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韓国でなかなか育たない非メモリビジネス事情(続編)―DRAM企業のジレンマ

韓国SK Hynixの直近の2018年4〜6月期における半導体ビジネスの決算(確定値)は、売上高、営業利益ともに四半期ベースで過去最高となった。売上高は前年同期比55%増の10兆3700億ウォン、営業利益は83%増の5兆5700億ウォンだった。売上高の8割を占めるDRAMの価格が高止まりしているため、「濡れ手に粟」状態の利益増加で笑いが止まらない状況だ。

同社は、3兆5000億ウォン(約3500億円)を投じ、ソウル近郊、利川(イチョン)の本社DRAM工場に新棟を建設し2020年に稼働させるという。トップのSamsungに追い付くとともに、中国勢を振り切ろうとしているように見える。

一方、韓国Samsung Electronicsの直近の2018年4〜6月期の半導体ビジネスの決算(7月31日発表確定値)も、SK Hynix同様、売上高、営業利益ともに過去最高となった。営業利益は前年同期比45%増の11兆6000億ウォンだった。NAND価格は低下したものの、DRAM価格上昇により利益が押し上げ、とりわけデータセンター向け高性能DRAMが好調だったという。スマートフォンに代表されるモバイルビジネスの利益は中国勢の猛攻で34%も減少し、ディスプレイビジネスの利益も前年同期比1/10以下で赤字転落寸前となったこととは対照的だ。システムLSIもスマホ不振の影響をもろに受けて減収となった模様である。Samsung グループとしては、今後とも利益確保するためには、ますます半導体メモリ、とりわけDRAMに力を入れざるを得ない。

こんな状況では、韓国勢は、韓国政府の心配をよそにメモリから抜け出せないし、抜け出すつもりもないだろう(参考資料1)。世界半導体メモリ市場で6割を超えるシェアを握る韓国半導体業界も、非メモリ分野ではほんのわずかなシェアしかない。2大メモリメーカーのSamsungやSK Hynixのトップは、韓国政府同様、国策でメモリ製造に力を入れようとしている中国勢にいずれシェアを奪われるかもしれないと恐れてはいるが、その対策として非メモリビジネスを積極的には拡大できていない。これら2社がともに非メモリビジネスの中心的な事業に位置付けるファウンドリビジネスの戦略を見ていくことにしよう。

Samsungはファウンドリビジネスを強化するも苦戦中

Samsungは、2005年にファウンドリビジネスに参入したが、現在、台湾TSMC、米Globalfoundries、台湾UMCに続いて業界第4位で、米国半導体市場調査会社IC Insightsの2018年上半期売上高予測では、売上高は21億ドル台で世界シェアは7%と低く、シェア56%を誇る王者TSMCの足元にも及ばない。それどころか、IC Insights によれば、Samsungのファウンドリビジネスは苦戦しており、2018年上半期の売上高は、前年同期比-2.2%とマイナス成長と推測されている(図1)(参考資料2)。


Table: Top 10 Worldwide Semiconductor Foundries by Revenue for 1H18

図1 2018年上半期世界ファウンドリ売上高ランキング・トップ10 出典:IC Insights, 2018年5月時点での予測


Samsung Electronicsは昨年5月に、非メモリ分野を担当するシステムLSI事業部の中にあったファウンドリ事業を強化するため、同事業部から分離独立、昇格させ、ファウンドリ事業部を新設した。同社の半導体部門は現在、メモリ事業部(DRAMやNANDの量産)、システムLSI事業部(社内ユーザー向けのシステムLSI製造を担当)、ファウンドリ事業部の3事業部制となっている。

Samsungのファウンドリ事業は、300mmウェーハを用いて先端の微細プロセスをQualcommはじめ先進ファブレスに提供するビジネスが中心であるが、2016年から200mmファブでのレガシープロセス(先端から見て数世代以上古いプロセス)を用いた多品種少量ファウンドリビジネスにも力を入れており、先端だけではなく全ての分野でファウンドリの顧客獲得を狙っている。Samsungは200mmウェーハ1枚に複数の顧客の種類の異なる半導体回路パターンを搭載して多品種少量生産する「MPW(マルチプロジェクトウェーハ)シャトル」サービスで小口顧客獲得に懸命である。

