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Wolfson、音量に応じて電源電圧を変えるアンプのオーディオコーデック開発

英国スコットランドのエジンバラに拠点を置くファブレス半導体メーカーのWolfson Microelectronicsは、入力インターフェースから左右のADCおよびDAC、デジタルフィルタ、ダイナミックコントロール回路、左右の出力アンプ、左右のラインドライバ、左右の差動ラインドライバなどを集積しながら、静止時の消費電力4.5mWと少ない、オーディオコーデックIC、WM8903を開発、サンプル出荷を始め、6月9日に世界同時発表した。

Wolfsonオーディオコーデックのブロック図
Wolfsonオーディオコーデックのブロック図


このオーディオコーデックは、iPhoneなどのスマートフォンや携帯メディアプレーヤーなどへの応用を狙ったもの。1100mA/Hの電池なら、これまで14~24時間しか持たなかったスマートフォンの電池動作時間は120時間以上に伸びる。また、300mA/Hの電池ならフラッシュメモリーベースの携帯メディアプレーヤーの動作時間は従来の24~30時間が40時間以上伸びると見積もっている。

プロセッサを使って、オーディオコーデック機能をソフトウエアで実現する場合と比べて、2003年にはソフトコーデックでのプロセッサが50mW消費していたのに対してハードコーデックは25mW消費していたという。2009年にはプロセッサの微細化によりソフトコーデックが12mWと下がるのに対して、今回のチップでは静止時4.5mWまで下がるとしている。この静止時とは、入力から出力までのすべての回路のうち、DACとWクラスアンプ、出力ミキサー回路をオンし、それ以外の回路はすべてオフという状態と定義している。

WクラスアンプはWolfsonの独自開発したアンプで、WはWolfsonの頭文字を表している。このアンプは、入力信号の振幅が小さいようなクラシック音楽の場合にはパワーアンプの電源電圧を下げ、ロック音楽のように入力信号振幅の大きな大音量の音楽の場合は電源電圧を上げる、という電源電圧適応型アンプである。従来のアンプでは、ダイナミックレンジが広ければ電源電圧を高く固定しているため、ダイナミックレンジの小さな小音量の音楽には電流は低いが電源電圧は変わらないため、消費電力は電流分しか下がらない。


入力信号に応じて電源電圧を変えるアンプ

入力信号に応じて電源電圧を変えるアンプ


従来のヘッドフォンアンプでは、チャージポンプを利用してアンプの電源電圧を昇圧しているが、入力振幅にかかわらず一定である。今回の適応型電源は、入力が小さければ電源電圧も下げるという方式なので、小さな音量での消費電力は圧倒的に有利になる。今回は、入力信号が入るとその振幅を検出し、チャージポンプ回路を動かし電源電圧を上げるという方式をとる。

AB級アンプと比べると、片チャンネル当たり0.1mW出力の音量ではABアンプが8mW程度消費するのに対して、今回のWM8903は3mW程度しか消費しない。

逆に、大振幅だと電源電圧を大きくするため多くの電力を消費する。大音量の音楽を聴く場合には消費電力は変わらないということになる。静止時に4.5mWの消費電力が片チャンネル0.1mWの出力のときには6mW、同1mW出力のときは13mW程度消費する。

加えて24ビットの熙しDAコンバータは従来の3.3Vから1.8Vで動作し同じ性能(S/N比)を持つように設計しなおし、消費電力を削減できた。また、耳障りなポップノイズやクリックノイズを減らすため、DCオフセットを減らすことで解決した。

消費電力の削減とは別に、シリコンのMEMSマイクロフォンに対応する入力のインターフェースも取り付けている。今後はMEMSマイクも作製する予定だ、と同社マーケティングマネジャーのYan Goh氏は述べる。

プロセスはミクストシグナルICなのでさほど微細ではなく、0.6μmないし0.35μm程度のシリコンCMOSプロセスを使う。ファウンドリを複数使い、今年の4Qに量産に持って行きたいとしている。量産時には月産数百万個の単位で生産する計画だと同氏は語る。チップは5mm×5mm×0.55mmの40ピンQFNパッケージに封止する。

今回開発した、Wクラスアンプと低電圧DACは今後の製品ポートフォリオのキーテクノロジに位置づけるとGoh氏は言う。

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