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Micronがメモリ不況中にNANDフラッシュ工場を拡張する理由

Micron Technologyがシンガポールの北にある工場を拡張するというニュースをすでに伝えたが(参考資料1)、その理由について後編では紹介しよう。Micronは、シンガポール工場をNANDフラッシュの中心ともいうべきCoE(Centre of Excellence)と位置づけた。工場を拡張するには、その意味がある。

図1 Micron Technology CTOのManish Bhatia氏 右から2番目

図1 Micron Technology CTOのManish Bhatia氏 右から2番目


これまで工場への投資や工場の拡張は、生産規模を拡大することが目的だった。ところが、1枚のウェーハを製造する時間が長くなりすぎると、ウェーハが完成するまでに3〜4カ月もかかってしまう。これでは時にはビジネス機会を失ってゴミになりかねない。これまで通りの期間で作らなくては、ビジネスになりえなくなってしまう恐れがある。

NANDフラッシュは、これまでムーアの法則に沿って集積度を上げ、2次元チップ上にトランジスタを形成してきた。多少チップが複雑でも、ウェーハプロセス時間は多層配線が少々あっても1〜2カ月でウェーハを完成させる。ところが、NANDフラッシュは、ウェーハ内にCMOS回路の下にメモリを32層、64層と形成させてきた。最近96層のNANDフラッシュの開発が終わり、次は128層へと集積度を上げていくことになる。数年後には200層を超えるとMicron CTOのManish Bhatia氏(図1)は見る。

こうなると、ウェーハプロセス時間は層数が増えるにつれて長くならざるを得ない。メモリ領域を128層と深くすればするほど処理時間は長くなる。そこで、メモリ領域を形成するための製造装置を多数並べておくことで処理時間を抑えることができる。Micronが工場を拡張するのは、まさに装置を多数並べることができるようにするためだ。

装置を多数並べると生産性は上がるものの、投資額が上がりコストがかかるようになる。そこで、コストアップを防ぐために必要な技術がスマートマニュファクチュアリングということになる。

スマートマニュファクチュアリングで重要なことは、無人化と自律化である。このための設備に力を入れている。工場内にはまだ装置を搬入していないが、搬送系のマシンはすでに設置している。広島工場と同様に(参考資料2)、2階構造の搬送経路で天井から低い層の搬送マシンは製造装置へ直接アプローチする。搬送マシンの速度は200m/分、ポッドと呼ばれる搬送マシンの重量は10kg。工場を公開した時には搬送マシンを走らせているだけに留まる(残念ながら写真撮影は許可されていない)。


図2 装置のさまざまなデータを可視化するスマートマニュファクチュアリング

図2 装置のさまざまなデータを可視化するスマートマニュファクチュアリング


ただし、スマートマニュファクチュアリングでは、1台の製造装置に供給される電気やガス、温度などさまざまなプロセスデータを可視化し(図2)、歩留まりや生産性の向上につなげる。データ解析にAIを使うことは必須だとしており、製造ラインやサプライチェーンのスマート化だけではなく装置のスマート化も必要になる。特にMicronのサプライヤーの一人、Lam Researchの社長兼CEOのTim Archer氏は、スマートマニュファクチュアリングでは、ウェーハの状態をリアルタイムで測り、条件を変えられるように適用できるアダプティブ、さらに装置に取り付けたセンサからのデータを常に比較しながら判断する自己メインテナンスが重要になると述べた。こういった要求性能は、装置設計に大きく影響を及ぼし、装置の示すデータとの一致性をチェックすることが重要とも語る。MicronのスマートマニュファクチュリングおよびAI担当VPのKoen De Backer氏は、ひと月当たりのデータ量は10TBにはなるだろうと述べ、これを扱える優秀なデータサイエンティストのようなタレントが必要だ、と語った。


図3 ウェーハ上のムラをパターン認識(機械学習)で自動検出する

図3 ウェーハ上のムラをパターン認識(機械学習)で自動検出する


製造したウェーハの外観検査(図3)では、パターン認識を機械学習させ、良品か不良品かを判定する仕組みを導入する。しかも学習データを順次加えていくという。外観検査に必要なウェーハのパターンは25万画像/日と膨大になり、これは29人分の人手に相当するため、機械学習は必須という。

さらに工程間、装置間をつなぐ搬送マシンに加え、2019年から搬送ロボットも既存工場に導入した(図4)。また製造装置の部品をカスタマイズで作るため、3Dプリンタも導入している。特殊な部品も取りよせるよりも素早く入手できる。


図4 2019年1月に導入された既存工場の搬送用ロボット

図4 2019年1月に導入された既存工場の搬送用ロボット


新工場Fab 10Aは、従来の工場Fab 10Xとは別棟になっているが、3階程度の高さで両工場をつなぐコリドーを設けている。ただし、コリドーに人間が入れるのか、搬送マシンだけなのか、詳細は語らない。

MicronのCTOであるManish Bhatia氏は、「2019年はNANDフラッシュにとって挑戦的な年だが、これからAIや5G、IoTなどデータを保存するNANDフラッシュの需要が増える」と見ている。これまでのパソコンやスマホ向けの需要からデータセンターへと広がっており、さらに自動運転やネットワーキングへも広がっている。この先の更なる工場のビルの拡張も視野に入れている。


図5 シンガポールの大学生・院生が設計した自動運転車カート

図5 シンガポールの大学生・院生が設計した自動運転車カート


将来に向けた人材育成にも力を入れる。シンガポールには二つの世界的な大学がある;国立シンガポール大学と南洋工科大学だ。学生や院生のインターンを受け入れ、工場内を走行する自動運転車カートも設計製造させている。クルマのルーフにLiDARを設置し、周囲情報を検出しながら構内を走る。このボード設計を学生・院生に行わせて、半導体の応用を学ばせている。優秀な学生を見つけて、研修させる良い機会となっている。カートはヤマハ発動機製の電気自動車をベースにECUを搭載している。


参考資料
1. Micron、NANDフラッシュの工場を拡張、セレモニー開催 (2019/08/15)
2. Micronが広島工場に数十億ドルを投資する理由 (2019/06/12)

(2019/08/23)
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