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これからの半導体はどうなるか、未来によせる思いを学生と語り合いたい

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学会や産業界など半導体ビジネスに従事されておられる人を対象に講演させていただくことが多々あるが、このほど学生向けに大学で講義することになった。就職を控えた3年生、2年生と一部の大学院生、といった半導体の世界とは無縁な文科系の人たちに向けてエレクトロニクス産業・半導体産業で今、起きていることについて話をする。どうやって一般の人に受け入れられる内容にしようか、頭を悩ませながら今資料を集めている。

エレクトロニクス産業についての知識は今の学生には非常に乏しいようだ。何せ、東京大学理科1類の1年生教養学部から専門学科へ異動する場合に、人気が最もあるのは機械工学科で最低なのは電子工学科だという。機械工学はロボットのイメージで、電子工学はモノが見えないためイメージできない。ロボットの中身の8割は電子回路なのに、これほどまでに差がつくということは今の1年生の学生はエレクトロニクス産業を全く理解していないということになる。


第1世代3G iPhoneのマザーボード。半導体がぎっしり詰まっている
第1世代3G iPhoneのマザーボード。半導体がぎっしり詰まっている
出典:TPSSセミナーにて筆者が撮影


同じことが就職活動でもいえる。学生に人気のある企業と、現実にしっかりした企業との落差も激しい。単なるブランド企業志向なのだろう。ただし、この現象は今始まったことではない。古くは繊維メーカー、鉄鋼メーカーなどが人気をさらった。しかし新入社員が自分で判断を下し企業の中心となり動かせるのは40代以降だろう。この頃になるとその人気企業は斜陽になる。こういったストーリーを歩んできた。

公務員でさえ、この先20〜30年後はどうなるかわからない。先日の日本経済新聞によると日本政府の借金は国民一人当たり630万円にもなるという。破たんした夕張市が一人当たり450万円だったから何とその1.5倍もの借金を今現在、国民に強いていることになる。国家財政を借金まみれにしたのは誰か。借金を返すだけではなく、予算そのものも縮小しなければ破たんしてしまう。50兆円の税収しかないのに80兆円もの予算を10年以上に渡り毎年ずっと組み続けてきたのは誰か。いずれ、ここにもメスが入るだろう。

結局、どの産業がこれから50年間くらい成長していくか。この見極めが学生や院生などこれから社会に出る若い人たちの大事な要素となるだろう。半導体産業に身を置くものとして、半導体産業はこの先50年は続くと言いきる。もちろん自己バイアスはかかっている。しかし、50年後の歴史を見てほしい。半導体の発展がどう社会の発展と共にやってきたか、という歴史を知ることでその未来にも向かうことができる。

1970年前半に、これからはコンピュータの時代になる、と兄から聞かされた。実際、大型コンピュータはゲートアレイやロジックICなどの半導体をベースに作られていた。「IBMは剣山のようなICパッケージ(今でいうピングリッドアレイPGA)を使っている」と日経エレクトロニクスの上司が叫んでいたことを今でも覚えている。コンピュータメインフレームからダウンサイジングとしてミニコン、オフコン、ワークステーションそしてパソコンの時代へと変わっていってもキモはやはり半導体だった。1990年代終わりごろIBMは、ポストPC時代にはIA(インターネットアプライアンスまたはインフォメーションアプライアンス、今でいうデジタル家電)の時代になると宣言した。デジタル家電、携帯電話、スマートフォンの時代になってもそれらのキモはやはり半導体。もちろん、ゲームWiiのキモも半導体。これから先、どのような応用製品が現れようと、その心臓部は半導体になることは間違いない。だから、Physics of Semiconductor Devicesという半導体デバイスの名著を著したSimon Sze博士は、半導体産業はこの先も50年は続くと言いきった。全く同感だと思う。

太陽電池やLED照明、リチウムイオン電池、風力発電などエネルギー産業がこれから未来に向けて発展するだろうが、それらを安全に確実に機能させ、作動させるのは実は半導体である。パワー半導体だけではない。パワー半導体を動かすためのドライバやコントローラといった半導体チップも欠かせない。やはり、エネルギーデバイスのキモも半導体なのである。

医用やバイオ産業にも半導体はこれまで以上に使われる。半導体加工技術であるMEMSを利用したマイクロシャーレやそのデータ処理など、半導体を駆使することで1000種類もの実験条件を同時に変えて実験できる。バイオ実験を短期間で行うことができ、バイオ産業の発展を支える。ヘルスケア分野での半導体やMEMSの応用がこれから発展していくであろうことは英国特集で述べた。

あらゆるモノづくりや建築土木の設計を担うCAD。今はデスクトップのコンピュータでCADソフトウェアにシミュレーションソフトを載せ、実物に近いモノがどのような性能・機能・特性・品質・信頼性を持つか、シミュレーションしている。今後はCADやシミュレーションソフトをNANDフラッシュ半導体チップに焼き付け、そのコントローラを1チップ化できれば、iPhoneのようなスマートフォンを使って現場で設計したり設計データを修正したりできるようになり、モノづくりや建設現場の世界が一変する。CADやシミュレーションソフトを効率よく、低い消費電力で動かすのも半導体があればこそ可能になる。

防衛産業にも半導体は欠かせない。日本にミサイルが飛んできたとき、ミサイルの初速度と3次元上の向きを検出し、T1秒後の位置と向きを計算する。T1秒後に実際の位置や向きと最初に計算した位置との差を修正する。そのT1秒後の速度と向きを使いT2秒後の位置と向きを計算する、というような手順と細かい時間刻みで攻撃ミサイルの位置と向きを素早く計算し、時間をさらに刻んでいけば最後に撃ち落とすことができる。このECM(電子迎撃システム)では高速計算が欠かせない。高速計算するための手段が半導体だという訳だ。敵のミサイルを検出するのはミリ波レーダーだったり、ミサイルとの距離が短くなったりすると赤外線センサーを使う。いずれも半導体デバイスだ。

今の時代がこの程度だとすると、将来はもっと発展するという思いを巡らせば、半導体産業の未来は見えてくる。とても明るい。その産業にうまく乗れるかどうかは経営者、従業員を含め人間次第。半導体メーカーの人間、学生・院生、他の産業の人間など、さまざまな業界から参入してくる。そのために人材育成をどうするか、教育分野に突きつけられた最大の問題になろう。

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