Samsungは、今月、ソウル市内で半導体ファブレス企業向けの「Samsung Foundry Forum 2018 Korea」を開催し, 国内のファブレス・デザインハウスに3nmに達する先端プロセスロードマップを紹介した。業界に先駆けて7nm FinFETプロセスからEUVリソグラフィを適用することとし、準備を急いでいる。3nmからは従来のFinFETに代わりGate-all-Aroundトランジスタを採用することも明らかにした。「マルチプロジェクトウェーハ(MPW)」プログラムの支援をさらに拡大して小口顧客の利便性を高める。FD-SOIも含めて品ぞろえを豊富にすることに加え、きめ細かい顧客対応を進めていくことで、ファウンドリ事業の売り上げを伸ばそうとしているようである。8インチラインの活用に関しても、電源管理IC、ディスプレイドライバIC、eNVM、イメージセンサなどに加えてRFや指紋認証ICなどのプロセスも加えて多くの顧客の要望に応えたいとしている。

この種の催しは、今年すでに米国や中国で実施しており、今秋には日本や欧州でも開催予定で、グローバルなファウンドリビジネス展開に力を入れている。

Samsungファウンドリは、Apple iPhone用アプリケーションプロセッサ受託生産ビジネスをここ数年にわたりTSMCに奪われてしまったままである。TSMCは、FOWLPなどの実装技術を含めた技術力でSamsungに比べて優位性があると業界ではささやかれている。Appleにしても、スマートフォンで激戦を続けるSamsungに半導体チップの製造委託するのは、秘密漏洩上からも避けたいだろう。Samsungは、世界初の7nm量産プロセスへのEUV露光技術採用やFOWLPに代わるFOPLPの実用化で挽回しようとしている。SamsungがAppleから再びiPhoneプロセッサの生産受託できるか注目される。

中国で非メモリの活路を見出そうとするSK Hynix

Samsungの小口顧客取り込み作戦に対抗するかのように、 SK Hynixがファウンドリ専業子会社「SK Hynix System IC」をメモリ量産工場のある忠清北道清州(チョンジュ)で昨年7月に発足させ、本格的にファウンドリビジネスに乗り出した。

SK Hynixは、従来から、生産に使わなくなった清州工場の8インチ(200mm)ライン(1996年稼働開始の"M8"棟)を活用して、ファブレス企業のために非メモリ分野のファウンドリ業務を行ってきたが、ファウンドリ市場におけるシェアはわずか0.3%にすぎなかった。今回のファウンドリ事業の分社化は、SK Hynixの非メモリ事業強化の一環として位置付けられており、IoTやAI(人工知能)などこれから成長が期待される分野で活用される半導体チップの多品種少量受託生産に期待をかけていたが、そもそも韓国内に十分な顧客がおらず業績は思うように向上せず、赤字垂れ流し状態が続いている。

そんな中、SK Hynixは、中国江蘇省無錫市にあるDRAM量産工場に隣接して半導体ファウンドリ工場を新設し、本格的にファウンドリ産業に参入すると2018年7月10日に発表した。同社は、得意なメモリ事業とはビジネスモデルが異なり不慣れのファウンドリビジネスは赤字続きで、中国に活路を見つけるということのようだ。同社の昨年のファウンドリビジネスの売上額は、わずか2億6000万ドルで, 世界シェアは1%にも満たない。

SK Hynix System ICが工場の建設や設備投資を担当し、中国の投資会社である無錫産業集団が3億5000万ドル(約340億円)を出資し、合弁会社を設立する。合弁会社への出資比率は、SK Hynix System ICが50.1%、無錫産業集団が49.9%で、2019年下半期に工場を完成させ、20年から本格稼働を見込むという。

韓国勢の行方は?

前世紀末にDRAMビジネスを日本勢から奪い取った韓国勢は、今度は中国勢の猛攻にさらされようとしている。その後、日本勢はシステムLSIに活路を見出そうとして失敗したが、はたして韓国勢は、国策で需給バランス無視の半導体メモリ爆投資をつづける中国勢と先進技術力を盾に徹底抗戦するのか、あるいはメモリビジネスから脱皮してはるかに市場規模の大きく未来志向のシステムLSI分野で新たな成長路線に乗るのか、それとも20数年の周回遅れで日本勢と同じような凋落の道を歩むことになるのか、韓国勢の行方が注目される。

参考資料
1. 服部毅:「韓国でなかなか育たない非メモリビジネス事情―韓国政府の危機感」セミコンポータル (2018/07/24)
2. 服部毅:「2018年上半期の半導体ファウンドリランキング予測」マイナビニュース (2018/05/25)

Hattori Consulting International代表 服部 毅

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