セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

Keysight、110GHzを直接計測できるオシロを開発

Keysight Technologiesが“超”ハイエンドなリアルタイムオシロスコープを発表した。Infiniium UXRシリーズは、最大周波数帯域がミリ波の110GHz、1Tbpsの超高速データレートを測定できるという優れもの。逓倍器なしで直接ミリ波を測定できる。Keysightはもともと超高周波に強いHewlett-Packardの流れを組む計測器メーカーだけに技術を鼓舞したといえる。

図1 Keysightの社長兼CEO Ron Nersesian氏と、シニアVP兼CTO Jay Alexander氏

図1 Keysightの社長兼CEO Ron Nersesian氏と、シニアVP兼CTO Jay Alexander氏


Keysightはこのほど「Keysight World 2018東京」を開催、社長兼CEOのRon Nersesian氏と、シニアVP兼CTOのJay Alexander氏が来日、この超ハイエンド商品を示す(図1)と共に、日本市場はカーエレクトロニクスとIoTなどの産業機器や5G向けの通信機器の市場に魅力を感じていることを訴求した。

この超ハイエンドオシロは、帯域が80GHz、100GHz、110GHzの3モデルからなり、全てのチャンネル(2チャンネルモデルと4チャンネルモデル)で256Gサンプル/秒と超高速に波形をサンプリングする。分解能10ビットのADコンバータを内蔵している。これまでのオシロは、ミリ波測定では逓倍器を用いて、数GHzの周波数をミリ波周波数まで上げていたが、この超ハイエンド測定器を使えば逓倍器は要らない。

これほどまでの超ハイエンドオシロを実現したカギは、やはり自社製の半導体チップである。特にRFフロントエンドにおいては、独自開発設計した8個のチップが威力を発揮した(図2)。高周波部分には独自開発・製造のInPチップ、256GHzのサンプラーはカスタムASICを設計した。どの回路にどのチップを使ったのかについては明らかにしていないが、設計したチップのプロセスはInPに加え、SiGe、Si CMOSもあるとしている。Si CMOSのASICに関しては台湾のファウンドリに製造を依頼、InPはカリフォルニア州サンタローザにある自社の製造ラインを使った。RFフロントエンドボードの超高周波部分は金の蓋を被せ、シールドをしっかりとっている。


UXR-Series Front End Multi-Chip Module

図2 RFフロントエンドのマルチチップモジュール 出典:Keysight Technologies


各チャンネルのデータアクイジションボード(図3)には、10ビットのデータを毎秒256Gビットでサンプリングするために、4個のADコンバータや新しいデータプロセッサ、カスタムASICなどを搭載している。さらには波形を保存するためのメモリには、TSV(Through Silicon Via)でDRAMを縦積みする高集積のHMC(Hybrid Memory Cube)を使っている。このメモリはKeysightとメモリメーカーで開発したものだという。SamsungとSK Hynixは同様なTSVメモリ構造をHBM(High Bandwidth Memory)と呼んでおり、HMCはMicronが手掛けていたため、DRAMチップはMicron製だと思われる。各ボードのスループットは2.56 Tbpsとなり、ボードを4枚、すなわち4チャンネルを合わせると10 Tbpsと驚異的なスピードのスループットになる。


UXR-Series Acquisition System

図3 新型オシロのアクイジションボード 出典:Keysight Technologies


超高速、超高周波技術をふんだんに使ったことで、シグナルインテグリティが優れ、ノイズが低く、ADコンバータの有効ビット数ENOB(Effective Number of Bit)も確保されている。アイパターンは、信号強度の差(縦軸)とジッターの時間差(横軸)で表すが、新製品が縦80mV、横15psに対して、従来品は40mV、8psしかアイパターンが開いていなかったとしている。これは40GボーのPAM4信号の送受信の場合であり、アイ開口率は2倍以上開いているといえそうだ。

また、デジタル変調でのデータを識別できるコンスタレーション測定図では識別すべきエラーレベルをEVM(Error Vector Magnitude)で表すが、64Gボー、64QAMの場合に従来の測定器では5.4%のEVMだったが、このInfiniium UXRは2.8%EVMとエラーが半分になっている。変調をもっと強めて64Gボー、256QAMで1Tbpsの場合、従来は測定できなかったのに対して、この新製品は2.6%だとしている。

ただし、製品は非常に高価で、1台1億円からで、2019年の2〜3月に発売する予定だという。5Gが当初の3.5GHz帯、4.5GHz帯から、2020年代中頃以降の24GHzの準ミリ波や60〜80GHzのミリ波にもそのまま対応できる。おそらく2020年代はずっと使える測定器となりそうだ。

(2018/07/26)

月別アーカイブ