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スタン・シーのスマイルカーブから学ぶ(2)

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変革期を迎えている半導体ビジネスのスマイルカーブがどのように変わっているか、について議論しよう。かつてメモリービジネスがムーアの法則を引っ張っていた時代は、半導体ビジネスの最も高い価値はチップを製造する微細化技術にあった。18〜24カ月ごとにトランジスタ数が2倍に増えるという法則に則ってトランジスタ数、それを達成するための微細化技術が半導体ビジネスをドライブしていた。ところが、、、、、、。

最近は、微細化技術に従来ほどの価値はなくなった。なにしろ、32nmやそれ以降の技術となるとライバルメーカー同士が一緒に組みながらプロセスを開発し、それを共有していこうという流れが明確になってきたからだ。IBMはコモンプラットフォームとして、チャータードやサムスン、STマイクロエレクトロニクス、インフィニオン、AMD、東芝などと一緒にプロセスを開発している。TSMCはTIと組み、日本勢はルネサスと松下、NECと東芝が組み始めている。しかも従来の国家プロジェクトと大きく異なるところは、開発したプロセスを実際の製品に使おうとしていることである。スマイルカーブは以下のようになる。


スマイルカーブ

ライバルと一緒に開発し、それを実際の製品に使おうということは、半導体のプロセス技術で他社との差別化を図ることはできなくなるということを意味する。プロセス開発にはもはや高い価値は期待できなくなる。どこで差別化を図るか。それが、材料や部材であり、ソフトウエアや機能であるということになる。

なぜ材料や部材か。半導体製造に必要な材料は1980年代には数種類のみ、90年代でさえ、十数種類しかなかったが、2000年代に入ると数十種類と飛躍的に増えたからだ(Intel、IBMのデータからと、SPIフォーラムでの資料)。加えて、微細化しなくても半導体チップは売れることが次々と証明されている。微細化のための装置は売れなくなりつつあるが、半導体チップそのものは売れ続ける。しかもメモリービジネスは相変わらず微細化一辺倒だ。そうすると、半導体チップを作るためのプロセスにはメモリーにせよSoCにせよ、材料だけはたくさん使われる。使用する材料ビジネスは半導体チップの伸びよりもはるかに大きい。すでに2007年実績で、その傾向が見えている

しかも、製造装置で使う材料や部材は、簡単に誰でも作れるというわけではない。ということは、材料や部材に価値が置かれることになる。この技術を海外勢を含むライバルのサプライヤーに簡単に渡してはいけない。あくまでもブラックボックスにしておく必要がある。

メモリーは微細化にまだ価値はあるが、SoCとなるとないとは言い切れないが、さほどの期待はできない(SoCでも超並列プロセッサやコアの多いマルチコアプロセッサは微細化もドライブする)。むしろ、チップに搭載するソフトウエアやアルゴリズム、すなわち知恵がドライブする。SoCビジネスは知恵の出し合いとなり、ここに大きな価値を生じる。

SoCは、微細化よりもそこに載せる機能に価値がある。その機能によってチップ単価が決まる。インテル社はこれまでパソコン向けのマイクロプロセッサ1本でやってきたが、その平均単価は、米国の半導体アナリストのインテルウォッチャー、ジム・マクレガー氏によると40ドルだという。これに対して、日本の半導体メーカーが生産するチップの平均単価は、100円程度と、1桁以上違う。

賢いアルゴリズムやソフトウエアなどを搭載して他社と差異化を図るといった手法こそが、これからのSoCビジネスのあり方ではなかろうか。とすると、経営判断としてどこに資金を投入し、どう回収するかを考えればよいことがわかる。アルゴリズムやソフトウエアの開発に資金を投入する。これが自前で短期間のうちにできないのであれば、大学や産総研などの研究チームに対して本当に欲しいソフトウエアやアルゴリズム情報を提案依頼し、ソリューションをもらう。あるいはグローバルに存在する研究チーム(たいていはベンチャー)からソリューションをもらうのもよし。手はいくらでもある。自前でやるなら開発期間を1年か2年と限定する。最長でも2年で半導体SoCの開発ができるかどうかを判断の基準に持ってくればよい。国内だけではなく、もっと目を世界にも向けると本当に欲しいアルゴリズムやソフトウエアがそこにはあることが見えてくる。

SoCビジネスにおいて微細化が必要となるのは、チップを小さくしないと競争力がない、アルゴリズムにもはや価値がなくなった、価格だけが競争力になった、などの場合だけである。アルゴリズムやソフトウエアに価値を置けば他社にはないユニークなチップで電子機器を差別化できるわけだから、高い値段で売れる。実際に、微細化せずに価値の高い製品で高い利益率をもたらしている企業は海外にはある。見習うとしたら、このような企業だろう。

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