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パワーデバイスの真のスイッチング特性を得る測定器をKeysightがデモ

ガレージ実験室から始まったHewlett-Packard社をルーツに持つKeysight TechnologyがSiCやGaNなど高速パワーデバイスのダイナミック特性を測る計測器「PD1550A」(図1)をKeysight World 2023で展示した。もともと高周波測定機に強いKeysightが、パワー半導体の測定にもその強みを発揮する。特にSiCのスイッチング動作に悩まされてきたエンジニアには福音となる。

PD1550A

図1 KeysightがKeysight Worldで展示したパワー半導体ダイナミック測定器「PD1550A」


シリコンのIGBTよりも高速で耐圧も高温動作にも強い、ということで次世代パワー半導体ともてはやされたSiC。しかし、実際に数100Aも電流を流してみると異常に高い電圧スパイクが出て壊れやすくなる、所望のスイッチング特性が得られないなど、ユーザーの悩みが多かった。シリコンよりも価格が高いだけではなく、むしろシリコンよりも使いにくかった。SiCを使い慣れるまでユーザーは苦労してきた。

しかし、これからSiCだけではなく大パワーのGaN半導体を使おうというユーザーには強い味方が現れた。高周波技術のノウハウを持つKeysightがパワー半導体のスイッチングの過渡的なピークやリンギングなどの波形の乱れを補償して、SiCやGaNのパワーデバイスがきれいなスイッチング波形を求めてくれるのだ。

これを図2に見ることができる。図2では、800Vのパルス電圧を加えて25Aの電流(青色)の波形を表している。電流を測るセンサの帯域が25MHzと狭い場合には25Aよりも高い27〜28Aのピーク過渡電流が流れているが(図2左上)、この分をRF補償するとピーク値が26A程度に下がる波形(図2の右上)になっている。このため電圧と電流をかけた過渡電力はRF補償しなかった場合には20kWを超えているが、補償するとほぼ20kW以下に収まっている。


Effect of EF compensation / Keysight Technology

図2 スイッチング波形の周波数帯域を補正して電流センサを改善する 出典:Keysight Technology


図2のパルス波形は電流のリンギングを示しているが、これはハーフブリッジ回路(ハイサイド+ローサイドの2つのパワートランジスタ)で、ハイサイドとローサイドで交互のパワートランジスタをスイッチングさせると互いの寄生インダクタンスの影響を受け、波形が過渡的なピークを持ちリンギングの様相を示すことを表している。電流測定には同軸シャント抵抗を使用しており、そのシャント抵抗のsパラメータを測定しその値をRF回路で補償している

Keysightが展示したPD1550Aは、昨年6月にリリースした製品と同じ番号だが、実は昨年の製品ではディスクリートのパワー半導体しか測定できなかった。今回はモジュールやハーフブリッジでも測れるようにしている。というのは、インバータ回路で3組のハーフブリッジを順次駆動していかなければならないのだが、リンギング波形の様子を観測するためにモジュールが必要だからだ。

センサの周波数帯域25MHzではなく280MHzに変えると、ピーク電流は25Aより少し高い程度に収まっている。CMRR(コモンモード除去比)ノイズに関しても市販の光絶縁プローブと比べ、下がった 波形を維持している。

Keysightはどちらかといえば、パワー半導体の測定器では後発だが、得意な高周波の知識を生かしてリンギングを抑えることができた。パワー半導体の測定では、DUTを含む測定器を、実験者など人間から完全に絶縁しなければ危険だ。このため図1のように堅牢な筐体内で測定する。加えてPD1550AではDUTと波形を観測するディスプレイなども同じ筐体内に入っており、ワンストップショッピングで実験可能になっている。

加えてKeysightは、測定するためのボードの設計も手掛けており、パワーモジュールのデファクト標準となったパッケージ以外でも扱えるように基板設計を行うという。ボード上にはEEPROMも搭載しており、ゲート抵抗などのデータや初期値、最大電圧など設定項目も記録できるようにしている。


Eモビリティーエコシステム / Keysight Technology

図3 車載システム用のKeysightのさまざまな測定器群 出典:Keysight


パワー半導体向けの測定器を補強したことで、Keysightの車載用半導体やサブシステムの測定器はますます充実するようになった(図3)。EV向けだけではなく、車内・車外通信(V2X)・セキュリティ・レーダー/Lidarなどの測定器に加え、再生可能エネルギーがグリッド接続評価などの測定器まで揃ってきた。

(2023/09/01)
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