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牧本次生氏の「一国の盛衰は半導体にあり」を読んで

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元日立製作所専務取締役の牧本次生氏が書かれた「一国の盛衰は半導体にあり」(工業調査会発行)を読んだ。半導体が社会に与えるインパクトはすさまじい、という点では共感する。英国特集で取材した英国政府関係者は、半導体産業は30兆円弱だが、この上の電子産業は200兆円弱、さらに上のものづくり系製造業は300兆円、それが提供するサービス産業は500兆円というフードチェーンの中で、最上位産業を支える産業が半導体だと、考えている。

日本のGDP400兆円強にも匹敵する産業の基盤となる半導体をおろそかにしているとやがて国家の一大事になる、こう考えた英国政府は官民を挙げて半導体強化に取り組んでいる。半導体はiPodにも携帯電話にも、パソコンにも液晶テレビにも、デジカメやプリンタ、時計、ゲームにも、とにかく何にでも化ける。しかも賢い製品に化ける。これからのヒット商品(何になるかわからないが)には半導体が中核となることは間違いない。国家の経済に多大な影響を与える。だから英国は、世界の半導体メーカーと競争して勝ち組を目指す。

経済へ影響だけではない。軍事力、例えば迎撃ミサイルの命中率は半導体の計算処理速度にかかっている。もちろん、攻撃ミサイルにも半導体を使えば命中率を100%近づけることは難しくない。戦闘機や原子力潜水艦に使えば、センサーやGPSとも合せて敵の位置を正確に算出できる。国家の軍事力は半導体の能力で決まるといっても過言ではない。半導体を持たない国のミサイルなどどこへ飛んでいくかわからない。かえって恐ろしいが、迎撃ミサイルはそれでも撃ち落とすことができる。適応型弾道計算アルゴリズムで計算すれば可能だ。これもニュートンの発明した微分方程式を使う。

医療にも半導体は威力を発揮する。事故か何かで腕を切り取られ単なる義手を当てているだけの人が、頭脳からの指令を送る神経信号を、心電図測定のように胸にあてた電極パッドから抽出し、センサー/モーターとDSP、その他の半導体を使ってなんと、腕と手、5本指をも動くことが可能になったというビデオを2年前にTI社の開発者会議(TIDC)で見た。とても感動を受けた。声の出ない人が話をできるという携帯電話のデモも今年のTIDCで発表された。これも頭脳からの神経信号をのどに電極パッドを当てて拾い出し、A-D変換、デジタル信号処理、音声合成などを施して声として電話に伝えられるという実験だった。

人間の身の回りに、しかも見えないところに半導体が重要な位置を占めて支えている。牧本氏は、一国の盛衰は半導体で決まるという視点で、半導体産業を日本、米国と比較しながら議論している。このことは裏返せば、日本の将来は半導体で決まるとも言い切れる。だからこそ、日本の半導体産業にもっと頑張ってほしいと願っている。

残念ながら私はそこまで思い切った視点を持っていなかった。確かに1991年にバブル経済崩壊、経済の停滞という状況と、日本の半導体産業の状況とは実に酷似している。もはや、半導体産業が活性化しなければ日本の経済全体が活性化しないのであろう。

日米半導体戦争と呼ばれた経済摩擦の当事者が書いた生々しい内容は、説得力に富んでいる。日米半導体協定を終結させるための交渉では、交渉にあたった張本人だからこそ書ける内容はとても迫力がある。

ではこれからの日本はどうするか。米国のSEMATECHは成功して米国の半導体は復活したが、日本は国家プロジェクトを作ってもまだ復活したとは言い切れない。この差は何か。同氏は、米国は製造をSEMATECHに任せ、メーカーは設計にシフトし、役割分担がうまくいったとも述べている。それで行くと日本は、国家プロジェクトも民間メーカーもどちらも製造を強化した。にもかかわらず製造専門のファウンドリ企業もない。実に中途半端だという声が産業界には多い。

今後どうすればいいのか。このブログを通じてさまざまな提案をしていきたいと思う。また、声や名前を出して述べることははばかるという業界人の本音も伝えていき、各社の参考になればと願う。

最後に、海外ではMakimoto’s Wave(http://www.semiconportal.com/archive/editorial/industry/makimotos-wave.htmlおよびhttp://www.semiconportal.com/archive/editorial/technology/makimotos-wave1.html)という法則を評価する声はロジック半導体の世界では極めて高いが、国内ではマキモト・ウェーブを評価する声をあまり聞かない。この差は何だろうか。日本での評価よりも海外での評価の方が高いという日本人は少なくないが、いつまでも日本人が日本人を的確に評価できないようでは、経済の評価もできるとは思えない。良いものは良い、悪いものは悪い、と客観的な評価をするための仕組み作りも始めなければならないのかもしれない。

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