Keysight、1台でsパラ、変調歪、NFを一度に測れるVNAアナライザを顔見せ
5Gやミリ波などRFチップの高周波特性の測定では時間がかかることが多い。Keysight Technologyが先週、マイクロ波関係の展示会MWE2023で見せたENA-Xベクトルネットワークアナライザ(VNA)は、最大44GHzまでのsパラメータと変調歪解析、NF測定を1度の接続で全て測れる便利な測定器だ。日本初の公開である。
図1 1台でsパラメータ、デジタル変調歪、高周波雑音指数を測定できるKeysightのベクトルネットワークアナライザ 出典:Keysight Technology
高周波デバイスは、電磁波の送信・受信の性能を測定器で測る場合、波としての反射や透過などの影響が大きく、インピーダンスを整合しなければ所望の特性が得られない。このため、sパラメータ測定はデバイスの反射や増幅、帰還特性などを評価するのに都合がよいが、50オームでインピーダンス整合を取るための作業に時間がかかっていた。加えて、デジタル変調においてQとIのコンスタレーションマップ上の歪の測定や、高周波波形の時間変化をフーリエ変換するようなスペクトルアナライザの特性、さらにNF(雑音指数)を測るときは、それぞれの測定器で測定すべき半導体デバイスDUT(Device Under Test)を測定器とつなぎ直さなければならず、とても時間がかかっていた。
Keysightが開発したENA-XのVNA(図1)にはミリ波での変調歪を解析するためのアップコンバータが内蔵されており、6GHzの変調信号を入力して最大44GHzの変調信号とCW信号を出力する。このため、5Gの28GHzや39GHzなどのミリ波特性を評価する場合には、この1台でデジタル変調歪や反射特性、NFの周波数依存性などを1回で測定できる。
測定器には2ポート備えており、ポート1からDUTを駆動し、その出力をポート2に入力し、sパラメータと、変調歪EVM(Error Vector Magnitude)、さらにNFも一度に測定する。つまりこのVNAアナライザには信号発生器も内蔵しており、All-in-oneの測定器となっている。それらの出力結果は図1のように6つの画面で見ることができる。
図2 デジタル変調歪EVMの測定方法 出典:Keysight Technology
測定項目の内、デジタル変調歪EVMは、Q軸とI軸のコンスタレーションマップにおいて、例えば256 QAM(直交振幅変調)なら理想的な256個のシンボルの位置から、測定されたシンボルがどの程度ずれているのかを知ることができる(図2)。また高周波の教科書にあるようなsパラメータは、入力と出力部における電波の反射、透過を表す指数であり、散乱(Scattering)の頭文字をとってマイクロ波デバイスのインピーダンス整合などを評価する。NFはデバイスが発しているノイズを含む入力の雑音を評価する指数(Noise Figure)である。NFが大きければアンプでは信号だけではなくノイズも同時に増幅されてしまうためNFは低ければ低いほどデバイスは良い。
KeysightのENA-Xベクトルネットワークアナライザには、信号発生器も内蔵されているが、これとは別にミッドレンジのベクトル信号発生器「N5186A MXG」もMWEで出展した。これは、高さ2Uサイズのコンパクトなシャーシで4チャンネルの高周波信号を出力し、最大周波数は3GHz、6GHz、8.5GHzとなっている。1チャンネルの信号の周波数帯域は960MHzと広い。しかも4チャンネルを束ねてキャリアアグリゲーションできるようになっており、将来の6G時代に備えている。
図3 高度な測定器には高性能な半導体ICが不可欠 出典:Keysight Technology
Keysightが開発している高性能な測定器では、測定器に使われている半導体の性能が良くなければ、それよりも性能の良い半導体を測定できないため、超高性能な半導体が使われている。このため同社はHewlett-Packard時代からGaAsなどの高性能な高周波半導体を自社開発している(図3)。Keysightのカリフォルニア州サンタローザ工場は昔から半導体MMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)を内製化してきた。現在では、高周波のMMICを作製しながらも、生産したチップをハイエンド製品だけではなく、ミッドレンジやその後にローエンド製品にも適用することによって、測定器の普及と半導体によるコストダウンに役立てている。