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香山晋氏が2020 IEEE Robert Noyce賞の受賞者に決定

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セミコンポータルの創業者で、元東芝の半導体部門をけん引していた香山晋氏(図1)が2020 IEEE Robert Noyce賞を受賞することが決まった。この賞は、Intelの創業者の一人、Robert Noyce氏に敬意を表し半導体産業に貢献した人に贈る賞である。

図1 2020 IEEE Robert Noyce賞を受賞する香山晋氏 セミコンポータルの創業者でもある

図1 2020 IEEE Robert Noyce賞を受賞する香山晋氏 セミコンポータルの創業者でもある


香山氏の受賞理由は、次の通り;CMOS技術開発でリーダーシップを発揮した世界的な経営者として、さらに設計手法の標準化を果たし、半導体産業に大きな影響を及ぼしたことに対する貢献。香山氏は、ムーアの法則が当てはまった1980年代〜90年代にIEEE ISSCCやIEDMなど世界の国際学会で活躍した、東芝の半導体エンジニアリング・マネージャーであった。業界でも半導体デバイスや回路をけん引してきた。東芝をはじめ日本の半導体メーカーを中心に、時には海外の学会を取材してきた筆者は、香山氏がIEEE主催のIEDMやISSCCなどで発表する姿を見てきた。2000年少し前に、東芝の役員になり、これからは東芝半導体部門のリーダーとなると筆者は思っていた。

2001年に株式会社セミコンダクタポータルを設立し、ウェブを通して半導体業界の情報交換の場を目指してきた。SEMIジャパンから、谷奈穂子氏(現セミコンポータル 代表取締役)を招へいした。セミコンポータルは来年には20周年を迎える。

Robert Noyce氏には実は筆者もお会いしたことがある。IntelのCEOとして来日したNoyce氏が記者会見を開き、「DRAMはもはやコモディティになったため、Intelはマイクロプロセッサに注力する」と述べたことを昨日のように覚えている。ドスの聞いた低音で静かに語ったノイス氏の迫力は忘れられない。同じころ、Texas InstrumentsのJack Kilby氏も来日したが、Kilby氏は2メートルもあるような背の高いエンジニアであった。集積回路の開発でKilby氏はノーベル賞を受賞したが、同様に集積回路をプレーナ技術で開発したNoyce氏は、残念ながらすでにこの世を去っており、受賞できなかった。

香山氏はリーダーシップを発揮、半導体業界をけん引してきたことが東芝では残念ながら裏目に出た。出る杭は打たれ、半導体材料を扱う子会社の東芝セラミックスの社長になった。東芝のような大企業は、人事権は全て、半導体事業を知らない経営者に握られている。事業速度や経営判断が遅くても着実性が優先される公共事業を中核としてきた日本の総合電機(東芝、日立、三菱、NEC、富士通、沖電気など)は、半導体部門を持っていたが、素早い経営判断が必要な半導体事業には対応できなかった。このため適切なタイミングでの投資や、製品ポートフォリオの見直し、半年ごとの成長戦略などを全く理解できなかった。これらのビジネスに対する考え方が、海外の半導体専業メーカーとは全く違うため、日本の半導体は海外メーカーとは立て続けに負けていった。日本の半導体産業だけがガラパゴス化していたのである。

にもかかわらず瞬時の経営判断が必要な半導体ビジネスを経営陣は決して手放さなかった。かつては総合電機から分社化したかに見えたが、その実態は株式の過半数を持ち、子会社として扱ってきただけだった。このため人事権は全て親会社が握っており、半導体事業会社が適切な経営判断しても親会社の経営陣は理解できなかった。ここに日本の半導体が負けた大きな要因の一つがあった。加えて、東芝のトップ間では独特の派閥争いがあったようだ(参考資料1)。

話が少し脱線したが、香山氏は東芝セラミックスの社長に着いたあと、MBO(経営陣によるバイアウト)によって東芝から完全独立を成し遂げた。社名をコバレントマテリアルズとした。コバレント(covalent)は、結晶の共有結合の意味に使われ、シリコンを示唆する。

現在はコバレントを退任し、K. Associatesというコンサルティング会社を営んでいる。半導体関係の企業の役員もしており、その中には米国の半導体関連企業も含まれる。英語が堪能で、筆者の知り合いの記者がISSCCでの香山氏の講演を聴き、またネイティブが話している、と勘違いしたほどだ。

最近はAmazonやGoogle、FacebookなどITサービス会社も半導体チップを持つようになってきた。中でもGoogleは、AIのTensor Processing Unit (TPU)を何度も設計しており、自分らでRTLまでプログラムするようだ。Amazonはコンテキストアウェアネス(Context Awareness)と呼ばれる、履歴から次の行動を示唆する技術を持っているが、ここにディープラーニングで示唆する精度を上げるためにAIを使うことができる。AIを使う以上、AI専用チップは必須になる。消費電力が無駄に大きなGPUは今後、AI応用では専用AIチップに代わるであろう。

ITサービス企業までが半導体チップを持つ時代に入った以上、富士通やパナソニックのように半導体事業を捨てた企業はどのようにして差別化技術を持つのだろうか。もちろん独自のソフトウエアアルゴリズムで差別化しても、いずれそのアルゴリズムをチップ化されればソフトウエアは性能で圧倒的に負けてしまう。

このような時代背景の中で、香山氏がIEEEからRobert Noyce賞を受賞したということは、米国やIEEE側は、半導体ビジネスの重要性を日本の香山氏を通して日本の半導体業界にエールを送っているのではないか。

参考資料
1. 大西康之「名門東芝を破滅させたトップ間の嫉妬無限地獄」、President 2019年11月号

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