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不況明けを見据えながら、低コストで特長を明快に出すFPGA・ASICメーカー

今回の経済不況で比較的傷の浅かったFPGAメーカーが不況明けを見据え、少ないコスト/リソースで次の新しい市場開拓に意欲を見せている。FPGAメーカートップのXilinxは、リファレンスデザインプラットフォームに載せたVertex-6のサンプル出荷を始めた。AlteraやActel、新参のSiliconBlue Technologies社などはそれぞれの特異性を生かし、ニッチ市場を形成すると同時に、ASICメーカーの台湾Global Unichipも設計技術を武器に成長路線を描く。

Xilinxは、異なる応用分野でも共通の開発基礎となるターゲットデザインプラットフォームを今年の2月に発表したが、そのデザインプラットフォームに載せるFPGAである、Spartan-6とVirtex-6のうち、Virtex-6をサンプル出荷し始めたことをこのほど発表した。Spartan-6はすでに2月にサンプル出荷を開始していた。これにより45nm/40nmノードのVirtex-6を設計できるようになる。

XilinxのVincent Ratford氏

XilinxのVincent Ratford氏


Virtex-6の最初の製品は、Virtex-6 LX240Tという200万ゲート規模のFPGAである。これを作ったのは、「ASICの70%が200万ゲート規模だからだ」と同社シニアバイスプレジデントのVincent Ratford氏は言う。ただ、このFPGAが重要なのは、ターゲットデザインプラットフォームを使えるからである。「ここ数年顧客から言われていることは、IPやソフトウエア、ボードなしのテクノロジーなど欲しくはない、ということだ。顧客はシリコンではなくもっと複雑なソリューションを求めている」と同氏は強調する。だからこそ、顧客の絶え間ない要求に応えるために対話型の開発プラットフォームを構築した。

「単に200万ゲートのFPGAでさえ不十分。価格や消費電力、必要なIP、設計手法にこれまでの互換性があるかどうか、なども必要だ。Virtex-6とこのプラットフォームがあれば1000件の設計のチャンスがある」としている。特に、この経済不況のもとでは少ないR&Dコストでソリューションを作り上げることが重要になる。ターゲットデザインプラットフォームはこの要求にぴったりのツールとなる、としている。このプラットフォームを使って顧客の欲しい価値を追加できるという訳だ。このターゲットレファレンスデザインボードは、ビデオ監視、通信、産業制御、医療用イメージングなどの応用を1台のプラットフォームで設計できる。

他のFPGAメーカーはこの不況の時代をどう生き抜くか。その先の景気回復後にどのような手を打つか。Globalpress Connections 主催のパネルディスカッションにおいて、AlteraのHardCopy ASIC部門シニアディレクタのDave Greenfield氏は、消費電力の低減こそ最近のトレンドにあるため、これを売りにしてコストと消費電力の特長を生かすとしている。ローエンドからハイエンドまで揃えているAlteraにとって、FPGAで設計したソフトウエアをASICに落とし、チップを小さくしてコストを下げるという手法Hardcopyが使える。もちろん、TSMCの40nmプロセスを最初に使った会社だとしてハイエンド製品にも対応できるとしている。


左からSiliconBlueのKapil Shanker氏、Global UnichipのKurt Huang氏、AlteraのDavid Greenfield氏、ActelのRichard Kapusta氏
左からSiliconBlueのKapil Shanker氏、Global UnichipのKurt Huang氏、AlteraのDavid Greenfield氏、ActelのRichard Kapusta氏


上の2大FPGAメーカーよりも売り上げは少ないが、ActelはフラッシュベースのFPGAを追及している。同社マーケティングおよびビジネス開発部門のバイスプレジデントRich Kapusta氏は、第3世代のフラッシュベースFPGAの低消費電力製品は待機時に2μWと小さいとしている。フラッシュベースのFPGAは2008年38%も伸びたという。130nmプロセスでも低消費電力で低コストのソリューションが売り物だと主張する。

これに対して2006年に設立したばかりの新FPGA会社SiliconBlueは民生向けの低消費電力に注力する。同社CEOのKapil Shankar氏は、スマートフォンやスマートカード、ネットブックなどの設計を受託していると述べた。今のカメラフォンにはズームやBluetooth、IR制御回路などさまざまな機能が搭載されており、これ以上新機能を搭載できないが、FPGAだとそれができるとしている。特に携帯電話に今後ピコプロジェクタを搭載しようとすると従来のASICでは、設計し直さなければならない。このほど出荷した65nmプロセスのSRAMベースFPGAは20μWという低消費電力でフル動作できるという。

このパネルディスカッションで唯一、ASICメーカーのGlobal Unichipマーケティング部門のディレクタKurt Huang氏は、「セルベースASICを扱っているが、わが社はサプライチェーンのためのインテグレータである。カスタマの要求を取り込み、ASIC設計を手掛けてきたファブレスだからこそ、カスタマのデマンドを蓄積している。だから低コストにできる」と主張する。もちろん、ASICはFPGAよりもチップ面積が小さい。ASICベンダーはROI(投資効率)をみるとファブレスでしか成り立たないビジネスではないかと信じている。

「確かにASICのテープアウト件数はスローダウンしているが、わが社の強みはシステムレベルから消費電力を下げられるという点だ。ESL(electronic system level)アーキテクチャレベルで消費電力問題を解ける実力があるからこそ、存在価値がある」と強気だ。さらに、「IPや設計が複雑になりすぎてきたためカスタマの要求を盛り込んだ設計ができるデバインハウスが少ないこともわが社には有利」としている。名前は言えないが、ある日本の半導体メーカーからもデザインを受注していると個別インタビューで打ち明ける。


(2009/05/01 セミコンポータル編集室)

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