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AIやディープラーニングによる革新的な生産技術の早期構築を期待して(前編)

今年もまた国際画像機器展2019 (International Technical Exhibition on Image Technology and Equipment 2019、以下ITE 2019と略記)が12月4日-6日にパシフィコ横浜で開催された(参考資料1)。筆者は10年以上前に、超音波診断装置が描出する画像データの原理を知りたくて、見学するようになったのが、この展示会を訪れるようになったきっかけであった。

これまでの間に、囲碁・将棋の世界でコンピュータが人に勝ったなどと騒がれ、譜面を読み取る画像技術が人目を集めた時代もあった。4K、8K技術が開発されていた頃は、医療現場、特に手術現場の生々しい画像が展示されて、生物系ではない身にはあまりにも生々しく辟易したものである。青色レーザーダイオードをはじめ、各種化合物半導体の発光素子の波が来たこともあった。

今や時代は大きく変わりAIやディープラーニング関連機器の展示が一般化しており、この技術が急速に製造技術、あるいは更に広い意味で生産技術の中にも浸透している。世の技術進展を予測するのに、地味ではあるが画像技術の動向を見ておくのも一つの参考になる。

前編では、ITE 2019のトピックスとしてIoTやAI、ディープラーニングに関連する部材、デバイス、ソフトウエアのそれぞれの中から「液体レンズ」、「ToF(Time of Flight)光源デバイス」、そして「AI評価ツール」を取り上げて、現状動向をまとめてみる。後述するように、開発期間短縮の傾向も著しい。従って開発段階にあるか、またはノウハウに属する範囲なのでまだ公表されていない分野への展開も、技術動向を探る場合は常に念頭に置かなければならない。その意味で後編では、AI、ディープラーニング技術の製造技術への展開に関し、今後予想される一分野としてFMEA(Failure Mode and Effects Analysis)の革新を取り上げる。

ITE 2019での部材、デバイス、ソフト分野での動き

液体レンズを実装した先進画像技術(参考資料2)

液体レンズはここ2〜3年の展示会で目に留まるようになった部材である。筆者は当初、液浸露光装置が念頭に在り、硝材に液体を使ったレンズぐらいに考えていたが、これはそのような固定焦点レンズではなく、形状を変えることのできる光学液体材料を用いて、電子的に高速で焦点を合わせられるレンズのことである。

IoTエッジデバイスやロボットなどに広く使われるビジョンセンサには、イメージセンサデバイスの画像処理速度と共に、焦点距離調整やズーム制御などの光学特性制御の高速性が要求される。ところが電気的に動作する前者に対して後者には機械的な要素が入るため、後者で応答速度が制約されてしまう。

解決策の一つとして、高速に焦点を変えられるレンズの開発が求められていた。東京大学の奥寛雅氏らはその可能性に関するレビューペーパーを既に2008年の第26回日本ロボット学会学術講演会で報告している(参考資料3)。そこではピエゾアクチュエータを用いて可変焦点を実現した1997年の金子氏らの技術(参考資料4)と共に、2004年の奥氏らの技術(参考資料5)が先行技術として報告されている。更にその報告では奥氏らによるダイナモルフレンズ(Dynamorph Lens)が提案され、高速応答可変焦点レンズとその高解像度が示されていた(参考資料3)。

この分野の現状技術の一例として、ITE 2019ではエドモンド・オプティックス・ジャパン社(Edmund Optics Japan)(参考資料6)が液体レンズを実装したテレセントリックレンズ(参考資料2)を展示していた。テレセントリックレンズ技術とは、焦点がずれても像の大きさは変わらないレンズ(参考資料7)である。つまり液体レンズで素早いオートフォーカスを実現し、かつテレセントリック技術で焦点を合わせる作動距離範囲も拡大したとうたっている。学会レベルの揺籃期からこのような実用化まで15〜20年程度かかっている。

ToFレーザー光源測距デバイスの普及

ToFレーザーは光パルスを用いてその飛行時間から、出射点と対象物との間の距離を測定するデバイスである。武田計測先端知財団(理事長唐津治夢)(参考資料8)では、ヤング武田賞を贈賞し若手の起業家を支援している。2014年の第2回ヤング武田賞で静岡大学の安富啓太氏が「ToF 法を用いた三次元スキャナ用高分解能イメージャの開発」でその優秀賞(参考資料9)に輝いている。安富氏の開発品は対象物の三次元形状を読み取るイメージセンサであり、三次元スキャナなどに使える。安富氏は画素を二次元上に配置したときに生じる制御クロックの遅延時間差の影響を解消する補正回路を考案して、世界最高の距離分解能0.3mm を実現したと述べていた。安富氏らは知的財産権を確保したうえで、このイメージセンサをISSCC 2014で発表している(参考資料10)。

数年前から画像機器展示会や関連展示会でこの種のToFデバイスが見受けられるようになった。今回のITE 2019でもカナダのOsela Inc.(参考資料11)が製造した「TOFレーザー光源」(カタログ名)が紹介されていた。詳細な仕様は省略するが、日本では螢侫トレックスが総代理人となって販売しているとのことである(参考資料12)。

また本稿をまとめている最中にも、2019年12月5日発行の電子デバイス産業新聞にて特別編集委員の泉谷 渉氏によるソニー清水照士常務のインタビュー記事(参考資料13)を読む機会があった。それによるとソニーは2015年にベルギーのソフトキネティック・システムズ(Softkinetic Systems S.A)を買収して(参考資料14)得たToF技術に、ソニーの裏面照射型イメージセンサの技術を融合させて、測距精度を格段に向上できたとのことである。モバイル用に立ち上げ、順次産業用に普及させていくと記載されている。わずか6~7年のうちに、既にToF技術と他の技術との融合が始まっている。あらためて科学技術の実用化速度が速くなっているのに驚かされる。

