STマイクロがファブライト戦略を採りながらもIDMにこだわる狙いとは
STマイクロエレクトロニクスは、日本時間2月27日にバルセロナのCCCB(Centre de Cultura Comtemporania de Barcelona)においてジャーナリスト・投資アナリスト向けの会見を開催、MEMSとMCUに関する現状を紹介すると同時に、FD-SOIプロセスの戦略方針を語った(図1)。
図1 STマイクロエレクトロニクスのバルセロナにおける記者会見風景 パネルディスカッション形式で質問に応える
STマイクロはファブライト戦略を進めているが、最先端技術を手放すことはしない。ただし、微細化の先端をゆくこともしない。高性能・低消費電力の高集積LSIの先端がFD-SOI技術だからである。STマイクロは、FD-SOI(Fully Depleted Silicon on Insulator)という最先端技術は手放さず、こなれた65nmや40nmなどのデジタルCMOSプロセスはファウンドリに依頼するという戦略を採ってきた。これからも変わらない。微細化で最先端の投資に資金がかかるためにファブライトにするのではない。日本の半導体メーカーが40nmまでは自社開発し、28nm以下はTSMCに依頼するというやり方とは全く違う。あくまでも、最先端プロセスは自社で開発、製品の生産に使い、性能・消費電力で差別化を図る。先端ではないプロセスは外部のファウンドリを使う。
STマイクロは、28nmFD-SOI技術に自信を持ち、14nm、10nmもプレーナFET+FD-SOI技術で行けることをMobile World Congress(MWC)2013の出展ブースで明らかにした。これは実際に28nmルールのFD-SOI構造のICを試作し、集積したARM Cortex A9およびA15を使い性能を確認したもの。
Cortex A15のデュアルコアプロセッサを1.7GHzのクロックで動作させた時、2.5DMIPS/MHzだった性能が3.5DMIPS/MHzに向上した。同社Technology R&D担当マーケティングディレクタのGiorgio Cesana氏は、「デュアルコア構成を使うことで命令実行効率が上がり、消費電力を抑えながら性能を上げることができた」と述べた。
FD-SOIはチャネル領域が薄いために空乏層がめいっぱい広がり、電流をコントロールするMOS構造だ。「従来のバルクCMOSなら設計ルールが14nm以下になると、CMOSトランジスタをこれ以上微細化できなくなる。このためFINFET構造を使う。しかし、FD-SOI構造にすれば、短チャンネル効果が少ないためにまだまだ微細化できる」とCesana氏は語る。10nmになってもプレーナで行けるとしている。
FD-SOI構造のメリットは、浮遊容量が少ないために高速になると共に消費電力も少なくなる点だ。おまけにFINFETとは違い構造が簡単、という訳だ。現在、28nmのFD-SOIプロセスを使った製品を量産試作の段階にあり、サンプル出荷は始まっているという。次の14nmFD-SOI製品は開発中で、2014年の中ごろに生産に入り、10nmのFD-SOI製品は2016年の生産になるとしている。
巨大なファブを持つインテルはファウンドリビジネスを始めており、サムスンはロジックのファウンドリビジネスに巨大な投資を行っている。STマイクロもファウンドリビジネスを始めるのか。Cesana氏は、STはあくまでもファブライトであり、量産向けのファブではないIDM(垂直統合半導体メーカー)にこだわる、という。というのは、ASIC生産に適し、その特許においても強く、高信頼性・高品質の製品を提供できるからだとしている。しかも大量生産せずに最先端のトランジスタでファウンドリとも競争できる。SOI構造は浮遊容量が低いために消費電力を削減できることが、ネットワーク分野でもゲームの分野でもメリットが大きい。量産のメガファブを持たない故に、IDMにこだわることができるとしている。
製品的には、STマイクロは大きく二つの分野に集中する。センサ&パワーと自動車分野と、組み込み処理システム分野だ。いずれも人間の生活に役立つ製品を目指し、life.augmentedという標語を使うようになった(図2)。さらに技術的にはワイヤレスに集中する。だからMWCに出展した。
図2 STマイクロの2大焦点分野とワイヤレスへの集中