東芝、NANDフラッシュで世界一へ〜なでしこジャパンのスピリッツと同一か
「なでしこジャパンのワールドカップ優勝の瞬間には、涙が出て止まらなかった。株価も長期低迷し、円高も加速し、産業のあらゆる分野での日本敗退の報が相次ぐ中で、なでしこが日本国民に与えた勇気は計り知れないものだろう」。
半導体デバイス業界のある幹部のインタビューをしていた時に聞いた言葉である。ニッポン半導体の世界シェアはじりじりと後退し、先頭を行く米国勢の背中が遠くなるばかりだ。それどころか、急追する韓国勢、台湾勢の足音がすぐそこに迫っている。重化学工業の分野でも、あれほどまでに強かった鉄鋼や造船の世界的な地位が大きく後退している。こうした中でのなでしこジャパンの戦う女性たちの姿は、実に美しかった、と言ってよい。もっともMVPの澤穂希選手は、「国民栄誉賞」受賞を国民栄養賞受賞だと思っていた、とおっしゃるばかりなので、本人たちが本当の価値をわかっていないのかもしれない。
さて、死に物狂いで世界と戦い、臥薪嘗胆の日々を送って、なんとしても世界トップを獲得する、というのは、なでしこジャパンばかりではない。半導体業界においても、今、そのミラクルが起きようとしているのだ。スマートフォンやタブレットPCのストレージメモリーとして急上昇中のNANDフラッシュメモリーの分野において、東芝が首位を行くサムスンを捕らえ始めた。2011年通期で言えば、まず間違いなくフラッシュ世界チャンピオンの座を射止めるだろう。
ほんの数年前までは、サムスンのメモリー分野はまさに無敵艦隊とも言うべき強さを誇り、DRAMで断然のトップ、NANDフラッシュメモリーも6割以上の世界シェアという有様であった。2位を行く東芝・サンディスク連合は、頑張っても頑張ってもまったく追いつけなかった。ところが、である。2011年1〜3月期において、サムスンと東芝の世界シェアは金額ベースでいずれも40%弱という状況が生まれ、ほぼ並んだと言える状況だ。4〜6月期においては、おそらく東芝がわずかながらサムスンをさし切ったと見られている(編集室注)。
もともと数量においては、すでに東芝はサムスンを凌駕しているのだ。しかし、金額面で負けていた。なぜなら、サムスンがもっとも得意とするのは、サーバーおよびパソコン向けのフラッシュメモリーであり、これらの製品は皆、価格が高い。これに対して、東芝が強みを持つのは、デジタルカメラや音楽プレーヤーなどに使われるメモリーカード、さらにはデジカメ内蔵メモリー、ノートPC、携帯電話などの価格の安い分野であった。しかしここに来て、スマートフォンやiPadなどで東芝が勝ち取る搭載品目が増えてきており、これが金額を押し上げている。要するに、数量面においても、金額面においても、2011年通期で東芝が打倒サムスンの悲願を達成し、世界トップに躍り出ることになるのだ。
量産プロセスにおいても、東芝はサムスンの一歩先を行く。主力の三重県四日市工場は、すでに23nmレベルの量産が始まっている。これに対してサムスンの主力プロセスは27nmレベルであり、東芝の後塵を拝している。
「NANDフラッシュメモリーの次の主戦場はスマートグリッドだろう。クラウドコンピューティングが駆使されるスマートグリッドにおいては、サーバーをはじめとするメモリー需要が急速に高まる。ここを獲れるかどうかで、東芝とサムスンの第二ステージの行方が決まるだろう。」
こう語るのは、ベテランアナリストの南川明氏(IHSアイサプライジャパン 副社長)である。現状でサーバー系やパソコン系に強いサムスンが、スマートグリッドについても有利に商戦を進めると一般的には見られている。しかしながら、東芝は一方で、原子力発電プラント世界1位であり、あらゆるエネルギーの分野において世界的にその地位を築いている。つまりは、マーケットインに限れば、東芝の方がユーザー開拓という点で有利に働く。このいずれともつかないフラッシュ2強の死闘は今後も長く続くだろう。
それにしても、東京都知事の石原慎太郎の放言はすさまじい。この間もテレビインタビューで「女性は皆、すばらしい。なでしこジャパンは根性の塊だ。これに比べて男は皆ダメだ。だらしがない。戦う気迫がない」と声を荒げ、そのうえで、「自分も男だから、やっぱりダメだ」などと自虐的なことを言っていた。わが国において、女性の時代本格到来というならば、いっそ次のリーダーを女にしてしまえ、と思うのは筆者だけだろうか。
編集室注)
東芝は2011年第1四半期まではサムスンに接近していったが(参考資料1)、残念ながら第2四半期では逆に大きく差を開けられてしまっている(参考資料2)。
参考資料
1. NANDフラッシュ市場で首位サムスンをじわじわ追い詰める東芝 (2011/02/09)
2. サムスンとの差を再び大きく開けられた東芝のNANDフラッシュ (2011/08/02)