画像処理メーカーが提供するAI評価ツール

AI・画像処理技術やディープラーニング技術を用いて、製造現場で物体を検出し、自動的に配列作業をすることなどはもう当たり前になっている。また検査現場など目視検査作業現場に驚異的な速度で広がっていることは、あらためて指摘するまでもない。今回もこの種の展示が多く紹介されていた。これらの分野では、現状では実用化までに要する年月はもはや年単位ではなく、月単位であろう。

ここにきてまた一段階進んだという印象を受けるのは、そのAIを評価するツールが展示されるようになったからであろう。学会レベルでは相変化メモリを使ったニューロネットワークの精度に関する論文(参考資料15)も出ているが、今は既にニューロネットワークの評価ツールが市販されるまでに至っている。東京エレクトロンデバイスの傘下に入ったファースト社(参考資料16)の説明によると、同社の評価ツール(参考資料17)ではディープラーニングによる画像識別を試すことができ、学習曲線が表示できると紹介されていた。

学会誌でのAI、ディープラーニングの製造技術への浸透

ここまでAI技術関連の部材、デバイス、ソフト技術における現状の一端を画像機器展示会の例で紹介してきたが、実用化までの期間が驚異的に短くなっている。では先端を行く学会だけでみた場合ではどのような経過をたどっているだろうか。

IEEE Transactions on Semiconductor Manufacturing誌で2013年と2018年、2019年の論文を当たってこの5〜6年間の差を検証してみた。半導体生産技術の学会誌なので、当然、生産管理やロット管理など統計的手法を用いた論文は以前からも多い。ここではそのような統計的手法やそれを行列式などで解いた論文は除き、主にAIやディープラーニングを駆使した論文をピックアップすることにした。ここでは学習という意味を広く解釈し、ラーニングを題材としている論文も含めて検索している。

AIやディープラーニングの定義にもよるが、2013年はゼロ件、広義にとっても1件しかない。それが2018年には7件、広義の解釈も含めれば8件、そして2019年には9件になって、急速に生産技術の学会誌にも登場する時世になっている。但し、この数字でもわかる通り、全体から見ればせいぜい10%程度で、まだ少ない。

これはAIやディープラーニング を用いた技術は社外秘に属する面が多いからであろう。過去、洗浄技術や静電気対策はノウハウなので論文として公表されてこなかった例もある。実用後数十年経過して、やっと自然に公表されるようになったものが多々あるのと同じで、今後その時期になったら、多数の論文が出てくると思う。

従って上記三つの例だけでもわかるように、開発実用化の期間が著しく短縮化されている現状で技術動向を探る場合は、単に学会や業界紙などで公表されている技術だけではなく、学会誌レベルには表に出ていない段階の技術でも、即ち現在進行形で潜在的に進んでいる動向も可能な限り推察して、探索する必要がある。

AIやディープラーニングによる革新的な生産技術の早期構築を期待して(後編)

参考資料

  1. 国際画像機器展2019
  2. 液体レンズを実装した先進画像技術
  3. 奥寛雅, 門内靖明, 石川正俊,”ミリセカンド高速液体可変焦点レンズとそのロボットビジョン応用への可能性,” 第26回日本ロボット学会学術講演会 RSJ2008AC311-03(2008年9月9日―11日)
  4. T. Kaneko, T. Ohmi, N. Ohya, N. Kawahara, T. Hattori, “A New, Compact and Quick- Response Dynamic Focusing lens,” TRANSDUCERS ’97, vol.1, pp63-66 (1997).
  5. H. Oku, K. Hashimoto, M. Ishikawa, ”Valuable-focus lens with 1-kHz bandwidth,” Optics Express 12, pp.2183-2149 (2004).
  6. Edmund Optics Japan
  7. テレセントリック講座
  8. 武田計測先端知財団ヤング武田賞
  9. 武田計測先端知財団ヤング武田賞受賞者発表
  10. SM Han, T Takasawa, T Akahori, K Yasutomi, K Kagawa, S Kawahito,“A 413× 240-pixel sub-centimeter resolution Time-of-Flight CMOS image sensor with in-pixel background canceling using lateral-electric-field charge modulators,” Solid-State Circuits Conference Digest of Technical Papers (ISSCC), 2014
  11. Osela Inc.については
  12. TOF(タイム・オブ・フライト)レーザー光源、製造元;Osela, Inc、日本総代理店螢侫トレックス
  13. 泉谷渉, “特別インタビュー ソニー蠑鑢魁“焼蛎了業担当 清水照士氏 19年度国内半導体で初の首位へ,” 電子デバイス産業新聞 (産業タイムズ社)2019年12月5日第2375号 1面および3面
  14. 例えば、ソニー、距離画像センサー技術のSoftkineticを買収。撮像以外の用途拡大へ
  15. 例えばS. Ambrogio, P. Narayanan, H. Tsai, R. M. Shelby, I. Boybat, C. di Nolfo, S. Sidler, M. Giordano, M. Bodini, N. C. Farinha, B. Kileen, C. Cheng, Y. Jaoudi, G. W. Burr, “Equivalent-accurasy accelerated neural-network training using analogue memory,” Nature 558, 60- (2018)
  16. 株式会社ファーストの株式の取得完了(子会社化)に関するお知らせ
  17. (株)ファースト, “画像処理するメーカーがご提供するAI評価ツール,” カタログNo. 190930 B-003542

(2019/12/25)
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