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WD恐るべし!WDは東芝メモリとの協業を決して手放さない

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10月に本欄で採り上げた東芝に関する「中国恐るべし!」記事(参考資料1)は、幸い長期にわたり多くの方々に読まれ続けているようなので、今度は、その続編として「WD恐るべし!」というタイトルで「WDは決して四日市での東芝メモリとの製造協業を手放さない」という趣旨の予測記事を書くための準備を先月から始めていた。

ところが、先月下旬に「東芝がWDと和解協議か」という記事が新聞に掲載され、それが12月に入ると、「東芝がWDと和解協議中」「和解へ」に変わり、 「来週にも和解発表か」「明日12日に発表か」に替わり、やっと13日になって東芝・東芝メモリ・WD 3社から共同発表された。

両社の交渉結果がすぐに出るのならそれまで待とうということで本記事の掲載を見合わせていたが、ついに和解したので、今回、準備していた予測記事を解説記事に切り替えて、前回同様に新聞を読んでいただけではわからない複雑な事情をエビデンスに基づいて解説することにしよう。
 
その前に、東芝の増資に触れておこう。中国の独占禁止法の審査が来年3月31日までに終了するはずはなく(参考資料1)、東芝は東芝メモリを年度末までに売却できずに、債務超過で経営破たんしてしまう可能性が高まったため、最悪の事態を回避するため、12月に入り約6000億円の第三者割り当て増資を完了させ、問題を回避することができた。そんなに簡単に増資できるなら、キャッシュカウの東芝メモリを売却する必要はなかったのではないかと思った読者も少なくなかったことだろう。ちなみに、中国当局が、東芝メモリを買収する日米韓連合から独占禁止法の申請を受理したのは、やっと12月に入ってからであり、これから審査を始めるところだ。

ところで、QualcommのNXP Semiconductor買収が発表されてから、すでに1年以上経過しているというのに、いまだに中国政府の独占禁止法審査は終わっておらず越年の見通しである。買収ができないままに、今度はBroadcomがQualcommの巨額買収を仕掛けてきて、半導体業界は大規模な再編の波に洗われている。Broadcomの件は、Qualcommとの合意による発表ではなく、一方的な非友好的発表であり、来年敵対的買収をかける可能性が高い。仮に合意に至ったとして、中国政府がすんなりと許可するかどうかは疑わしい。台湾の市場調査企業TrendForce によると、BroadcomのQualcomm買収は、中国のIC 設計ベンチャーにダメージを与え、政府補助金なしではビジネスが継続できない危機に瀕するという(参考資料2)。

東芝メモリのケースも、中国政府がこれから特に注力しようとする中国勢のNANDフラッシュ製造に多大な影響を及ぼす可能性があるから、そう簡単には許可が下りないだろう。ましてや買主にSK Hynixが入っていてはなおさらだ。SK Hynixは10年間にわたり、東芝メモリのNAND技術にアクセスできない契約になっているというが、すでに東芝とSK Hynixは次世代メモリー(MRAM)や次世代リソグラフィ技術(ナノインプリント)で日韓人的交流を含めて研究協業を行っており、将来を約束した仲(?)であるので、中国政府はその辺の事情を含めて徹底的に調査するだろう。

WDが四日市を手放さないのは初めからわかっていた
企業倒産速報で有名な企業経営状態調査会社、東京商工リサーチ(TSR)の調べによると、東芝の半導体メモリ部門の分社化(2017年4月1日付)に伴い、東芝から東芝メモリ(株)へ移管された日本国内の半導体関係会社は

  1. 東芝メモリアドバンスドパッケージ(株)(TSR企業コード:882010778、三重県四日市市)
  2. 東芝メモリシステムズ(株)(TSR企業コード:350650241、神奈川県横浜市)
  3. Flash Partners(有)(TSR企業コード:402350405、三重県四日市市)
  4. Flash Alliance(有)(TSR企業コード:522053483、三重県四日市市)
  5. Flash Forward合同会社(TSR企業コード:522143881、三重県四日市市)
の5社だった。

社名にFlashを付けた3社(3、4、5)は、それぞれ東芝四日市工場の第3、4、5製造棟の製造装置を東芝50.1% /San Disk 49.9%で所有し共同経営する、形ばかりの有限企業や合同会社である。これらのとってつけたような名称の3社については、外部にはその存在はほとんど知られていなかった。

ところが、これら3社の東芝メモリへの移管について、東芝がWDに断りなく共同所有企業を他社に移管することは契約違反として異議を申し立て提訴した。慌てた東芝は、6月に
再びこれら3社の所有権を東芝メモリから東芝本体に戻したいきさつがある。

ということは、東芝が東芝メモリを誰に売却したとしても、四日市の土地や建物は従業員を含めて問題なく移管できるが、第3、4、5製造棟の製造装置の所有権は東芝とWDにあるから売却対象ではない。WDは、これらの装置の所有権を新たな買主に譲渡しないかぎり、四日市工場は稼働できなくなる。

