MEMSでなければ性能出せない製品が登場、センサネットワークへの応用も進展
MEMS製品の性能が上がっている。振動子では水晶の性能を超えた製品も出てきた。ドイツのボッシュ(Bosch)からスピンアウトした米サイタイム(SiTime)社は水晶の置き換えを狙い、-40〜+85℃に渡り周波数安定性がわずか±10ppmで、1〜220MHzでプログラム可能なMEMS発振器製品を発売し、米MEMSICは慣性センサをコアにスマホからセンサネットワークまでの応用を可能にするシステムまで製品を広げている。
図1 MEMS共振器とICでクロックジェネレータを製品化 出典:SiTime
MEMSはシリコンを深くエッチングしたり、CVDなどで特殊な材料を積層したり、リソグラフィでレジストを加工したりするシリコンプロセスそのものであるが、100nm未満の微細化は全く必要としないため、中小の半導体企業が進出している。しかもただ単にシリコンプロセスの加工だけではなく、MEMSの応用まで考えた製品作りをしている。
サイタイムが今回リリースしたMEMS発振器製品は周波数が安定しており、位相ノイズともいうべきジッターが500 fsと極めて小さい。1年間動作させた時の経時変化も±1ppm以下と小さい。消費電力は40〜70mAと従来の発振器と比べてもやや低い。この製品は精度が高いため、RAIDストレージやクラウドサーバー、通信基地局、計測器、FibreChannel、イーサーネットスイッチなどハイエンドの応用に向いている。
表1 水晶、SAWを超えたMEMS 出典:SiTime
水晶と違い、MEMSが圧倒的に有利なのは、周波数を好きなようにプログラムできることである。水晶だとカットする角度によって振動周波数が決まるため、周波数は固定してしまうが、MEMSは周波数を変えることができる。今回発表したオシレータ製品9121/9122は1〜650MHzで変えられる。
サイタイムは、二つのMEMSビジネスをコアとしている。一つはMEMS共振器チップを販売するビジネスであり、もう一つは発振器とクロックジェネレータとしてプラスチックパッケージに入れた製品として販売するビジネスである。チップ売りは半導体メーカーに、パッケージ製品はOEM/ODMメーカー(電子機器メーカー)に販売する。半導体メーカーは、水晶振動子を外付けしなくて済むようにSiPパッケージに入れたMEMS+ICを販売できる。またOEM/ODMメーカーは、±5ppmと高精度でキャリブレーションされたクロックモジュールを手に入れることができるようになる。
サイタイムは、MEMS技術を使った発振器とクロックジェネレータの製品のポートフォリオを揃えているため、ユーザーは低消費電力、高精度、電圧制御などさまざまな製品から選ぶことができる。同社の製品のもう一つの特長は、水晶振動子とは違いプラスチックパッケージを使えるため、コストを下げることができる。同社のMEMSチップは、シリコンウェーハで完全に封止しているため、モールド樹脂を流してもMEMS共振器部分の空間を確保できるとしている。
MEMSの応用を売るソリューションプロバイダ
米MEMSICのビジネスは加速度センサのような慣性力を利用するMEMSチップを売るのではなく、MEMSセンサをベースにしたソリューションを売りモノにしている。これまでは自動車、スマートフォン、工業用システムなどに強く、民生はさほど強くない。しかもMEMSの加工設備はあるものの、設計に集中し、量産となるとファウンドリを利用するMEMSのセミファブ企業という位置付けである。
加速度センサやジャイロスコープなどの慣性センサは機械的な動きや物理的な傾きを検出する。MEMS技術によって小型化と高信頼性が可能になるため、この技術もMEMSでなければできない応用の一つである。MEMSICはMEMSセンサを設計製造するだけではなく、MEMSをシリコンICチップに搭載しパッケージングする。最新のMEMS+ICの製品では、加速度センサにアンプやADコンバータだけではなくDSPまで集積し、PCインターフェースにより直接マイコンとやり取りできるWLP(wafer level packaging)パッケージに入れたセンサICをリリースした(図2)。
図2 デジタル出力できるMEMS加速度センサIC 出典:MEMSIC
このXC6226XCは、寸法が1.2mm×1.7mm、厚さ1mmという超小型のMEMS+ICだ。検出すべき加速度のしきい値をプログラムでき、傾斜角を正確に設定でき、ユーザーがプログラムできるヒステリシスは4個ある。最大5万g(加速度)にも耐えられる頑丈なシリコンICであり、スマートフォンにおいて写真向きを傾けるだけではなく、シャカシャカと振って90度変えることもできる。
このMEMS ICではないが、X、Y、Zの3軸を使って橋梁の振動を常時測定モニターして、橋の揺れや振動などの異常を監視するというセンサネットワークを構築している。橋をつっている太いワイヤに取り付けその振動変化をモニターする。当初、橋のワイヤには70個のセンサノードでモニター測定していたが、今年の9月には150個に増強した。
図3 橋梁にセンサーを設置し橋を吊っている柱の振動を測定 出典:MEMSIC
センサネットワークの通信にはZigBeeを用い、電子回路を駆動するのはソーラーセルと蓄電池である。外部から電源を供給しないエネルギーハーベスティング技術となる。
図4 センサノードは構造物の状態をモニターする 出典:MEMSIC
MEMSICは、橋以外にも農業でも土壌の湿度や、葉の湿り具合を温度センサと湿度センサを使うワイヤレスセンサネットワーク向けのシステムも供給している。ZigBeeセンサネットワークのデータをゲートウエイからインターネットを通してクラウドを利用したりスマホを利用したりすることでデータを活用する。これにより最適な収穫日を知ることができ、ベストなおいしい作物を生産できる。この結果、おいしい作物を高く売れることから、資金の回収は早ければ1シーズンで済むと見積もっている。
図5 農業にもセンサネットワークを応用、最適な収穫日を知る 出典:MEMSIC