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Global Trend 2040のTechnologyの章を読んで(後編)―超結合世界とは何か

前編(参考資料1)ではGlobal Trend 2040のTechnologyの章、中でもIT関連を中心に、随所に拙いコメントを付記しながら抄訳の形で内容を紹介した。しかしながら前編の図1で何が何と超結合(Hyperconnected)されるのか、どういう意味でHyperconnectedという言葉を使っているのだろうか、これまでのIoTの説明などで一般に使われている図と何が異なるのか、という点が明瞭にはなっていないと筆者は感じた。

そこで筆者は前編の図1と図2をドッキングする作業をしてみたところ、Hyperconnectedの意味をやっと理解したような気になれたので、その経緯と結果をまとめてみたい。プラットフォームを形成するにあたり、到来する時期によってはプラットフォーム同士の結合も重要な意味を持つようになるので、そこに図1では説明しきれない新しい世界が拓けると思ったからである。そこからプラットフォーム構築を業としているベンチャー企業にも参考になる指針が得られると愚考した。

以下、前編図1と図2のドッキング作業の結果と、そこから見える世界、それを想定したプラットフォーム構築上の注意点などをまとめ、順に記述する。図1の周囲の要素技術もそれぞれプラットフォームを形成していると考えるところがポイントである。

AI技術の発展の軌跡から見た超結合の世界

下表は前編で使用された図1の超結合の世界(Hyperconnected World)と図2のAI技術発展の軌跡の両図を元に、筆者がまとめたものである。


表1 前編図1と図2から品質機能分解法にならって筆者が作成したAI発展の軌跡と要素との結合の度合い

表1 前編図1と図2から品質機能分解法にならって筆者が作成したAI発展の軌跡と要素との結合の度合い 最も結合度合いが強い場合を◎、普通の結合強度を太い〇、今後結合される、あるいは発明当時は無かったが、その後結合した技術を細い〇印で表示している


縦の列に年代順に図2の軌跡として示されている各技術を取り、横の行に図1を構成する要素技術を時計回りに左から示している。そして品質機能展開法(参考資料2)にならって、それぞれの行と列の交差点にて、縦横の技術の結合強度を記号で示した。ここでは最も結合度合いが強い場合を◎、普通の結合強度を太線の〇、今後結合される、あるいは発明当時は無かったが、その後登場して結合した技術を細線の〇印とした。

1970年代に実用化された航空機の自動操縦技術(図2及び表1のAirplane autopilot)を考えてみよう。当然この時代はロボティックスの概念で生まれた技術である。松本甲太郎、渡辺顕による「航空機の知能化」についての論文(参考資料3)に詳しく経緯が示されているので引用させて頂くと、「自動操縦技術は1970年代初めから急速に進展して搭載機器のデジタル化(AI)、光技術の導入、誘導・制御・航法の自動化(Robotics)、CRT ディスプレイによる統合表示(Human-Machine Interface)が進められた」とのことである。( )内は表1に記載した要素技術と対応させたものである。そしてこの論文が発表された1990年代には、AIの性能も良くなりFly-by Wire(参考資料4)になり、さらに計算手法を向上(Advanced computing)させたAIを用いてFly-by-Intelligenceが検討されている。そして現代はネットワーク技術(Communication networks)の進展で航空機と管制塔間の通話技術や、航空機内あるいは管制塔などで使用されているコンピュータ内の計算手法なども大幅に改善されていることは周知のとおりである。また軽量化を目指してカーボン繊維などが新材料(New material)として使われるようになり、上記の各種技術の性能が発揮しやすくもなったことであろう。現代では新しく開発された材料による半導体素子も多数搭載されて自動操縦に貢献している。

こう考えてくると、この表1の二次元の縦横行列だけではなく、表に垂直な時間軸をもう一つ考えねばならない。もし二次元で考えるなら、時間軸を考慮して、後日発展あるいは結合して生まれた技術成果を、その二次元面に投影した表にしなければならない。ハイパーとはこのような三次元で重なり合う、多重構造の結合を念頭に置いた考え方で整理するとその意味が理解できるのではないかと気がついた。

1980年代を代表しているアンチロックブレーキ・システム(Antilock brakes)は耳新しい言葉なので、前編(参考資料1)でも解説しておいたが、このブレーキは自動車や鉄道で急ブレーキをかけた時に、スリップするのを制御する機能で、そこには開発の長い歴史がある(参考資料5)。やっとこの年代にホンダをはじめ各社が搭載するようになって、急速に実用化され普及した。そのメカニズムや性能テスト結果なども出版されている(参考資料67)。

