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東芝がなかなか売却できない東芝メモリはどこへ行く?

昨年10月の本欄で「東芝メモリの売却は今年度(2017年度)中に完了することはあり得ない」と述べ、その根拠を詳しく解説した(参考資料1)。

やはり、東芝は3月末までに中国当局から独占禁止法審査の承認が得られなかったため、半導体メモリを目標期日までには売却できなかった。中国当局の審査はやっと昨年12月に受理されたが、経済紙は「一般的に審査は4ヵ月かかる」などと、東芝の希望的観測をあたかもファクトのように繰り返し伝えてきた。しかし、キヤノンの東芝医療機器事業買収の中国政府承認は9ヵ月、蘭NXP Semiconductors の米Freescaleも同様、村田製作所のソニー電池ビジネス買収は10ヵ月かかっており、米Qualcommの蘭NXP Semiconductors買収に至っては、申請後まもなく1年半が経過しようとしているのにいまだに承認が得られていない。これらの単純な(売主も買主も各一社の)買収事例を見ただけでも4ヵ月で承認が得られるなどという話は信じがたい。ましてや、前回、東芝は、中国の承認を待たずに医療ビジネスをキヤノンに売却してしまい、中国から罰金を取られた前科さえある。さらに、今回の東芝メモリの「米韓日連合」という船頭が多く山に登りかねない集団による買収は、10月のコラムで解説したたように複雑極まりなく、陰の主役の存在や10年後に一体何が起きるのかまで調べなければならず、調査に時間を要するのは当然だ(参考資料1)。

東芝が、買い手の米韓日連合とは無関係の(というよりは買手の一部とはライバル関係にある)米Western Digitalと協業関係をさらに強化し、少なくとも今後10年間、共同出資によるNAND製造協業を続けるというのも、部外者にはきわめてわかりにくい。それなら、いっそのこと、東芝は、20年近くに渡り四日市工場での協業を続け、決して東芝との協業を手放そうとはしないWestern Digitalに売却すべきだったのではないかとの疑問を誰もがもつだろう(参考資料2)。このような読者の素朴な疑問にマスコミはほとんど答えることはなく、主たる取材源である東芝側の意図的なリークや希望的観測を垂れ流してきた。

著者の知る限り、時間をかけた調査報道を得意とする朝日新聞経済部の大鹿靖明記者(権力に固執し責任をとらぬ歴代社長の人災という視点から、東芝崩壊の全貌を生々しく描き出した「東芝の悲劇」(幻冬舎、2017年刊)の著者) だけがこの疑問に答えようとしていた。長くなるがその記事の一部を引用しよう。

「東芝は、昨年(2016年を指す―著者注)WDから生産コストの安い海外に新工場を建てることを提案された。(中略)これに対して経産省は海外への技術流出を恐れて東芝に国内での立地を打診。東芝は、東芝メモリの売却先にWDが加わる「新日米連合」側になると再び新工場を海外に建てるよう求められることを懸念し、早期に北上工場(岩手県)の新設を決定したい考えだった」(朝日新聞東京最終版2017年9月2日付8面、大鹿記者署名入り記事「東芝半導体工場岩手に新設構想」より)。

私企業の買収に不介入の方針だった経産省は、事務次官がたびたび官邸に呼び出され、「日本の技術を中国に流出させるな」という首相官邸の意向を受け東芝メモリの買収に介入するようになったと新聞各紙は伝えている。ここにまで首相官邸への「忖度」が蔓延していたようだ。

東芝メモリの売却が遅れれば同社の行方に様々な選択肢?

東芝は、当然、3月末までに東芝メモリ売却完了しないことを見越して、昨年12月に6000億円の増資でメモリを売らなくても債務超過を解消できるように手を打っていたので、債務超過による倒産は回避できた。銀行団の意向や米投資ファンド、ベインキャピタルとの契約もあり売却方針は崩さないというが、一部のモノ言う東芝株主からは売却撤回要求の声が高まるのは必至だろう。昨年の増資で東芝株主になった投資家から、より高額での売却を求める再交渉や、早期の新規株式公開(IPO)を求める声が強まる可能性もある。

