Keysight、デジタル技術を駆使した最大54GHzのベクトル信号発生器
Keysight Technologiesは、最大54GHzまでの高周波信号を発生するベクトル信号発生器「M9484C VXG」(図1)を発売した。5G あるいはBeyond 5G用のICチップや高周波回路にテストに使う。オプションで「V3080A Vector SG」周波数エクステンダを装着すると、最大周波数を110GHzまで伸ばすことができる。
図1 最大54GHzのベクトル信号発生器 出典:Keysight Technologies
ベクトル信号発生器は、正弦波信号を出力するだけではなく、デジタル変調の強度Iと位相Qも出力する。そのために広い周波数帯に渡って低い位相ノイズやEVM(Error Vector Magnitude)を実現している。
また、5Gの環境であっても、4Gや3G、GSMの電波が飛び交う国々もあるため、1チャンネルで最大で8個の信号を出力できる。例えば、2.3GHzの5G NR(New Radio)や1.9GHzのLTE信号、3Gの延長の2.1GHzのHSDPA信号、あるいは800MHz帯のGSMなどさまざまな信号を1チャンネルとして見ることもできる(図2)。
図2 8個の仮想信号を観測できる 出典:発表会におけるスクリーンショットから
これらの信号を観測することで干渉を簡単にチェックできる。M9484C VXGは、最大4チャンネルを備えているため、最大32信号を同時に再生できる。さらにこの測定器をLANケーブルで接続することでチャンネル数をさらに増やすことができる。
1チャンネル当たり最大2.5GHzの変調帯域幅を持つが、2チャンネルを一つのRF出力に結合することによって、最大5GHzの変調帯域幅も実現できる。
図3 2チャンネルを一つのRF信号出力として最大5GHzの帯域に拡張できる 出典:Keysight Technologies
デジタル変調されるような通信機器では、IとQのコンスタレーション座標において、理想的なシンボルの位置から、実際の測定されたシンボルの位置がどれだけズレているかを示す誤差ベクトルは小さければ小さい方が機器の性能は良い。EVMは誤差ベクトルの大きさを示す指標である。誤差ベクトルが大きければ、隣のシンボルに近づくことになりビット誤り率(BER)が大きくなってしまう。誤差ベクトルは小さければ小さいほど、QAMのIとQのコンスタレーションに多数のシンボルを載せてビットレートを大きくできる。M9484C VXGでは、周波数が54GHz以下ではEVMは1%未満であり、変調品質が優れているといえる。
こういった優れたデジタル変調品質を生み出すために、イメージ信号による歪を減らすことに成功した。従来は、デジタルの波形データをD-A変換した後にI/Q変調を加え、周波数を上げていたが(図4)、この測定器ではデジタル信号のままI/Q変調をかけ、周波数を上げる直前にD-A変換することで、ノイズの少ない波形を実現した。
図4 デジタル信号をそのままI/Q変調して高速D-Aコンバータでアナログ変換後に周波数を上げる 出典:Keysight Technologies
このために、Keysight独自の8GHz帯域のDAコンバータや、DSP(積和演算専用のマイクロプロセッサ)、高速クロックICなどの独自LSIを開発した。DSPは、1チャンネル当たり8個の信号をエミュレートするために開発、8つの帯域をリアルタイム処理で作ることができるようになった。
チャンネル数を増やすと、チャンネル間のバラつきが影響する恐れがあるが、これについては測定器の出力からコネクタやケーブル、治具などにおける反射やノイズなどをリアルタイムで補正するフィルタを用いて振幅と位相を補正している。このためスペクトルアナライザやSパラメータ測定のネットワークアナライザなどに直結できる。
製品シリーズには、1チャンネル、2チャンネル、4チャンネルの製品がある。さらに4チャンネルの製品を増やすことでチャンネル数を増やすことができる。価格は800万円から。