この技術も当初はRoboticsが主であろうが、すぐ電気系統の改良が進みAIとHMI(Human Machine Interface)が関与するようになった。AIが絡む時点で、例えば鉄道網では情報処理理論Communication Networks)、また自動車のAdvanced computingの進展も欠かすことができなくなり、今後は新しいブレーキ材料、新しいタイヤ材料、新しい電子部品と結合したブレーキシステムも登場すると容易に考えられる。ブレーキ材料や新しいタイヤ材料は材料のプラットフォームを形成しているだろうし、電子部品もまたAIプラットフォーム内の構成要素として構築されているだろう。

1990年代のAIの軌跡としてEmail spam filterが取り上げられている。これは改めて説明するまでもなく、迷惑メール除去のフィルタであり、メールの内容で分別する方式から、タイトルや使われている単語でディープラーニングを駆使して識別する方式などいろいろな種類がある(参考資料8)。その歴史もネットを調べるとすぐ明らかになる(参考資料9)。それによるとその起源は1990年中ごろ、インターネットが普及し始めた頃にさかのぼると記されている。SPAMという缶詰がspamの由来という記事なので、興味とお時間がある方はそちらをお読みになられるとよい。

これはCommunication Networksの範疇であるが、AI、IoTの範疇でもある。ディープラーニングを使うということでAdvanced Computing技術も関連するし、自動識別という意味からRoboticsにも弱いながらも結合するだろう。

2000年代以降の音声認識や2010年代の顔認証、そして2010年から2020年代にかけて自動運転がそれぞれの年代の代表として取り上げられているが、ここまでくるとセミコンポータルの読者層には もう個別の説明は不要と思われる。

表1より明らかなように2000年代以降の技術にはAIが強く結合する形となり、ほぼすべての要素技術と関係するのが一目瞭然である。しかも自動運転に至ってはAIかRoboticsか、どちらに◎印をつけるべきかで悩むほど、両者と強固な結合が形成されている。

要するに時代と共に主たる要素技術と他の要素技術間の結合が進み、またそれぞれの要素技術が時代と共に発展改良される過程で、他の要素技術とも結合しており、三次元での時間軸を考えると、投影される二次元面ではどれが主でどれが従と言えないほど錯綜し、多重結合していく様子がわかる。しかもそれぞれの要素技術はそれぞれでプラットフォームを形成していることも、当然考えねばならない。

超結合の世界を示す適切な図はどうあるべきか

上記のように思考を巡らせると、前編図1はこれでよいのだろうかと疑問に思えてくる。むしろ次の図3のようにもっと広範囲な結合を強調すべきではないだろうかと感じた。筆者はいわゆるPCによるお絵かきがうまくできないが、個々の要素技術、あるいはそのプラットフォーム同士が強固に結合しているような重厚な世界、あるいはシステムを感じ取って頂けるとありがたい。あるいは東京ドームの円天井が個々の要素技術のプラットフォームの柱で支えられているような空間をイメージしてもよい。但しその柱や天井の梁の太さは場所と時期により太さが変る。


図3 本編の表を考慮して前編図1を書き直したHyperconnected Worldの概念図

図3 本編の表を考慮して前編図1を書き直したHyperconnected Worldの概念図 ただし要素技術間の線は結合の可能性を示すもので、結合の度合いを示すものではない。時代のよってさらに太い度合になる場合もあれば、逆の場合もありうる。各要素技術はそれぞれのプラットフォームを形成している場合も考えるものとする。


プラットフォームを構築するときの注意事項

この図3からわかることは、プラットフォームを構築する場合は一つの概念に縛られることなく、他の要素技術や、他のプラットフォームを受け入れられるような構造設計をすべきだということである。もちろん、個々の専門性や効率も考えねばならないので、ケースバイケースであるが、初めからnot invented hereと他者を受け入れないのではなく、他のプラットフォームを受け入れて、相乗効果を発揮し、いつでも自分自身のプラットフォームも大きく拡大できるような構造にしておくことが重要と考える。そして、世界の進歩に追随し、あるいはリードしていく気構えが必要と思う。

異なるプラットフォームを統合するということは、例えばM&Aで統合された銀行のコンピュータシステムがなかなかうまく動かないという事例からもわかるように、そのプラットフォームが大きければ大きいほど困難を伴うと予想される。つまり生い立ちが異なるプラットフォーム間の統合は一筋縄ではいかない。プラットフォーム間で個々の言葉の定義が異なるので、それを一つ一つ丁寧に合わせていく必要があることもその理由の一つである。しかしその困難を乗り越えなければ統合は果たせない。従って将来どのようなプラットフォームと統合するかということも考えながらプラットフォームの構築に当たらねばならない。

