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目標に向かう熱気、伸びていく面白さ、結集する環境づくり

米国国民の視聴率が高い時間帯に行われるObama大統領の一般教書演説とのことであるが、有人月着陸ロケットに向けて燃えに燃えたあの頃の熱気と自信を今こそと訴える下りが、先進経済圏の奮起を促す強烈なメッセージとして響いてくる。大容量化、高速化、低電力化に向けて、国内各社が切磋琢磨、世界を引っ張るに至った頃の我が国の半導体業界に通じるところを感じている。

≪最先端技術に向けたモチベーション≫

新興経済圏の爆発的な市場展開が続いており、先進諸国の新たに市場を引っ張る最先端のシーズ創出、開発が急務になっている。国際経済のバランスをとっていく上でこれが避けて通れないという思いが日々強くなるこのところの情勢である。米国のObama大統領の一般教書演説では、科学技術開発の重要性を訴える部分が特に業界紙で取り上げられている。

◇Obama calls for R&D boost at Sputnik moment (1月25日付け EE Times)
→米国のBarack Obama大統領が一般教書演説で、"Sputnik moment"(月ロケット打ち上げを目指して、科学技術の振興教育を強化しNASAを設立して全米が燃えに燃えたあの時代を表現)を目指し、R&D、教育および輸送への一層の連邦政府出資を求めた旨。

そのなかハイテク関係の項目が次の通りである。

◇Tech takeaways from Obama's State of the Union (1月26日付け EE Times)
→Obama大統領の一般教書演説から技術関連抽出:
 Sputnik moment
 Renewable Energy
 Education
 Science teachers
 High speed rail
 High speed internet
 Exports
 1 million electric vehicles by 2015
 'We do big things'

半導体業界の米SIAは次の投げかけを行っている。

◇SIA sends wish list to Obama (1月26日付け EE Times)
→米SIAが、議会と政府に対し、経済の回復を強めるよう研究と教育並びに米国の税制、規制および労働力政策の改革に向けて長期的な連邦出資が約束されるよう協働を働きかけの旨。

高い目標を掲げて関係者のベクトルを揃えまっしぐらに関門クリアに向かうモチベーションを如何に高めるか、半導体業界で振り返るといくつかの経緯が思い浮かんでくる。
* 我が国の超LSI技術研究組合(1975年) →日本半導体の台頭
* 半導体企業の共同研究コンソーシアム、Sematech設立(1987年) →米国半導体の復権
* 米国の複数の大学が協調して一つの課題に取り組むマイクロエレクトロニクス研究:Microelectronics Advanced Research Corporation(MARCO)(1997年)

上記はほんの一部の取り上げであるが、Intel社はこのほど個々の大学に直接研究費を出資するという新しいモデルを打ち上げている。

◇Intel pumps $100M into new research model (1月26日付け EE Times)
→Intel社が、向こう5年にわたり米国の大学に$100M出資、同社の大学spendingでは5倍の増加、代表的には5年間$2.5M/年、米国内だけの研究センター向けの旨。

◇Intel earmarks $100M for US universities, changes academic research model-Intel changes its university researcher model, planning to invest $100 million directly into US university research and to create Intel Science and Technology Centers, opposed to running open collaboration centers near research universities. (1月28日付け Electronics Design, Strategy, News)
→Intel社が、向こう5年にわたって米国の大学研究に直接に$100Mを出資する計画、Stanford大から始める旨。

燃えて結集する目標、環境づくりのアプローチが続いている。


≪市場実態PickUp≫

爆発する市場展開の代表格、中国であるが、来る2月3日の旧正月を控えての動きである。

【春節(旧正月)を迎える中国から】

米中首脳会談を終えて、中国政府から次のメッセージが出されている。

◇中国、対米輸入額倍増へ 商務相「5年で年2千億ドル」 (1月22日付け asahi.com)
→中国の陳徳銘(チェン・トーミン)商務相が21日、米国からの輸入額を、今後5年で現在の倍の年2千億ドル(約16.5兆円)に拡大させると表明、中国が対米貿易の輸入額で具体的な目標数字をあげたのは初めて、オバマ政権が掲げる「雇用創出」「貿易赤字の削減」に協力する姿勢を示すことで、米国との協調関係を強める狙いがあるとみられる旨。

