配線金属膜をどのような基板にも付けられるi-SB技術を岩手大が事業化へ
プリント基板だけではなく、テフロンなどの基板にも密着性の良い配線を形成できる技術を岩手大学が開発、高周波特性の優れた回路を容易に形成できるようになる。岩手大のi-SBと呼ばれる技術は、分子接合材を用いる異種材料接合技術である。産業界もすでに着目し始め、実用化に向けたエコシステムの構築中だ。この技術を普及させるためのプラットフォームを今秋には構築する計画で進めている。
半導体チップをどのような基板にも実装できるというi-SB技術を開発した岩手大学は、学長から副学長、さらに技術を担当する教授をはじめとして全学を挙げて実用化に取り組んでいる。リジッドなプリント回路基板だけではなく、フレキシブル基板にも260°C以下の温度で付けることができる。このため誘電率が低く低損失の高周波基板にはもってこいの技術となる。しかも共有結合の分子接合技術は表面を荒らす必要はなく、またポリイミドフィルムのようなフレキシブル基板やテフロンのように表面にこびりつきにくい基板でも配線金属のCuなどを形成できる。
このi-SBの名称は、iはIwateやInnovation、SはStrongやSimple、Superior、Surfaceなどを表現したB(Bonding)という意味を含むことから来ている。何でも接合できるという特性を利用してまずは、高周波基板への応用をまず念頭に置いた開発を進めている。ポリイミド樹脂基板上に銅(Cu)配線を描くという実績もある。
図1 レジストのように分子接合膜を処理できる 出典:岩手大学
電子回路の配線パターンを描く技術では光反応性分子接合材を用いる。フォトリソグラフィ技術に使われるレジストのように使える(図1)。この接合材では、光反応によって下地基板との密着性が上がるため、フォトマスクを用いて光の当たる場所と当たらない場所を作り出し、洗浄すると光の当たったところの分子膜だけが残る。ここに触媒となるパラジウム(Pd)を付けるとその上に形成する金属膜との共有結合を促す基ができる。ここに無電解メッキすることで分厚い金属膜が出来上がるという訳だ。
露光装置の解像度によるが、今のところ実験では線幅、線間隔とも2µmの配線が形成できているという。半導体チップを基板に接着させる場合には、十分な特性といえそうだ。高機能な半導体チップ(CPUやSoCなど)をパッケージ基板に実装する場合には10µm程度の配線が要求されており、さらなる多ピン化や微細配線に使える技術となりそうだ。また、分子接合材料を入れた溶液に室温で1分程度浸すだけで2種の材料同士を密着させることができる。温度を上げる必要がないため、基板の中にチップを埋め込む実装技術にも使えそうだ。
岩手大学は、産業界への応用をにらみ、先端半導体パッケージングへの応用を念頭に置き、低誘電材料基板への電極配線形成技術を狙っている。従来は、下地の基板と密着性が悪くなるのを防ぐために表面を荒くする方法が使われていたが、下地が荒れている部分の抵抗が高くなるため、高周波などで寄生抵抗として現れる。紫外光を当てると下地との結合を断ち切ることができ、リソグラフィ技術のように分子接合膜をパターニングできるため、微細な配線加工も可能である。
パワー半導体やマイクロプロセッサのように発熱の大きな半導体チップを封止できるトリアジン系シアナート樹脂やトリアジン系プロパルギル系樹脂などの高耐熱性樹脂も開発している。転移温度300°C以上、熱分解温度400°C以上を得ており、さらに熱伝導が良く絶縁性が高い樹脂として応用できるとしている。
岩手大学は、文部科学省の「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」の中で、この分子接合技術を推進してきた。この技術をさらに発展させるため、「分子接合技術センター」を2022年4月に設置した。ここには社会実装を図るための研究者が参加し、エレクトロニクス・実装分野での応用を狙い、この技術を発展させようというもの。
図2 2023年10月に設立を予定しているi-SB事業化プラットフォーム 出典:岩手大学
10月に立ち上げるi-SB事業化プラットフォーム(図2)では、岩手県工業技術センターとも共同開発を行う。共同研究を通じて、主に県内企業やエレクトロニクス実装以外の応用、例えば自動車や医療分野への展開も視野に入れている。さらに分子接合技術センターや県工業技術センターなどで開発した技術の中でも、接着剤に関するi-SB技術はいおう化学研究所を通して、樹脂合成に関しては技術商社を通して事業化を展開していく。このプラットフォームを使って事業化を展開していくことになる。