキングで見てみると、トップ5位以内にはウォートン、ハーバード等米国勢が4スクール、そしてロンドンビジネススクールが第2位だ。20位まで見るとアジアではシンガポールにキャンパスがあるInseadが6位、中国のCeibsが11位。香港のHong Kong UST Business Schoolが17位で日本は圏外である。文部科学省は経営学修士を認めていない。このため当然だがランキング競争に参加していない。東京大学は経営学修士を学生に授与する態勢にない。

三星やTSMCなど、成功しているアジアの半導体会社がMBA保持者を歓迎し重用しているのに日本の現状は寂しい。一橋大学大学院は学校教育法になくても商学研究科経営学修士コースがあり体系的かつ理論的知識と分析力を持った実務家を育成する努力をしている。慶応大学や早稲田大学にも同様のコースがある。学校教育法でMBAは存在しないが、学ぶことはできる不思議な日本の体制ではある。

2008年日本製造業のスターであるトヨタは、米General Motorsを抜いて世界一の乗用車メーカーになった。うれしい限りだが、今から10年後の2019年頃にもトヨタがトップを維持していて欲しい。半導体が1986年のピークを10年間保てなかった教訓を是非生かして欲しい。

アジアで最も多いノーベル賞受賞者を輩出している日本で理系離れが進んでいる。朝日新聞の8月27日東京版はある会社経営者の投書を掲載した。題して、「ロボコン成績に映る理系離れ」。ロボコンはNHKが産みの親であり育てて来た手作りのロボットで競争させるアイデア対決のロボットコンテストである。1988年から20年にわたり「自らの頭で考え、自らの手でロボットを作る」ことを通して、若者が自由な発想と物作りの素晴らしさに夢中になるように工夫したイベントである。これほどに創造力や忍耐力を涵養する仕掛けは少ない優れた企画だ。だが今年は、大学対抗戦で優勝を中国に、そして準優勝を香港にさらわれ日本の豊橋科学技術大学は準決勝で敗退したと、その投書で経営者は「たかがロボコンではない」と嘆いたが、賛成である。

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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