sパラ、NF、変調特性も一度に測定できるPXIアナライザをKeysightが発売
次世代の5Gやビヨンド5Gなどミリ波対応のRFチップの高周波特性を測定するネットワークアナライザが驚くほど小型になった。高周波測定器で定評のあるKeysight Technologyは、PXIモジュールベースのネットワークアナライザ「M9834A/M9837A」(図1)を発売した。sパラメータだけではなくLNAのノイズ指数や変調解析も片手で持てるモジュールで測定できる。
図1 次世代5GデバイスのRF測定を容易にするKeysightのPXIベースのネットワークアナライザ 出典:Keysight Technology
5Gはデータレートを上げるためより高周波へと進んでいる。ミリ波と呼ばれる30GHz以上の高周波帯では難題を抱えている。電波は高周波になればなるほど、データレートを上げられる反面、電波は届きにくくなり、しかも360度の放射状ではなく指向性を持つようになる。このためビームフォーミング技術を使い、多数のアンテナで一方向に向け、さらに方向を自由に制御して多数のスマホユーザーに電波を届ける必要がある。そのようなビームフォーミングを使うデバイスが所望の性能を得ているかをチェックするのがRF測定器である。
高周波の半導体デバイスは、性能を目いっぱい引き出すためにsパラメータで反射や利得を測定し、インピーダンス整合をきっちり取らなければならない。もちろん、高周波でのノイズ指数(NF)や、変復調歪を表すEVM(Error Vector Magnitude)なども測定する必要があるが、このPXIベースのVNA(ベクトルネットワークアナライザ)は、DUTを一度接続するだけでさまざまなパラメータを測定できる(図2)。
図2 1台で複数のRFパラメータを一度に測定できるネットワークアナライザ 出典:Keysight Technology
これまでの高周波測定器は、大きく、しかもsパラメータを測定するネットワークアナライザ、さらにノイズ指数を測定する装置、変調歪を測定する装置など、様々な装置をセットする必要があった。そのたびにDUT(Device under Test:被試験デバイス)との接続し直し調整も行う必要があり、測定データに誤差を生じやすかった。今回のPXIモジュールは、NF測定とsパラメータを測定する場合でも従来のPXIモジュールだと、DUTに複数のスイッチやプリアンプ、BPF(バンドパスフィルタ)などを設けなければならなかった、しかし今回の装置は内部にスイッチとプリアンプ、BPFを設けているため、外付け部品を取り付ける必要がない。
また、DUTとして、RFアンプやミキサ、周波数変換ICなどの変調パラメータを測定し、ミリ波やマイクロ波の広帯域の変調歪を解析する場合でも、1度の接続で測定できる。sパラメータ測定だけではなく、信号源やスペクトラムアナライザ機能も搭載しているためだ。このため1台の小さなPXIモジュールだけでこれらの高周波特性を測定できる。
図3 PXIモジュールはシャーシに指すことでさまざまな構成ができる 最も左のスロットはデータ処理するためのコンピュータ 出典:Keysight Technology
今回発売するPXIモジュールは、シャーシに組み込む方式の測定器であり(図3)、自由自在に測定器構成を変えることができる。しかも次の5Gに対応できる最大周波数20GHzと44GHzのモデルがある。
ミリ波まで測定できるKeysightのPXIネットワークアナライザは、内部で開発したMMIC(モノリシックマイクロ波IC)、やQFN表面実装パッケージ、高密度のミリ波フロントエンドアセンブリ、44GHzの回路基板設計技術など半導体技術と実装技術で実現した(図4)。
図4 測定器には独自開発の半導体チップと実装技術が使われている 出典:Keysight Technology
次世代の5Gではミリ波が使われるようになる。ミリ波のような超高周波信号はデータレートを上げられる反面、電波が届きにくく、しかも指向性を持ちやすい。このため32個や64個などのマッシブアンテナで位相を揃えて遠くまで届かせるビームフォーミングが欠かせない。しかもスマホの利用者は一人だけではない。このため順番に利用者を切り替えていく必要もある。通信機器は、電波を送り出すパワーアンプと、電波を受けるLNA(ローノイズアンプ)などの性能が送受信機のカギを握る。これら高周波半導体の測定には、PXIモジュールが欠かせなくなる時代が間もなくやってきそうだ。