12月13日付けの東芝/東芝メモリ/WDのプレスリリース(参考資料3)によると、Flash Partners, Flash Alliance、Flash Forwardの3社の契約は、2027〜2029年末まで延長されるというから、誰が東芝メモリのオーナーになろうが、WDは四日市で今後10年以上に渡り生産協業する権利を得たことになる。東芝は、四日市工場内で建設を進めている第6製造棟にも他の製造棟同様に共同で設備投資するとともに、計画中の岩手県北上市の新製造棟についてもWDが設備投資を分担する方向で前向きに協議をするとしている。

東芝とWD/SanDisk両社は長年にわたり、四日市工場で設備投資負担の割合に応じて製品を分け合う契約を結んできた。プレスリリース(参考資料3)の中でWDのミリガン会長は、「合弁事業における持ち分の保全」がWestern Digitalの最優先事項だったことを明らかにしている。WDはこのままだと四日市第6製造棟や岩手県北上の新工場で製造される最先端大容量NANDフラッシュメモリの供給が受けられなくなるため、合意せざるを得なかった。2016年に2兆円以上も出してせっかく買収したSanDiskのれん代が瞬時に霧散するのも絶対に避けなければならなかった。WDが半導体製造から手を引き元のHDDサプライヤに戻ってしまっては、将来が絶望的になるには必至だ。

この10ヵ月に及ぶ東芝とWDとの提訴合戦中に、Samsungは総額260億ドル(3兆円弱)にも及ぶ設備投資を行ってきた(参考資料4)。そのうち140億ドル(1兆5000億円超)分は、韓国平澤(ピョンテク)に建設した巨大な新工場でのNAND増産のための設備投資に振り向けられている。Samsungは、東芝を振り切り、中国勢に対する新規参入障壁を高めて独り勝ちするために”爆“生産作戦に出ようとしている。仲直りした東芝・WD陣営が、過去を水に流して一致団結してSamsungに追い付けるかに否か注目される。
 
WDは将来の半導体デバイス・プロセス研究に投資
WDは、ベルギーの独立系半導体ナノエレクトロニクス研究機関imecと 広範な次々世代半導体技術の研究開発について3年間の長期研究契約を去る11月に締結したが、新聞で報じられてはいないから、果たしてどれだけの読者がご存じだろうか。

WDは、もともと米国カリフォルニア州シリコンバレー(San Jose市)に本拠を置くHDDの最大手サプライヤだが、斜陽のHDDから脱皮するためにSanDiskを買収するまでは半導体製造とは無縁の企業だった。

そんなWDが今回契約したimecのプログラムは、同研究所の中核となる包括的な次世代半導体研究の「先進半導体技術コアプログラム」の全分野であり、WDは、フルパートナー(正会員)として参画した。このプログラムは、具体的には、次世代ロジックデバイス・プロセス、次世代メモリデバイス・プロセス、先進パターニング(蘭ASMLのEUVリソグラフィ実用化)、先進ナノおよびシステムインターコネクト技術などである。両社は、特に次世代不揮発性高速半導体メモリ、NANDフラッシュメモリ、先進リソグラフィ分野などで共同研究を行うという。

WDは、HDDからSSDへの移行を急ぎ、2015年には米SanDiskを買収し、東芝四日市の協業にも参画してきたが、今回のimecの中核半導体プログラムへのフルスケールでの参画は、次世代半導体ストレージ製品開発を目指して、今後、半導体分野へさらに深く参入しようとしているものとみられる。imecによると、次世代半導体開発プロジェクトのコアメンバーは米Intel、Micron Technology、GlobalFoundries、韓Samsung、SK Hynix、台TSMC などそうそうたるメンバーで、日本からは東芝とソニーが加入しているという。フルメンバーになるということは、imecでの巨額の研究開発費を分担するということである。

これらの事実を踏まえれば、WDは、東芝メモリから絶対に手を引かない不退転の覚悟だったことがわかる。Samsungが先行し、中国勢が国策で追ってくる状況下で、東芝メモリ・WD連合軍は、船頭の多い日米韓オーナー(さらにあとで産業革新機構や日本政策投資銀行まで加入予定というからややこしい)のもとで、山に登らぬように祈るばかりだ。

服部コンサルティングインターナショナル代表 服部毅

参考資料
1. 服部毅、「中国恐るべし!東芝メモリ売却は本年度末までに完了できない恐れ」(2017/10/26)  
2. 服部毅、「BroadcomがQualcommの買収に成功すると半導体産業に何が起こるのか? - TrendFoceが分析」 (2017/11/10) マイナビニュース
3. 東芝/東芝メモリ/WD共同発表プレスリリース「メモリ事業に関する和解と協業強化について」 (2017/12/13)
4. 服部毅、「2017年のSamsungの設備投資額は260億ドル規模に到達」 (2017/11/17) マイナビニュース

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