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TSMC、自動車向けのICチップにも3nmプロセス技術を24年に提供

TSMCは自動車向けの半導体チップに関してもADAS(先進ドライバー支援システム)や自動運転向けなどの演算主体のSoCプロセッサ向けに、そして最先端の3nmプロセスノードの技術「N3AE」を自動車およびHPC(High Performance Computing)向けに、2024年に提供する。さらに高周波無線技術でも6nmノードを導入する。同社ビジネス開発担当シニアVPのKevin Zhang氏(図1)が語った。

TSMC Kevin Zhang氏

図1 TSMCのビジネス開発担当シニアVPであるKevin Zhang氏


TSMCは顧客の要求によく応えるファウンドリである。自動車向けのIC製品は、22nmや28nmといった微細化(リニアスケーリング)がまだ成り立つプロセスノードでのICチップだった。クルマ用の半導体といえば、制御系でのセンサ→アナログ→ADC→マイコン→ドライバIC→パワー半導体、というシグナルチェーンでは微細化する意味がなかったためだ。センサやアナログIC、ADコンバータ、ドライバICなどは微細化の必要性が少なく無理のないプロセスで十分作ることができた。パワートランジスタとなると今度は逆に耐圧を上げるため、空乏層を広げたり電界を緩和したりするような工夫が必要で、むしろあえて配線間隔を広げてきた。

無理やりモノリシックに高集積する必要がなく、しかも微細化すると耐圧が持たないこともあり、微細化の必要性がなかった。また、高周波のアナログICだと単純に微細化すると、性能はかえって悪くなった。ゲート抵抗やRFに影響を及ぼす寄生素子が働くからだ。

ところが、次世代クルマ作りでは、Software-Defined Vehicleのようにソフトウエアで定義されるクルマの時代が始まる。クルマは、10年あるいは30万km走行など寿命の長い製品である。このため、ハードウエアはそう頻繁には変えられない。これまでは古い機能のまま、10年以上も走らせていた。ところが今、10年前の古いクルマといえども新しい機能を搭載できるようになる。これがソフトウエア定義のクルマの最大のメリットである。

すなわち、ハードウエアを変えられない代わりに、ソフトウエア(アプリ)を変えることで機能を更新したり、新機能を追加したりするようにするのである。それもOTA(Over the Air)と呼ばれる無線を使った通信回線で自動的にソフトウエアを書き換える。実はすでにTesla車では、OTAが搭載されている。今後はOTAが全てのクルマに広がり、SD-Vの時代にやってくる。

そのようなプロセッサでは、演算速度を上げなければ最近機能に対応できなくなる。このためプロセッサに求められる性能は高速・低消費電力である。だから、微細な3nmプロセスノードを使って実現しなければならない。


Extending N3E to Adress Automotive Market Early

図2 TSMCは車載向けに3nmプロセス(N3AE)を準備 


TSMCは、SD-Vに備えてN3Eノードに基づく車載用のプロセスデザインキット(PDK)と、車載向けSoC3nmプロセスノード(N3AE)を提供する。ただし、車載用の半導体チップは自動車工場の認定が必要なため、N3Aプロセスが2025年に認定を受けて初めてこれを利用できるようになる。N3AEのAEとは、クルマ用の準備をするという意味で、Automotive Earlyと名付けた。自動車用のコンピュータでは、冗長構成をとることを念頭に判定回路を作るため、回路規模はやや大きくなる。このため3nmプロセスを使うのだとしている。

TSMCはこれまで微細化しにくかったプロセスでも対応できるように微細プロセスを拡大している。例えばRFでは6nmという最も微細なプロセスであるN6RFプロセスも提供する。このプロセスを使えば、これからのWi-Fi 6や7など新しいワイヤレスWi-Fi技術において、RFとベースバンドを1チップに集積することが可能になる。

(2023/07/04)
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