セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

Makimoto's Wave の意味するもの

|

テクノビジョンコンサルティング代表 牧本次生


Makimoto's Wave を提唱した牧本です。今回のセミコンポータル社の記事を大変興味深く、またある種の感慨と共に拝読しました。私がこのコンセプトを着想したのは20年も前の1987年です。今なお半導体の最前線で活躍されている方々の関心を集めているということは、ウエーブのコンセプトの中に半導体技術の宿命である普遍的で永続的な課題が含まれているからだと思います。

Makimoto's Wave


このウエーブが広く知られるようになったのは、私の着想に共感して1991年1月に英国で発行されているエレクトロニクス・ウイークリー紙上で「Makimoto's Wave」と命名し、大きく取り上げてくれたデビッド・マナーズ氏の功績です。

さて、このウエーブでは半導体の技術分野において、「カスタム化指向と標準化指向とが10年ごとに入れ替わる」ということを極めて単純化してサイン・カーブの形で表現しています。当然のことながら、現実の世界はこれほど単純なものではありません。したがって、「10年ごとに入れ替わる」という意味をしっかりつかんでおくことが大事です。

例えば1977年から1987年までの10年間は「MPU&メモリーを中心とする標準化の時代」となっており、その次には「ASICを中心とするカスタム化の時代」が立ち上がりました。ご承知のように、87年でMPU&メモリーが消え去ったわけではなく、その後も大きく発展しています。

このことは、77年から87年までの10年間をMPU&メモリーの「幼年期から青年期へ向けての遷移の時期」と解釈すべきです。87年の時点に至るやMPU&メモリーは青年期に達して市民権を獲得し、独自のジャンルとして発展を続けました。そして、その同じ87年の時点からASICの幼年期が始まりました。即ち、ウエーブにおける10年間はそれぞれの技術ジャンルの幼年期を示しており、その周期的な入れ替わりがMakimoto’s Waveです。

さてここで、なぜこのようなサイクル現象が起こるのかについて考察してみましょう。
標準化方式の長所は「開発コストが安い」ことですが、短所は「量産コストが高く、性能が低く、消費電力が大きい」ことです。一方、カスタム化方式では「開発コストが高い」ことが短所ですが、長所は「量産コストが安く、性能が高く、消費電力が小さい」ことです。理想の方式は、言うまでもなく「開発コストが安く、量産コストがやすく、性能が高く、消費電力が小さい」ことです。

半導体産業が始まって以来、この理想の方式を実現すべく飽くなき探求がなされてきました。ある時期には「カスタム化方式」の面から、別の時期には「標準化方式」の面からのアプローチがなされ、長い振り子が揺れ動いてきました。これを単純化して表現したのがMakimoto’s Waveであるといえましょう。

今回の記事に取り上げられているXilinx社のGavrielov氏の戦略とeASIC社のVasishta氏の戦略とは一見違った方向のように見えますが、狙っているところは両方とも「理想の方式の探求」であり、「顧客のニーズにいかに忠実に応えるか」という点であります。

ウエーブの周期でいえばXilinx社のFPGAは「標準化指向の青年期」にあり、eASIC社の新方式は「カスタム化指向の幼年期」にあるといえましょう。それぞれの分野で顧客満足度を高めるための戦略を論じており、いずれが勝つか負けるかというよりも、幼年期と青年期の技術ジャンルが共存しながら発展を続けることになるでしょう。両方式とも、異なるニーズを持つ顧客をしっかり獲得することができれば、それなりの地位を確保しつつ発展していけると思います。

さらに将来的には、半導体技術の発展によって理想の方式にかなり近づくことはあるでしょうが、完全にそれを実現することは至難です。したがって今後ともウエーブのサイクルはさらに高い完全性を追求しながら続いていくことになるのだと思います。

月別アーカイブ