「サプライチェーン分断で収益低下懸念 」「TSMCの寡占化が半導体不足の要因」
「半導体不足、解決の決め手は何か」をテーマとするSPIフォーラム(セミコンポータル主催)が去る11月26日にオンラインで開催された。参加されなかった方々のために、簡単に講演内容を紹介するとともに、参加者に対しておこなわれたアンケート結果も紹介する。
まず、司会の津田編集長が「ここまで半導体不足が長引く要因の一つが、半導体市場の拡大であり、 車載向け半導体不足から始まり、スマートフォンやパソコン、サーバー、IoTや組み込み系まで拡大し、フル操業しても追いつかないほどになっている。半導体不足の解消に向けて、半導体工場の建設や設備投資の追加も始まっている。 現状はどうなっているのか、産業界をウォッチし続けている方々に見解をお聞きする」として、講演者を紹介した。
「サプライチェーンの分断で収益低下が懸念されている」―稲葉氏
まず、電子デバイス産業新聞編集長の稲葉雅巳氏が「半導体市場から見る設備投資の動向」と題して、取材結果をもとに講演した。要点を箇条書きで示す。
・コロナ禍、米中摩擦により半導体の重要性が増している。各国各地域で半導体振興が国家戦略の一つになってきた。このため、グローバルなサプライチェーンの分断が起こりそうで、実際の需要以上の設備投資が行われようとしている。
・欧米と日本で半導体の工場誘致が相次いでおり、世界各地への工場分散による半導体メーカーの収益性低下が今後の懸念事項となっている。熊本のTSMCファブも同様である。
・スマートフォンなどセットの売り上げが伸びてないのに半導体だけが伸びるという不思議な現象が起きている。年明けに一時的な在庫調整がある見込みである。半導体は長期的に成長することは間違いないが、2022年年明け以降は潮目の変化に注意する必要があろう。
・前工程ウェーハファブの設備投資は、2021年、前年比4割超の成長を遂げる。特にファウンドリ/ロジックとDRAMが成長をけん引している。2022年は、ロジックがプラス成長、メモリはマイナス成長で、これらの相殺で成長は6%増にとどまると予想される。米Applied Materialsは2022年に2桁成長を予想しているが、その根拠は明らかではない。
・米国政府のエンティティリストに載せられた中SMICは、北京ファブの投資を再開し、28nm製品を増産計画しているが、レガシー投資に比重が大きい。TSMC南京はhigh-k メタルゲート採用でうまくすみ分ける見込みである。
・欧米でパワー半導体の300mm化が急速に進んでいる。EV化に連動してコストダウンが求められているからである。日系企業はどこも事業スケールが小さく、トップの独Infineonのようにスケールメリットを生かせないのが共通した問題点である。
・今後、パッケージ分野への注目が増す。パッケージング基板は、2024/25年まで供給不足が続く見込みである。ウェーハ接合が最先端のロジックやNANDフラッシュメモリ製造に導入される。imecが次世代トランジスタ構造として提案しているCFETやIntelの裏面配線構造にもウェーハ接合が採用される見込みである。
「TSMCによる寡占化が半導体不足をもたらしている」―石原氏
次に、みずほリサーチ&テクノロジーズの石原範之氏が、「サプライチェーン、各国支援とTSMCの狙い」と題して講演した。半導体サプライチェーンはグローバルに広がっており貿易額も巨額であり各国が相互依存している状態であるが、各国が自国内のサプライチェーン強化に動き自国の半導体産業を支援している」とし、各国政府の支援状況を紹介した。その後、半導体不足に関連して、TSMCの戦略中心に以下のように述べた。
・半導体不足が、様々な分野に大きな影響を与えている。
・ファウンドリビジネスでTSMCの寡占化が進み、特に先端ロジック(10nm未満)は世界の9割以上を生産しているのでボトルネックとなっている。2011年ごろから2018年までTSMCは設備投資を抑制し、生産量を絞ってきた。このため、売上単価や利益率が上がっている。これが半導体不足の要因になっている。
・一方で、研究開発費は毎年増加させて、ライバルに対する競争力を増してきた。TSMCが技術競争に勝ち、抜け出したことでここまで寡占が進んだ。
・他ファウンドリも売上高減少により設備投資額を減らしてきており、これによりTSMC以外でも供給量が不足する要因となっている。
・微細化に伴い設計と製造の関連性が強まり、いったんTSMCに製造委託すると他社へ乗り換えることが難しくなっている。TSMCはEDA/IPベンダーとさらに連携を深めている。
・寡占化・独占化が進むと価格が一方的に決められ価格上昇が生ずる。価格を維持するために生産量調整が行われる(フランスの経済学者クールノーによって提唱された寡占市場における企業の戦略モデル)。これこそTSMCの狙いである。
・TSMCは2019年から設備投資を急増させているから2022年に一旦供給不足は解消に向かうと考えられるが、TSMCによる寡占状態が続く限り、供給不足の懸念は続き、今後、半導体ユーザー側でも対策が必要である。
3番目の演者は野村証券の和田木哲哉氏だったが、講演内容を開示したくないとのことなので割愛させていただく。
なお、本SPIフォーラムでは、聴講者にアンケートを採ったので、最後に結果を紹介しておこう。
Q1) 半導体不足はいつまで続くと思いますか?
回答) 2022年半ばまで 24%
2022年末まで 26%
2023年以降まで 38%
無回答 12%
去る8月25日に開催されたSPIマーケットセミナー「世界半導体市場、2021年後半を議論しよう」でも同じアンケートが実施されており、両者を比較すると、「2022年半ばまで」が8月時点の63%から24%に激減する一方で、[2022年末まで]が21%から26%に微増、「2023年以降まで」が16%から38%に増加している。以前想像していたより半導体不足は長引くとみている人が多い。
Q2) 2022年の半導体の成長率は何%と予測しますか?
回答) 1桁成長 38%
10%台の成長 56%
20%以上の成長 6%
ちなみに11月11日に発表されたWSTSの予測では、8.8%となっていた。
Q3) 2022年の半導体製造装置の成長率は何%と予測しますか?
回答) 1桁成長 34%
10%台の成長 44%
20%以上の成長 22%
ちなみに、電子デバイス産業新聞は、上述したように、2021年に4割越え急成長の反動で2022年には6%成長にとどまると予測している。しかし、一部には、今年ほどではないにしろ2桁成長するとの見方もあり、アンケート結果もそれを反映しているように見える。