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福岡発の半導体チップ設計センターはベンチャーを支援する画期的な仕組み

福岡県がシステムLSI設計試作センターを開設、その記念講演でお話しする機会をいただいたので現地へ行くと同時に、記者でもあるので実際にその中身を取材した。iPodを凌ぐようなカッコいいモバイル機器のアイデアをひねり出した、自分で起業して売り込みたい、と考える若者にとってこれは朗報だ。安い料金で自分のLSIを作れるからだ。今や半導体なしの機器はありえない。どんなに素晴らしいアイデアでさえ、それを具現化できなければ絵に書いた餅に終わる。

若者や中小企業といった資金力のないベンチャー企業にとって、自分の夢を具現化できる仕組みが誕生したことはとても明るい未来につながる。それも東京ではなく、福岡という地方がその仕組みを作ったのである。


福岡県システムLSI設計試作センター開所式


福岡県は、半導体LSIの設計試作センターのアイデアとそれを具現化するための建物からツール、部屋、設備などを提供するというところまで落とし込んだ上で、経産省からの資金を得た。こういった下からの積み上げプロジェクトだと、現実の需要と供給をしっかり使った上での提案だけに掛け声だけで終わることはないと思う。

しかも九州の福岡地区には九州大学、北九州には九州工業大学もあり、優秀な学生をエンジニアに育てられるという下地が揃っている。

アメリカのシリコンバレーやイギリスのケンブリッジ、ブリストルなどにはアイデアの豊富な若者が多い。彼らが今までにないような全く新しいアイデアを生み出し、それを具現化するべく仕組み(主にVCやエンジェルとの人脈など)はあるが、日本にはこれまでほとんどなかった。エンジェルがいなくてもアイデアを具現化する組織があればいい。香港のサイエンスパークにも、LSI設計センターをインキュベーションセンターとしてベンチャーを育てるという仕組みがある。

日本のベンチャーがなぜ育たないか。ベンチャーそのものの考え方が欧米とは全く違うことが最近の英国の取材ではっきりわかった。欧米にはベンチャー=画期的なアイデアをビジネスにつなげる企業、という図式があり、そこに資金を投入するエンジェルがいる。しかし、日本のベンチャーは画期的なアイデアというよりも大企業の下請けという要素が強い。このためそのベンチャーでなければできない製品というよりも他の企業でもできる製品であることが多い。このため大手のクライアントを逃がすと、もうビジネスは止まってしまう。本当に画期的な技術であれば、使いたいと思うクライアントは1社にとどまるはずがない。何社も使ってみたいと思うはずだ。

欧米では、上司が気に入らないから、会社が面白くないから、あるいは自分で独立したいからベンチャーを起こすのではない。自分の画期的なアイデアをビジネスにつなげたいから起業する。画期的なアイデアを生み出したとしてもそれを所属する企業の上司が受け入れてくれず、会社の誰も支援してくれなければ会社を辞めて自分で事業化しようと考える。これが欧米でベンチャーが起業されるやり方であり、自分の技術に自信があるから独立するというわけだ。

日本にもこういった考えの人が多くはないが、いるはずだ。画期的なアイデアを具現化するために半導体チップを作れば、そのアイデアを証明することができる。福岡はこういった人たちを支援する組織である。

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