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なぜトランジスタの発明が重要なのか(第2回)

なぜトランジスタが集積回路の中で重要な役割を担うのか。ダイオードではなぜ役不足か。
トランジスタと違って、ダイオードは入出力を分離しにくいと、前回述べた。下の図にあるように入力も出力も同じ配線を使うわけだから、アイソレータとも言うべき入出力分離用の素子を入れることが必要になる。部品が1個増えるわけだ。しかしトランジスタは部品1個で入力のベースと、出力のコレクタが別々の配線を持つため、そのままで入出力が分離されている。

集積回路


集積回路として、デジタル回路なら各トランジスタはスイッチの役割を担うだけである。ダイオードでももちろん、スイッチとして使うことはできる。しかし、電気を流すか流さないかは、外部の配線を切るかつなぐかの話となる。トランジスタなら、スイッチオンならベースに電気を流し、オフならベース電流を流さないだけですむ。使い勝手が全く違う。

集積回路に使うメリットはそれだけではない。単なるスイッチなら接点や配線の抵抗によって信号は次第に減衰していく。回路の中の遠い場所では5Vの電圧が2〜3Vに減衰することだってありうる。5Vを1、0Vを0として論理を構成すると、2~3Vだと1か0を判別できなくなる。つまり集積回路にスイッチとして使うのなら、増幅作用を持たせなければ使えないのである。だから増幅器であるトランジスタが必要になる。

回路として考えると、トランジスタのメリットはきわめて大きい。n型半導体、p型半導体をそれぞれ半導体材料として捉えると、npnトランジスタやMOSトランジスタ自身が増幅器を構成している集積回路とみなせないこともない。pn接合ダイオードだけでは残念ながらディスクリートなのである。

以上のような考察から、トランジスタをデジタル回路に使うと増幅作用を持つスイッチといえる。ダイオードでは集積回路を組むことはきわめて難しい。やはりトランジスタは偉大だといえる。デジタル回路から見ると、バイポーラかMOSかは些細なことである。

しかし、実際に集積回路を作るとなると、MOSかバイポーラかの違いはきわめて大きい。しかもシリコンかゲルマニウムかという半導体材料の違いも雲泥の差がある。

まず、基本原理としてMOSとバイポーラの違いを議論しよう。バイポーラトランジスタはショックレイが最初から追求していたように、ベース幅を1ミクロン以下に薄くしなければ増幅作用は持ち得ない。1960年代、70年代の技術では1ミクロンのリソグラフィ技術はなかった。そこでバイポーラは縦構造をとらざるをえなかった。電流は縦方向に走るものの、コレクタ電極を表面から取り出そうとすると縦から横へ電流が流れる。ディスクリートでは、縦構造だからコレクタ電極は下部からとったが、集積回路なら下部電極を上に回してとらなくてならない。これでは集積度は上がらない。


トランジスタ


これに対して、MOSトランジスタは表面から、ゲート、ドレイン、ソースの3端子をとることができる。電流は横方向に走る。集積化は容易だ。

しかし、MOSトランジスタの表面はかつて非常に不安定だった。界面準位密度が大きいうえに、固定電荷、可動電荷などさまざまな要因がMOS表面を不安定にしていた。結晶面方位も界面準位密度に大きな影響を及ぼした。このため、世界中のエンジニアが挑戦し、MOS表面の不安定性を解決して初めてMOSトランジスタが使えるレベルに達した。このための努力を今日のMOS半導体チップの成果として上げる人たちは多い。

これらの事実から言えることは、MOSトランジスタは当初、不安定な問題があったが、最初から集積化しやすいという大きなメリットがあった。バイポーラは集積化しにくいが、表面の不安定さの影響は受けにくかった。しかし、Mooreの法則にしたがって集積度が上がるにつれ、集積化しやすいトランジスタがメジャーになった。

しかし、Mooreの法則にとらわれる必要がなくなった今、このままMOSのメリットは続くのだろうか。ここで提案したいのだが、リソグラフィ技術でベース幅さえ、nmオーダーで制御できるようになった現在、ラテラルバイポーラトランジスタをLSIの基本素子に使うという考えはないのだろうか。かつての集積化しにくいバイポーラ、というデメリットは今やなくなった。リソグラフィでベース幅を制御できる今、エミッタ、ベース、コレクタとも表面から取り出しやすいラテラル構造が容易に製造できるようになった。バイポーラは電流駆動能力がMOSよりも高い。LSI回路の出力バッファや小さな入力オフセット、という回路的なメリットは大きい。MOSの薄いゲート酸化膜リーク電流やサブスレッショルド電流増大の問題もない。ただし、バイポーラでは0.7Vというバンドギャップリファレンスの問題があるため、低電圧化の限界はついそこまで来ているが。

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