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24年の半導体生産は前年比15%増の活況に〜AI搭載でスマホ、PCが再成長!

2024年の半導体市況については、さまざまな意見が取り沙汰されている。世界最大の半導体消費市場である中国経済の低迷、さらには新型コロナウイルスからの復興の遅れなどを理由にネガティブな見方をする人たちが多い。しかし超ポジティブの立場をとる筆者は決してそうは考えない。結論を先に言えば、2024年の世界半導体生産額は前年比15%増を達成すると見ており、90兆円の大台乗せも十分にあり得ると考えているのだ。

泉谷渉の視点

その最大の理由はなんといってもAI向け半導体の開発の超加速と量産体制への移行にある。考えてみれば、自動車の自動走行運転、ロボットに代表されるFA(Factory Automation)、メタバース革命で実現されるAR(拡張現実)、VR(仮想現実)、MR(混合現実)など全てのコアは半導体にあるわけだが、とりわけAIはその進展に最大の貢献を果たすからだ。そしてまた、SDGs(持続可能な17の開発目標)革命の進行の裏にも半導体は陰の主役として存在しているが、その分野にもAIの知恵は活かされる。

そして何よりもチャットGPTに代表される生成AIが端末に搭載されてくるという動きがここまで早まるとは誰も思っていなかったであろう。サムスンのギャラクシーの新シリーズにはAIチップが搭載されている(編集注1)。このことでさまざまなミラクルが起こるのであるが、その最大のものは外国人と会話する時に普通に日本語でしゃべれば、ただちにスマホが音声でその国の外国語に通訳してくれるのだ。いずれ数十カ国語ぐらいの言語に対応できるとも聞いている。これが革命でなくて何だろう。通訳の仕事をしている人は戦々恐々となってしまうのである。

もちろん、アップルにしてもファーウェイにしても大手のスマホメーカーは着々とAIチップ搭載の最新版を用意しているのだ。そしてまた、通常我々が活用しているパソコンにもAIチップは搭載されてくる(編集注2)。これによって、パソコンによるメタバースなども、かなりリアリティのあるものとなるだろう。それゆえに、筆者はここにきてパソコンとスマホ市場がシュリンクするとは言わなくなってきている。

筆者はパソコンとスマホの出荷台数は再上昇に転じるとの見方を強めてきた。パソコンのピークは2014年頃に世界出荷4億台を記録したが、その後落ち続けてコロナによるテレワーク特需があった時には盛り返したが、再びトーンダウンし現状は世界出荷2億5000万台程度となっている。スマホは、コロナの1年前には世界出荷15億台を記録し、ピークを迎えたがその後、急速に落ち続けて2023年については、おそらく11億台ほどになってきたと予想している(編集注3)。

ところがである。言うところのAIチップ搭載のインパクトにより、パソコンもスマホも再び力強く上昇するとの考え方を取らざるを得ないと、筆者は過去の主張に対し訂正を余儀なくされているのである。

それにしても、世界人口は80億人であるが、そのうち10%の8億人はまったく文字の読み書きができない。そしてまた、現状においても人類の半数はスマホもパソコンも持っていない、という事実をよく考えてみる必要はあるだろう。経済格差と貧困は、いまだ解決されない問題だからである。

産業タイムズ社 代表取締役会長 泉谷 渉

編集注
1 .ギャラクシーに限らず、AppleのiPhoneやGoogleのPixelスマホなどでもAI機能が載っている。AIと気づかず便利な機能として使われている用途が多い。プロセッサとなるSoCにはAI専用回路を集積する傾向が強まっている。知らないうちにAIが入り込んでくることになりそうだ。
2. Intelの最新PC用プロセッサ「Core Ultra」には生成AIをオフラインで使えるほどの能力の高いAI専用プロセッサ回路が集積されている。Intel社は昨年末の発表会で絵画を出力する生成AIをオフラインでデモしている。
3. 新製品のスマホとパソコンの市場は飽和してきているが、IDCによると代わって中古市場が拡大し続けている。これはクルマと同様の傾向を示している。加えて、システム内のコンテンツ(半導体などの技術)に新製品の半導体が次々と採用されている。

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