「13億人の経済ニュース」(biglobe配信)は、連日、中国の市場の激動ぶりをますます生々しく表わしている。

1月25日
◇英メディア「世界は『中国の時代』を歓迎」
◇中国 2015年に世界一の観光客受け入れ国に
◇「世界の市場」として高まる中国の存在感

1月26日
◇茅台酒の価格、約20年で187倍に、ぜいたく品消費の歪み反映

1月27日
◇茅台酒、池袋での販売価格は中国の半額
◇中国、4年後世界第2の消費市場に

1月28日
◇世界が注目する急成長中の中国超高級車市場

上記最後の超高級車市場については、ドイツで次の波紋を生じている。

◇VW to idle plant due to parts shortage (1月28日付け EE Times)
→ドイツの自動車メーカー、Volkswagenが、部品不足で月曜1日Wolfsburg工場を休みにすると決定、Volkswagen, BMWおよびPorscheがすべて、米国および中国でのドイツ車需要ブームで部品サプライヤに問題が出ている旨。

【携帯電話出荷】

2010年第四四半期の携帯電話市場で、これまた中国、ZTE社が出荷数量トップ5ベンダーに入り、中国メーカー初とのこと。同社は、中国からアフリカ、南米など新興経済圏で着実に市場を伸ばし、最近では欧米、日本にも進出しているという経緯である。

◇China's ZTE cracks handset vendor top 5 (1月28日付け EE Times)
→International Data Corp.(IDC)発。中国のZTE社が、2010年第四四半期handsetベンダーのグローバル販売高第4位に、中国メーカー初のトップ5入りの旨。
・2010年第四四半期handset出荷数量トップ5
http://www.eetimes.com/ContentEETimes/Images/110128_idc1.png
・2010年間handset出荷トップ5
http://www.eetimes.com/ContentEETimes/Images/110128_idc2.png

【業績発表】

景気回復で企業の情報関連投資が増え、スマートフォンなど個人向けも好調ということで、アップル、アマゾン・ドットコム、インテル、グーグルなどIT大手が売上高、純利益ともに四半期として過去最高を更新、という結果になっているが、半導体業界も以下の発表例となっている。  

◇Qualcomm raises outlook after record quarter (1月26日付け EE Times)
→Qualcomm社(San Diego)の12月26日締め第一四半期販売高$3.3B、前四半期比13%増、前年同期比25%増。
年間売り上げについて、前回の$12.4B〜$13Bから今時点$13.6B〜$14.2Bと予想している旨。

◇サムスン電子、半導体部門の営業益47%減、10-12月 (1月28日付け 日経 電子版)
→韓国・サムスン電子の2010年10-12月期全体売上高41兆8700億ウォン(約3兆239億円)、前四半期比4%増。全体営業利益は3兆100億ウォン(約2174億円)、同38%減。半導体、液晶パネル両部門が価格下落に見舞われ減速感が強まったものの、スパートフォンが好調、全体では日本の総合電機を上回る高い利益水準を維持している旨。

【設備投資】

最先端ファウンドリー対応プレーヤーが絞られていくなか、その一角のTSMCが、強気な市場の読みと設備投資踏み上げを発表している。

◇TSMC ups capex, outlook mixed (1月27日付け EE Times)
→TSMCが、2011年capital spendingについて当初予算の約$6Bを約7.8Bに上方修正する旨。
また、2010年12月31日締め第四四半期連結売上げが$3.786B、前四半期比1.9%減、前年同期比19.6%増。

◇TSMC more upbeat on sales, chip market outlook for 2011 (1月28日付け DIGITIMES)
→TSMCのchairman and CEO、Morris Chang氏が、27日のinvestors conferenceにて、同社の2011年連結売上げ20%増を見込む旨。以前は15%以上としていた旨。


≪グローバル雑学王−134≫

国土面積、人口からこんどは政治・経済関係の指標に入っていく。まずは、我が国が最近中国に第2位の座を譲ったばかりのGDP(国内総生産)について、

『世界の国 1位と最下位 −国際情勢の基礎を知ろう−』
 (眞 淳平 著:岩波ジュニア新書 664)…2010年9月17日 第1刷 発行

よりいろいろな切り口の興味深いデータの以下オンパレードである。経済交流拡大のインパクトと歪み、本当の幸福感とは何か、と考えさせられることが次々沸くところがある。


第II部 経済・政治

第3章 GDP(国内総生産)

□西暦1年以降のGDP
・西暦1年当時 インド→GDP世界全体の約33%
          中国(漢王朝)→26%強
          ローマ→漢と同程度かそれよりも若干少
・1000年、1500年時点 
 インド、中国 →世界のGDPの25%前後
 ヨーロッパは小国に分裂
・その後は、ヨーロッパのGDPの割合が増えていく一方、アジアは少しずつ減
    1600年  1820年  1913年  1950年
 インド 23%   16%    8%    4%
 中国  29%   33%    9%    5%

