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韓国・漢陽大学の産官学協業の熱心さに驚嘆:集中講義してきました!

韓国仁川(インチョン)国際空港の南50kmに位置する京畿道安山(アンサン)市に漢陽(ハニャン)大学ERICAキャンパスがある(注1)。ERICAとは、Education Research,Industry Cluster at Ansan(安山における教育・研究・産業集合体)の略で、文字通り、巨大キャンパス内に、評判の高い工学部はじめ9学部42学科の校舎や研究棟のほか、Korea Electrotechnology Research Institute など3つの韓国国立研究所やLG Innotek などの民間企業の研究所、韓国大手インターネット・サービスプロバイダであるKAKAOの巨大データセンタや多数のスタートアップの事業施設などが同居している。


Entegrisなどが漢陽大学キャンパスに研究棟

筆者は、後述するように所用で同大学を訪れたが、クルマで広いキャンパスを走る途中で、半導体産業向けに先端材料やプロセスソリューションを提供する米Entegrisが研究施設「Entegris Korea Technology Center (KTC)」の建設中の現場を目撃した(図1)(参考資料1)。韓国の水原(スオン)にある研究施設が手狭になり、韓国の大手顧客のDRAMおよび3D NANDフラッシュメモリの特殊なニーズをさらにサポートするために事業拡張することにして漢陽大学と土地借用契約を結んだのだという。韓国政府が指定する「安山サイエンスバレー経済自由区域」(申請手続き中;日本の国家戦略特区に相当)に立地している(図2参照)。


図1 漢陽大学キャンパス内の経済自由地域(申請中)に建設中のEntegris Korea Technology Center完成予想図 出典:漢陽大学


図2 漢陽大学ERICA キャンパスの韓国経済自由地域予定地域の完成予想図 赤線で囲んだ第一期計画地の一番手前の建物がEntegris研究施設。その手前の楕円形の建物は同大学の陸上競技場 出典:漢陽大学


漢陽大学のキジョン・リー学長は、「Entegrisの研究所は、本大学と企業の両組織の将来の成長にとって重要な節目となると確信している。Entegrisとの協力は、私たちの学生や研究者にさらなる機会を提供するとともに、半導体業界の革新に貢献すると確信している」と述べている。

来年末には、ソウルと漢陽大学ERICAキャンパス駅(仮称)間を30分で結ぶ韓国鉄道公社(K-Rail)の高速鉄道「新安山線」が開通する予定で、大学当局は、京畿道および安山市政府の産業振興支援を得てさらに多くの国内外企業誘致を図り、文字通り、教育、研究、産業一体となった産学共同活動の活性化を図ろうとしている。同キャンパスは、以前は安山キャンパスと呼ばれていたが、2009年にERICAキャンパスと改名し、韓国における産官学協業のモデルケースとなっている。


漢陽大学で朝9時から7時間連続集中講義でヘトヘト

筆者は、そのような漢陽大学工学部の知人の教授の要請で、去る6月20日に半導体クリーン化・洗浄技術(内容的には半導体製造技術)に関して朝9時から夕方5時まで7時間にわたる集中講義を行ってきた(図3参照)。今年2月にSEMICON KOREAのSEMI Technology Symposiumでの招待講演以来、今年2回目の渡韓である(参考資料2)。
著者が運営委員を務める米The Electrochemical Society (ECS)やベルギーimecが主催するこの分野の国際会議の発表件数や参加者が年々減少傾向にあるので、元気のよい韓国勢がこの分野にさらに注力して研究開発やその実用化に従事する人材が増えることを願って、このタフなタスクを引き受けることにした。主催は、同大学のJG Park 教授が主宰する韓国政府支援の「半導体グローバル人材育成事業」と「環境にやさしい半導体表面洗浄研究組合」。

韓国の材料工学系大学ランキングでトップクラスに位置する同大学の大学院学生(アジア各国からの留学生を含む)だけではなく、Samsung ElectronicsやSK hynixなどのデバイスメーカー、SEMESやSK Siltronなどの装置・材料メーカーのエンジニアなど多数の若い韓国人が熱心に聴講してくれた(図4参照)。


図3 漢陽大学公開講座の案内書 出典:韓陽大学

図3 漢陽大学公開講座の案内書 出典:韓陽大学


朝9時から夕方5時まで7時間にわたり、立ったままでマイクを握りしめて、韓国語はほとんど話せないので、慣れない英語(Japanese English?)で講義するのは、さすがに疲労困憊でヘトヘトになり、翌日は昼頃まで爆睡した。もともと日本国内での講義のために日本語で作成しておいた数百枚のテキスト図面を更新して英語に翻訳するのに数カ月を費やしたが、韓国の若いエンジニアから「示唆に富む内容で勉強になった」と言っていただけたので、苦労が報いられた思いがした。7時間付き合ってくれた若い韓国人学生や技術者の熱意には感心させられた。

図4 講義終了後に受講者との記念撮影 出典:漢陽大学セミナ―事務局提供



1. 漢陽大学:正式名称は、漢陽大学校(ハニャン・デハッキョ)。韓国では 4年制大学は大学校と呼ばれる。漢陽とは、韓国の歴史ドラマが好きな方にはおなじみの首都ソウルの古称。日本でいえば江戸といった感じ。同大学は、ソウル市内と郊外の安山市の2カ所にキャンパスがある。漢陽大学は、漢陽工科大学を前身としており、工学系学部の評判が高く、文学や経済などの一般的な学部のほか、医学、看護、薬学、芸術、音楽、体育、師範、家政などすべての学部(College)がそろっている。

参考資料
1. 服部毅、「Entegrisが韓国漢陽大学キャンパスに研究施設を設置、産学連携による事業拡張を推進」、マイナビニュースTECH+、(2024/06/27)
2. 服部毅、「半導体回復基調で大盛況だったSEMICON Korea:招待講演してきました!
セミコンポータル、(2024/02/14)

Hattori Consulting International代表・国際技術ジャーナリスト 服部 毅
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