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銅の5倍の熱伝導性を持つ合成ダイヤ薄膜で、日本市場狙うElement Six社

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英国の工業用ダイヤモンド材料メーカーであるElement Six Technologies社が日本での活動を本格化させている。これまで工業用のダイヤモンド砥粒やパウダーなど物理的に固いという特長を生かし機械的な作業の分野に注力していたが、エレクトロニクスにも力を入れ始めた。熱伝導の良さに注目している。

同社は、南アフリカに本社を置くダイヤモンドの採掘から加工・卸販売まですべてを手掛ける世界的ダイヤモンド企業De Beers(デビアス)社グループの一員で、工業用合成ダイヤのメーカー。合成ダイヤは5万5000気圧の圧力と、1500℃以上の高温で製造することに注力してきた。同社には高温高圧炉は多数台、工場に設置されている。

最近は、ダイヤモンド薄膜用のプラズマCVDにも力を注いでいる。パワー半導体やレーザーなど熱を発するデバイスに向けた市場へ薄膜合成ダイヤの製造を進めている。ダイヤモンド自身は絶縁体にも半導体にもなる。プラズマCVDを使った合成ダイヤ薄膜半導体の研究は、国内でもいくつかの研究所で行われている。しかし、商用化にはまだ至っていない。

Element Sixが薄膜の合成ダイヤを製造する狙いは、熱伝導率の高さにある。銅と比べで熱伝導率は2000W/mK以上と銅の5倍以上もある。加えて、イントリンシックでは電気的に絶縁体である。このため半導体レーザーや送信機用のパワーアンプなどのヒートスプレッダーへの用途に向く。研究フェーズでは、エネルギーバンドギャップがSiCの3.1eV、GaNの3.5eVよりもずっと大きい5.5eVもあることを利用してパワー半導体の研究が行われている。

薄膜の基板は2種類。特許を持つダイヤモンド合成用のプラズマCVD装置を使って、小さなダイヤモンド基板上では単結晶ダイヤモンドをエピタキシャル成長させ、ダイヤ以外の基板では多結晶のダイヤを成長させる(図1)。基本的には、CH4メタンガスを水素で還元・分解するとダイヤモンドが形成され、グラファイトが形成される割合は極めて少ない、と来日した同社半導体部門シニアディレクタのBruce Bolliger氏は自信を示す(図2)。カギは、成長条件は言うまでもないが、純度の高い水素ガスを使うことだという。


図1 多結晶と単結晶のダイヤモンドを製造 出典:Element Six Technologies

図1 多結晶と単結晶のダイヤモンドを製造 出典:Element Six Technologies


多結晶の合成ダイヤを成長させる場合には、メタルのW(タングステン)基板を使うという。これまでの所、5インチウェーハでの合成を主力製品としているが、大口径化では最大直径138mmの基板まで用意している。


図2 プラズマCVD装置 出典:Element Six Technologies


今後、合成ダイヤを半導体デバイスとして使う応用はかなり先になるが、その前にヒートスプレッダーの応用をさまざまな半導体デバイスに適用していく。ワイヤレス通信インフラに必要な送信機のパワーアンプIC、光通信モジュールの高出力レーザー、さらには将来の大容量通信用の高出力レーザーアレイなどのヒートスプレッダーに半導体デバイスをじかに載せることができ、電気的に絶縁する材料を挟む必要がない。

さらに、マイクロプロセッサ上の熱設計に必要なホットスポットの特性評価や、フリップチップのI/Oダイボンディングにも使えるとする。GaN on diamondとしての基板に使えば、放熱が優れているため高周波出力を上げることができる。通信インフラだけではなく、国防用の高出力レーダーにも使える。すでに3インチ基板のGaN on diamondは入手可能で、今後4〜6インチも目指すとしている。

バンドギャップが広く、熱特性も優れていることから、EUVリソグラフィ装置の光源レンズとしても使えると見る。LPP(Laser Produced Plasma)光源のウィンドウとしての応用である。ウィンドウの劣化による交換のための運転休止時間を減らすことができるという。さらに長期的な(5年以上)先には石油や天然ガス探査用のセンサ応用も狙っている。

同社は薄膜合成ダイヤの製造を積極的に進めており、英国のオクスフォード郊外にグローバルイノベーションセンターを7月に開設した。米国カリフォルニア州サンタクララにも10年前にオフィスを設立しており、Bolliger氏はサンタクララをベースにする。

(2013/08/30)

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