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第2期入居が始まる香港サイエンスパーク

 香港科学技術工業団地(HKSTP: Hong Kong Science & Technology Park、通称:香港サイエンスパーク)が2002年、新租界に設立されて以来、5年を経過した。この香港サイエンスパークは、半導体LSIの設計ビジネスを生み出すインフラストラクチャに力を注いできた。当初15億米ドルを投資する予定だったこのサイエンスパークは、第1期から第2期に入りこの9月から第2期のパークに入居する企業が一部オープンする。

計画では2010年に第3期建設が完了するが、工業団地の稼動は建物の完成・設備の導入と同時に始まる。投資額は第1期が40億香港ドル(600億円)で、第2期、第3期とも同額を投資する予定である。

この第1期の稼動状況を見ると、日本企業の入居が少ない。入居・稼動している174社のうち、TDKやオムロンなど8社が参加しているだけにすぎない。地元香港の企業はおよそ40%だが、残りの60%は世界から集結している。米国のFreescale Semiconductor社やNational Semiconductor社、Xilinx社などをはじめ台湾のMacronix International社、欧州NXP Semiconductor社などが名前を連ねる。


香港サイエンスパーク
香港サイエンスパーク


入居企業の特典として、LSI設計のワンストップショッピングとも言うべき、LSIの設計からウェーハのパイロットラン、故障解析ツールまでの提供を受けることができる。半導体IPベンダーはマルチプロジェクトウェーハ(MPW)のシャトルサービスを利用できる。このためTSMCやSMIC、IBM、Chartered Semiconductor Manufacturingなどのファウンドリ企業とも提携している。

世界の代表的な工業会や協会、大学などとも提携している。米国のSEMI(半導体装置材料協会)やFSA(ファブレス半導体協会)、台湾SOCコンソーシアム、中国SIAなどが提携先に当たる。大学では米国のジョージア工科大学やカナダのトロント大学、英国のエセックス大学などと協力関係にある。中国の主だった大学とも提携しており、優秀な学生の確保には苦労しない、とHKSTP副社長のS. W. Cheung氏は言う。

金融や貿易の街である香港でなぜLSI設計ビジネスを行なうのか。まずは人材を確保しやすいことがあげられる。「香港には8つの大学がありその卒業生をLSI設計者として毎年5000人以上、確保できる。優秀な人材が足りなければ北京や西安から招致することも可能だ」とCheung氏は言う。次に、中国ビジネスのゲートウェイとしての存在である。「香港は中国の一部であると同時に、中国外でもある」と、HKSTPマーケティング担当副社長のKen Hui氏は言う。香港の貿易額全体の45%が中国貿易にあたる。香港の中国返還により中国貿易は一時低迷したが、ここ2001年から連続プラスの伸びを示している。低迷時期を含めてこの10年間の中国貿易平均成長率は9%と堅調だ。

香港のLSI設計に注ぐ力の入れようはR&Dセンターの設立にも表れている。韓国のETRI(Electronics and Telecommunications Research Institute)、台湾のITRI(Industrial Technology Research Institute)を見習い、香港特別行政府がASTRI(Applied Science and Technology Research Institute)を2001年に設立した。ここはLSI設計とワイヤレス技術に力を注いでおり、やはりHKSTPのパーク内にある。政府からの支援14億香港ドル(210億円)に加え、民間企業からも4億香港ドル(60億円)を集めている。今年度の年間の予算規模は政府から1億7500万香港ドル(26億円)、企業から1300万香港ドル(2億円)である。

LSI設計と切っても切れないIP(intellectual property)の保護に関してはかなり厳しい。特に中国が相手となると著作権の保護をしっかりしなければ顧客はつかなくなる。このため、サイエンスパークのSIP(Semiconductor IP)サービスセンターでは、ソフトマクロをハード化するサービスを行っている。ここでは、ソフトウエアのRTL(register transfer level)ファイルを顧客からハードウエアに出力するGDS II形式に焼くサービスを請け負っている。GDS IIは回路パターンを表すバイナリ形式なのでハードウエアといっても差し支えない。

加えて、IPの検証サービスも行う。ここでは、IPが技術的に利用可能かどうか、さらに法的に最初のものであるかどうか、を検証する。手法はIEEE標準に従う。SIPサービスセンターのパートナーには先ほどのファウンドリ企業、世界的な工業会などがいる。

これまで、HKSTPの利用企業の例として、欧州のNXP Semiconductor社はパワートランジスタやパワーICを設計したり、カーエレクトロニクス向けのパワー半導体用パッケージを開発したりしている。また、IBM社は90nmプロセスまでのSiGe、高周波CMOS、高周波BiCMOSなどの技術を利用するアジアの技術サポートセンターとしてSIPサービスセンターを利用している。

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