さらには、米中通商摩擦の高まりで、東芝メモリの米国資本への売却を中国が認めない懸念も強まっている。かねてより、習近平主席の出身校である清華大学傘下の清華紫光集団(英語ではTsinghua Unigroup)が、東芝メモリの売却を承認せぬよう中国政府に働きかけているとも噂されているからなおさらだ。中国政府の国策としてNANDフラッシュメモリ製造を始めようとして準備している同集団にとって、東芝とSK Hynix が手を組んで立ちはだかり中国メモリ事業を敵に回されてはたまらない。韓国の日刊紙「中央日報」は4月3日付けの電子版で「半導体崛起(くっき)を宣言した中国の立場では今回のM&Aは歓迎できるものでない。今回の買収が実現すればSK Hynixは確固たる地位を固めることができるが、これはNAND型フラッシュメモリ生産に拍車をかけようとしている中国の立場ではうれしいことではない」とし、業界関係者は、中国が東芝のメモリ事業を分割運営するような条件付き案を提起する可能性があると予想している。そして中国が最後まで承認しない場合、東芝メモリ買収が白紙になる可能性もあるとしている。

東芝とベインとの契約では、4月以降、東芝側に一定の条件付きで契約解除権が発生するが、一方でベイン側にも7月には解除権が発生するので、新たな動きが出るかもしれない。中国当局の承認が得られない状況が長引けば、短期業績重視の米国ファンドがどこまでも辛抱強く待つことはなかろうし、4月に外部から就任した車谷暢昭会長兼CEOも何らかの決断をしなければならない時期が来るかもしれない。元三井住友銀行副頭取の同会長は、資金回収のため東芝メモリを売り急ぎたい主力銀行と、売らずに株価をつり上げたいモノ言う株主の板挟みになる可能性もあろう。

今年もメモリが半導体市場をけん引し、成長率2桁へ!

今年に入り、NAND価格が低下を始めている一方、DRAM価格は、季節的な閑散期であるにもかかわらず上昇を続けている。今年第1四半期のDRAM平均販売価格は、昨年第4四半期比、5%ほど値上がりし、さらに4月から始まった第2四半期にもさらに数%値上がりを続けている(参考資料34)。このため、米国半導体市場調査会社IC Insightsは、今年の半導体産業の伸びを年初予測の8%から3月に15%へ上方修正した(参考資料5)。この上方修正について同社は、半導体メモリ市場が、当初の予想よりも高い成長を示す可能性がでてきたからと説明している。昨年と全く同じパターンのメモリ価格高騰による上方修正だ。

特にDRAM市場に関しては、当初の前年比13%増から同37%増へと寄与度が大きいほか、NANDについても同10%増から同17%増へと成長する見込みだという。3D NANDの歩留まり向上で出荷量が増え、NANDは一時的な価格低下をきたしているが、SSDの市販価格も下がってきたので、サーバやPC のSSD化が促進し、今秋発売予定のスマ―トフォン新モデルのNAND 搭載容量も増え、下期までには需給がひっ迫する可能性が高いとの見方が有力である(参考資料6)。

NANDはDRAMほどではないにしろ、今年も年間で見れば絶好調となりそうだ。東芝は、ダントツの儲け頭の東芝メモリを売却してまで一体何を守ろうとしているのだろうか。中国からの承認のメドが立たず、売却の見通しが立たないこの時期に、車谷会長は、東芝メモリを宙ぶらりんの状態に置いたまま、いつまでも中国の返事を待ち続けるつもりなのだろうか。

参考資料
1. 服部毅、「中国恐るべし!東芝メモリ売却は本年度末までに完了できない恐れ」、セミコンポータル、 (2017/10/26)
2. 服部毅、「WD恐るべし!WDは東芝メモリとの協業を決して手放さない」、セミコンポータル、 (2017/12/19)
3. 服部毅、「サーバDRAMは2018年第2四半期も価格が高騰」、マイナビニュース、(2018/3/23) 
4. 服部毅、「DRAMは第2四半期も値上がりの可能性- Micron台湾子会社の事故が影響」、マイナビニュース (2018/4/4)
5. 服部毅、「2018年のIC市場は2桁成長の可能性 - IC Insightsが市場予測を上方修正」、マイナビニュース (2018/3/19)
6. 服部毅、「NAND価格の低下でノートPCのSSD採用率は50%へ 」、マイナビニュース (2018/3/15)

Hattori Consulting International代表 服部 毅

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