低コストのGe-on-Si半導体基板技術を東洋アルミが開発、GaAs半導体を安価に
Si基板上にGe層を短時間で安価に作製する方法を東洋アルミニウムが開発した。Ge層の厚さを自由に変えられるだけではなく、ストイキオメトリ(化学組成)も制御できる。今のところ高価なGaAs系半導体向けの基板としての道を提案している。安価な太陽電池やSiフォトニクス、スピントロニクスなどの基板材料への応用を狙っている。

図1 Geの格子定数はGaAsとほぼ同じ 出典:東洋アルミニウム
SiGeの半導体をそのまま作れて太陽電池を作製できるだけではなく、もっと高い効率を追求するなら、GaAs系半導体をエピ成長で作ることもできる。Si上のGeの格子定数は、GaAsや、AlAs、ZenSeと格子定数を合わせることができるからだ(図1)。
Si上にGeを安価に作製できるのは、スクリーン印刷法で作れるからである。その方法は実に簡単であり、同社は動画でその作り方を紹介している。
まず、東洋アルミの強みであるAlにGeを混ぜたペーストを面方位(111)面のSiウェーハ全面にスクリーン印刷で塗る(図2)。100°Cで10分、乾燥させた後、800°Cの炉に入れ下地のSiと反応させる。アニール炉の中で、最初は基板のSiとAl-Ge乾燥ペーストが反応し、AIとGeとSiの混合体の層ができる。その後冷却するとSiウェーハ上に SiGe結晶層がエピタキシャル成長によってでき、その上にAl+Si+Geの混合体ができる。この過程で、SiウェーハとAl-Si-Geの溶融層ができて、それがエピタキシャル成長するらしい。この混合体をエッチングとCMP(Chemical Mechanical Polishing)研磨などで削除すると、Siウェーハ上にSiGe層が形成された鏡面ウェーハが完成する。
図2 Ge形成プロセスは簡単 出典:東洋アルミニウム
この方法は、MOCVD(有機金属化学的気相成長)やMBE(分子ビームエピタキシー)と違って真空炉を使わずにSiGe結晶層を形成できるという特長がある。しかも10~20µm厚さでも短時間で形成できる。さらに下地のウェーハはどのようなサイズでも使うことができる。東洋アルミが試しに、n型の(111)面シリコン基板上にSiGe層を作り、表面に残るAl+Si+Ge混合層を残したまま、模擬太陽光を当てたところ、太陽電池特性が得られた。SiGe層にはわずかなAl原子が残っているためp型のSiGeが自然に出来ている。このため、pn接合ができていることを示している。
太陽電池の特性としては、開放電圧が0.4Vと低く、電力変換効率がさほど高くないため、このままでは使えない。効率を上げる場合にはエネルギーバンドギャップの広いGaAsやAlGa Pなどの化合物半導体をGe上に作製すればよい。従来のGaAs系の太陽電池の効率は20~30%と極めて高いが、基板コストが高く、宇宙衛星向けなど特殊な用途しか使われてこなかった。今回のSi上のGe基板だと安価であるためGaAs系の太陽電池を製造できるようになる。これまでの実験では2インチSiウェーハを用いてきたが、実用化に向け8インチウェーハを使う予定になっている。
東洋アルミは、化合物半導体の成長を産業技術総合研究所に依頼しており、産総研は成長速度の速いHVPE(ハライド気相エピタキシャル成長)法を使ってIII-V族系の太陽電池を試作している。ここでは、SiGeの成分を徐々に変えられるため、Si含有量を減らしGe層をバッファ層として化合物半導体をエピタキシャル成長させることができる。
また、整流ダイオードとしての用途も開発している(図3)。個別半導体のNexperia社はn型Si上にp型のSiGeを形成した整流ダイオードの特性がSiショットキーダイオードの損失よりも少ないことを発表している。一般にショットキーダイオードはpnダイオードよりも順方向電圧が低いが、逆バイアス電流が多い。n型Siとp型Geのpnダイオードは順方向法電圧が低く、かつショットキーダイオードよりも逆バイアス電流は小さいため、損失は少ないというメリットがある。
図3 ショットキー整流ダイオードよりも損失が少ない 出典:東洋アルミニウム
さらに、SiGe層の成分を変えることで、光の屈折率を変えられるため、導波路としても使える(図4)。実際にSi基板上にSiよりも屈折率の高いGeを導波路として用い、そのそば(間隔240nm)に共振器リングを作製しても干渉が見られなかったという優れた結果を得ている。
図4 シリコンフォトニクスの導波路として使えそう 出典:東洋アルミニウム
この技術を開発した東洋アルミのシニアスペシャリストのダムリン・マルワン(Marwan Dhamrin)氏は、2012年に東洋アルミに入社、2020年に大阪大学に東洋アルミとの半導体共同研究講座を持ち、特任教授としてこれらの研究をしている。イエメン出身のマルワン氏によると、Si基板とSiGeとの界面ではミスフィット転位などの欠陥がないことをスウェーデン工科大学の研究機関SINTEFに送り確認したという。今回の技術は、2023年7月からNEDOプロジェクトの「単結晶SiGe/Si基板のスクリーン印刷による形成技術」として2年間の支援が認められている。