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PCMメモリ集積で車載ドメインコントローラ/SDVを狙うSTMicroelectronics

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STMicroelectronicsが自動車仕様にPCM(相変化メモリ)を集積したマイクロコントローラ(MCU)Stellarファミリを東京ビッグサイトで開催されたオートモーティブワールド2023で展示した。Intel/Micron連合がPCMを利用したX-Point Memoryの事業を断念したのとは対照的だ。STの狙うのはあくまでも160°Cのような高温でも使えるPCMを開発、車載コンピュータへの応用だ。なぜか。

STがフラッシュメモリではなく、PCM(図1)を組み込みMCUに集積したのはあくまでも信頼性、耐久性を上げられるようになったためである。それだけではない。CMOSロジックのレベルまで微細化できることで、将来のカーコンピュータシステムに使うドメインコントローラや中央コンピュータに応用し、SDV(ソフトウエア定義のクルマ)に対処できるためでもある(参考資料1)。

Phase-change memory / STMicroelectronics

図1 PCM(相変化)メモリ 出典:STMicroelectronics


開発したPCMは、GST(Ge2Sb2Te5)カルコゲナイド材料を局所的に加熱することで高抵抗のアモーファス状態から、低抵抗の多結晶状態を作り出すことで、「0」と「1」を表現する(参考資料2)。STはPCMの特許を持ち、これまで15年以上も研究開発を積んできた。その結果、組成構造を調整し、370°Cでの相変化する材料を見つけたことが大きいという。このため、160°Cで使用しても劣化しない。Stellarマイコンは最大動作温度165°Cで車載規格のAEC-Q100 Grade 0に準拠している。耐久性に関してはセルに25万回書き込んだ後、10年以上メモリ内容を保持できる耐久性を持ち、セルに1000回書き込んだ後なら25年以上も持つ。

加えて、フラッシュメモリと違って1ビット単位でEEPROM(電気的に書き換え可能なROM)のように書き込める。フラッシュだとデータを書き込む前にセクター領域をすべて消去しなければならなかったが、このPCMはセクター消去が不要でそのまま上書きできる。このため、書き込み速度は900kB/sとフラッシュより4〜5倍速いという。メモリセルとなるGST材料をロジックの多層配線領域に形成するため、配線幅と間隔の微細化にも対応できる。10数nmにも対応できるという。

このマイコンは現在、ゲート長28nmのFD-SOI(Fully Depleted Silicon on Insulator)CMOSトランジスタ技術で形成されており、MOSトランジスタ部分はバルクCMOSの16/14nmのFinFET相当の実力を持つ。PCMメモリ技術は2018年にIEEE IEDM(International Electron Device Meeting)でLETI-ceatechと共に発表した技術(参考資料3)をベースにしており、PCM部分をメモリセルの選択トランジスタの上に形成するため、セル面積は0.036µm2と極めて小さい。ちなみに同じ技術で形成したSRAMセルは0.12µm2と3.3倍も大きい(図2)。


Co-Integrated Memories Morphology / STMicroelectronics

図2 セル面積は小さい 出典:STMicroelectronicsのIEDMでの講演


この32ビットマイコンStellarは、PCMメモリを集積することで、車載用として高温に耐えるだけではなく、ソフトウエアを運転中に更新できるOTA(Over-the-Air)に対応する。マイコンは微細化できることでマルチコア構成のドメインコントローラが可能になり、しかもハイパーバイザ機能をハードウエアとして搭載することで1個のマイコンで数個のマイコンがあたかも搭載されているような仮想化システムができる。だから車載用中央コンピュータやドメインコントローラを構成できるという訳だ。メモリ保護やセキュリティ回路も集積しているという。

ちなみにCPUコアとしては、リアルタイムOSに対応したArm Cortex-R52を4コア搭載し、40GBのメモリを集積できるとしている。またダイナミックメモリ拡張機能を使うことによって、OTAで1面のメモリを書き込みながら、もう1面のメモリにも書き込めるという。


Stellar / STMicroelectronics

図2 カーエレクトロニクスのほとんどに使えるStellarマイコン 出典:STMicroelectronics

Stellarはほとんどのカーエレクトロニクスのドメインコントローラとして使えるという。スマートトレイン制御からEV(電気自動車)用のインバータ制御やオンボードチャージャー、BMS(バッテリモニタリングシステム)、DC-DCコンバータ、ADAS、スマートゲートウェイなど自動車のECUを複数まとめるドメインコントローラとして使えるところが多いとしている(参考資料4)。

参考資料
1."Stellar 32-bit Automotive MCUs", STMicroelectronics
2."PCM", STMicroelectronics
3."Truly Innovative 28nm FDSOI Technology for Automotive Microcontroller Applications embedding 16MB Phase Change Memory", IEEE IEDM (2018/12/3-5)
4."Stellar: First Automotive MCUs introducing Phase Change Memory (PCM)", STMicroelectronics, YouTube

(2023/01/31)

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