□ヨーロッパとアメリカ
・西ヨーロッパ各国の合計 20% 24% 34% 26%
・1913年から1950年までの間
 →ヨーロッパ各国の国土が荒廃: アメリカが台頭
・アメリカのGDP     0.2% 2% 19% 27%以上
・日本 →1955年以降の高度成長期〜   急増して8%弱に
      1990年代              15%を越えた時期も

□アメリカの経済
・アメリカのGDP…約1240兆円(2007年) 
 →世界GDP合計(約4910兆円)の25%強
・実は、19世紀末のこと、アメリカのGDPが世界一に
 →第一次世界大戦の前年、1913年時点ですでに世界全体の19.1%

□急激な発展とひずみ
・アメリカ経済の急成長 →多くの発明や発見が支える
               →たくさんの精力的な企業家たちの後押し
・一方の弊害 →一握りの巨大企業が支配する「独占」の問題
         →苛酷な職場環境に苦しむ工場労働者
・いくつものひずみと繁栄が交錯

□第二の経済大国になる中国
・2010年、GDP順位に大きな変化 →中国が日本に替わり第2位に
・もともと中国は伝統的に、高度な技術水準と巨大な経済規模、強大な軍事力を誇る国
・清の後半以降、状況変化
 →清では鎖国政策
 →各国の介入が、中国の経済と社会に大きなダメージ
・反転のきっかけ →小平が、1978年にはじめた「改革開放路線」
           …経済特区
 →1991年以降、経済成長率が毎年10%前後を記録
・ただし、高齢化の問題が今後の大きな課題

□EUという存在
・EU …ヨーロッパの主要国が加盟する連合体
   →もとは1952年に6カ国で始まった欧州石炭鉄鋼共同体
   →拡大して現在は合計27カ国におよぶ
・EUの域内 …ヒト、モノ、サービスそしておカネの自由な移動が保障
・西側の先進諸国が、人件費の安い旧東欧諸国に工場を建て、商品を製造するといったことは、日常的な光景に

□一体化しつつある経済
・EU加盟国のほとんどで、ほかの加盟国との国境におけるパスポートのチェックや税関検査などが廃止
 →「シェンゲン協定」(Schengen[Luxembourg] Agreement)
・統一通貨ユーロの存在
 →2002年1月1日から一般の人々の間で流通
 →2010年7月現在、ユーロに参加している国は16カ国
 →なかの国同士では、為替相場を気にする必要なし
  →それだけ貿易などが活発に

□ユーロ参加の代償
・ユーロの発行とその管理 →欧州中央銀行(ECB)
・ECBがユーロ圏全体の経済政策を管理
 →個別の国の状況には必ずしも合っていない政策を取るという状況
・全体として見れば、EUへの参加によって、その国の経済が活性化されることは確か

□巨大なEU経済
・EU傘下のたくさんの機構
 →「欧州委員会」…内閣+行政機関。約3万人の専属公務員。
 →「欧州理事会」…「常任議長」職の設置(2009年12月「リスボン条約」発効)
 →「欧州議会」
・EU全体のGDP総額 →約1516兆円(2007年)
              →アメリカよりも大きい数字

□BRICsとネクスト・イレブン
・21世紀の主役のひとつに躍り出そうな国
 →BRICs …ロシアは今後、人口減少の影響が左右
 →ネクスト・イレブン
 …イラン、インドネシア、韓国、パキスタン、バングラデシュ、フィリピン、ベトナム、トルコ、エジプト、ナイジェリア、メキシコ
・人口規模が大きく、経済発展の可能性

□経済規模がいちばん少ない国
・経済規模がもっとも小さい国
 →中部太平洋のツバルとナウル
  →国民総所得(GNI)が約27億円(2008年)
   ※GNI…GDPに、海外の労働者からの送金などを加えた経済指標

□サントメ・プリンシペ
・次いで経済規模の小さな国
 →アフリカのサントメ・プリンシペ …ギニア湾上に浮かぶ島国
  →GNIは約144億円
・GDPの小さな国が貧困に苦しんでいる実態

□GNH?
・「GNH」…Gross National Happiness「国民総幸福」という概念
 →ブータンの国王、ジグメ・センゲ・ワンチュック氏が1976年に発表した考え方
 →指標として、「生活水準」「文化の多様性」「健康」「教育」「時間の使い方」「自然環境」「コミュニティの活気」など
 →ブータン国民の多くが、GDPの数字よりもGNHを重視
・世界にはGNHのような考え方があることも

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