具体策の提案−標準化の促進が必要

そのためには筆者の経験では、予想されるプラットフォームの結合・合体を想定して、地味ではあるが、業界内での標準化が欠かせない。例えばJEIDA、JEITA時代を通して垂井康夫先生がシリコンウェーハの標準化に尽力され、業界の発展に寄与されたことを思い出そう。今からでもこのような活動をプラットフォーム構築に関して開始しておく必要があるのではなかろうか。垂井康夫先生のお言葉をお借りするとしたら、「基礎的共通的」(参考資料10)な要素は共同で開発し、あるいは標準化しておくことが望ましい。「地味ではあるが」と記したのは、この種の仕事は直ちに利益には結びつかないので、業界標準化に参画している実務者は、なかなか企業内で評価されないからである。ぜひトップの方々は重要性をお考えになられ、促進されるよう願っている。

筆者は先に日本国内のAIベンチャー企業の調査をしたことがあった。2020年10月28〜30日に開催されたリード エグジビジョン ジャパン主催の「AI/ブロックチェイン/量子コンピューティングEXPO 2020」において、サイト内の第1回AI・人工知能EXPO(秋)を対象にし、登場する企業や研究機関の全56ブースを見学し、ブース内セミナーも聴講して得た知見と、ダウンロードした資料を基に、この業界を調べた結果をまとめたことがある(参考資料11)。そこではGAFAMのような大企業だけではなく、プラットフォーム構築を業としておられるベンチャー企業も少なからぬ数が見受けられた(参考資料11のカテゴリーIV)。僭越ではあるがこのような企業の戦略にも本稿が何らかの参考になれば幸甚と愚考した次第である。

もちろん、プラットフォーマを生業としておられる企業の方々には、本稿は釈迦に説法かもしれない。またこのようなことは数名でGlobal Trend 2040 (前編参考資料2)を輪読し、お互いに忌憚のない討議をすれば、コロンブスの卵で、すぐ到達できるという解釈もあると思う。あるいは前編で図1、図2を見て初めからこのGlobal Trend 2040にはそう書いてあると理解された方からは、そのようなことは当然ではないかという誹りを受けるかもしれない。その節は80歳を越した、一人の老人の戯言とお笑いいただいて、御容赦願いたい。

まとめ

以上、本編では原典で使われている「超結合世界」の意味を読み解き、それを敷衍して考察した。超結合世界はいくつかの関連する要素技術の結合で構成されており、その要素技術もまた関連技術と結合してプラットフォームを形成するようになろう。そうなると前編で予測した“技術の収斂でスパークが発生しイノベーションが起きる”ときにはプラットフォーム間の結合、時には重層結合を考えておかなければならない。そのプロセスを円滑、迅速に進めて世界をリードするには、標準化が欠かせない。プラットフォーム構築にあたってはそのことも念頭に置かねばならないという趣旨である。

謝辞 いつものようにセミコンポータル編集長 津田建二様には前編後編を通してご査読いただいた。ここに厚く御礼申し上げるとともに、お読みいただいた読者にも御礼申し上げたい。

技術コンサルタント 鴨志田 元孝

参考資料
1. 鴨志田元孝、「Global Trend 2040のTechnologyの章を読んで(前編)〜ますます競い合う世界」、セミコンポータル (2022/01/13)
2. 品質機能展開法に関わる事例は、例えば少し古いが鴨志田元孝, 「改訂半導体実践工学」、 丸善刊 (2013年第2刷)、p.52 表2.3がその一つである。あるいはネットでも「品質機能展開表の書き方 - QFDを簡単に実施」、Edrawが判り易い。
3. 例えば、松本甲太郎、渡辺顕、「航空機の知能化について」、日本航空宇宙学会誌 第38巻(437号)pp.276-283 (1990/06)
4. FBWとは電線だけでなく間にコンピュータを経由して油圧や電動アクチュエータを動かして操舵するもの。「フライ・バイ・ワイヤ機とは普通の機体と何が違うのでしょうか?」、Yahoo!知恵袋
5. 例えばD. Hartman, "The history of ABS Brakes", Leaf Group
6. 例えばRoyal Automobile Club of Victoria, "Effectiveness of ABS and Vehicle Stability Control Systems", RACV Research Report No. 04/01, (2004)
7. 例えばNelson Science, "Forces Applied to Automotive Technology"
8. "Email Spam Filtering: Different Methods & How They Work", Fortinet
9. "History of email spam", Wikipedia
10. 垂井康夫編著、「世界をリードする半導体共同研究プロジェクト」、工業調査会刊(2008)第1章超LSI共同研究所」、世界をリードする半導体共同研究プロジェクト、pp.13-42 中でも「基礎的共通的」はp.15
11. 鴨志田元孝、「AI・人工知能EXPO2020(秋)に出展した日系ベンチャー企業の発展を祈って」、セミコンポータル (2021/02/05)

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