セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

特集コロナ戦争(5):シリコンチップを利用する医療機器向けボード開発続出

半導体メーカーや関連メーカーから、新型コロナウイルス対策に日夜取り組む医療関係者を支援するためのテクノロジーが具体的に出てきている。ルネサスは人工呼吸器用のリファレンスデザインを開発、提供する。英Imperial College Londonや米Rochester大学はシリコンチップを利用したウイルス検査キットを開発するなど、実際に貢献し始めた。

図1 ルネサスが提供する人工呼吸器の回路リファレンスデザイン 出典:ルネサスエレクトロニクス

図1 ルネサスが提供する人工呼吸器の回路リファレンスデザイン 出典:ルネサスエレクトロニクス


ルネサスエレクトロニクスは、人工呼吸器の制御回路のリファレンスデザインボード(図1)を提供する(参考資料1)。これは人工呼吸器大手のアイルランドMedtronics社が製品PB560など人工呼吸器の仕様を公開したことに合わせて、素早く作製したリファレンスデザインボード。人工呼吸器から患者に送る1回のガスの量や配分量を制御する回路である(参考資料2)。

新型コロナにより重篤患者に適用される人工呼吸器が不足し、需要が増えている。このため、もっと簡易だったり安価だったりする人工呼吸器の開発が出ているが、手動で動かす必要があったり、精度が良くないなどの問題もありそうだ。Medtronicsが公開した仕様に基づき、このほどルネサスが作製したリファレンスボードには、買収したIntersilのパワーマネジメントICや、ルネサスのマイコンRX23WおよびRX23Tなどが搭載されている。20個近いICの中で唯一IDTのICが流量コントローラFS1023である。

今回のルネサスのリファレンスボードは、Medtronicsの仕様公開から極めて速く、昔のルネサスとは違う対応のようだ。IntersilやIDTを買収した成果といえそうだ。このボード提供によって、人工呼吸器を開発しているさまざまなメーカーは、独自の機能をソフトウエアなどで追加できるようになる。

1時間でわかるPCR検査キットを開発中

時間のかかるPCR(polymerase chain reaction)検査をいかに短時間で判定できるか、という競争が始まっている。従来のPCR検査は、綿棒で鼻の中からサンプルを採取して新型コロナのRNAを直接見るという方法だが、RNAを増やして判定結果が出るまでに2〜3日と時間がかかりすぎていた。

そこで、英DnaNudge社は、ゲノムDNA抽出プロトコルと複数のリアルタイムPCR増幅を組み合わせ、簡単で低価格な、使い捨てカートリッジを用いたハンディタイプの検査装置(図2)を開発した(参考資料3)。ほほの内側を擦りサンプルを採取した綿棒を直接カートリッジに格納、そのまままっすぐボックスに入れて解析する。コアの溶解と固相のDNA抽出プロトコルがカートリッジの中に集積されており、高純度になった材料が一つのアレイに到達し、ここで72種類のDNA増幅反応を注意深くモニター制御し、特別に遺伝的な変種を決める。1時間で結果がわかるという(参考資料4)。


図2 DnaNudge社が開発したNudgeBoxとそのカートリッジ(下に見える丸く青いもの) 出典:DnaNudge

図2 DnaNudge社が開発したNudgeBoxとそのカートリッジ(下に見える丸く青いもの) 出典:DnaNudge


このNudgeBoxは、ケンブリッジの技術コンサルタント会社TTPと共同で開発した。Imperial College LondonからスピンオフしたDnaNudge社の創業者であるChris Toumazou氏によると、このシステムのキモは、ファームウエアとプロセッサであり、ボックスの中に多数のプロセッサを搭載し、カートリッジを回転させるサーボシステムを制御するという。もう一つのキモは、「小型に作った光アレイのチップで多重化していることです。つまり、72個のウェルプレートを持つということは、Covid-19のプライマーを全て持っているという意味です」と述べている。元々、血糖値を測るためのパーソナルケアデバイスだったが、これを新型コロナに転用したという。

英国のDHAC(健康&ソーシャルケア省)は、これまで1万個のテスト用カートリッジを調達し、病院・クリニックに納めた。早期のCovid-19患者に使ったところ、素晴らしい結果だったという。DnaNudgeのテストは、場所を選ばず消費者にサービスできるとして開発してきたので、今回のCovid-19のテストに効力があると信じているとToumazou氏は語る。

短時間の抗体検査も狙う

米Rochester大は、抗体を短時間で検査する方法を開発中だ(参考資料5)。SiO2を被覆したシリコンチップの上にコロナウイルスを付着させた状態は反射防止膜を被せたことになるが、ここに血液を垂らすと血液中の抗体がウイルスを覆っているたんぱく質を引き寄せるため、反射率が変化する(図3)。この表面の反射形状が変わることを利用するArrayed Imaging Reflectometry(マイクロアレイ反射スペクトロスコピー法)で検出する。この方法は同大学が開発した技術だという( 参考資料6)。


図3 Si上のSiO2にコロナウイルスを反射防止膜として付けておき血液を垂らすと血液中の抗体があれば反射が観測される 出典:University of Rochester

図3 Si上のSiO2にコロナウイルスを反射防止膜として付けておき血液を垂らすと血液中の抗体があれば反射が観測される 出典:University of Rochester


実はRochester大は別の方法も開発している。光チップを使い捨てのカード上に置き、血液サンプルにさらすとこのカードは感染を検出するという。この方法も同大学が中心となっているプロジェクト、AIM Photonics InitiativeとOrtho Clinical Diagnostics社が共同で開発中だとしている。狙いは新型コロナ感染を検査する携帯型光ツールの開発だ。

参考資料
1. 新型コロナウイルス感染症と闘うため、公開済みオープンソースの設計仕様に基づいた人工呼吸器に向け、リファレンスデザインを作成 (2020/04/16)
2. Ventilator Designs to Help Engineers Address the COVID-19 Pandemic
3. Rapid, lab-free COVID-19 test being developed by Imperial team delivers results in just over an hour (2020/04/10)
4. How DnaNudge works
5.
Rochester researchers pursue quick ways to detect COVID-19-and better understand it (2020/04/21)
6. Arrayed Imaging Reflectometry

(2020/04/24)

月別アーカイブ