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Tektronix、RF測定のための100万円台のネットワークアナライザ

ワイヤレス通信に必須のRF回路の特性を評価するためのテスターとして、ネットワークアナライザが有効だが、これまでの半額以下という100万円台の製品(図1)がTektronixから発売された。sパラメータや周波数軸のスペクトルデータを最大6GHzまで測れるという優れモノ。

図1 Tektronixが発売する百万円台のネットワークアナライザTTR500シリーズ データの表示はWindowsパソコンで行う 出典:Tektronix

図1 Tektronixが発売する百万円台のネットワークアナライザTTR500シリーズ データの表示はWindowsパソコンで行う 出典:Tektronix


高周波回路の反射や利得、損失などを見るネットワークアナライザは、1000万円単位の製品が多い。GHz帯の高周波特性は、電磁波の性質による特性を評価しなければならない。このためsパラメータと呼ばれる高周波特性とスミスチャートが欠かせない。S11、s12、s21、s22という入出力の波の反射や入射、損失、利得などを測定し、スミスチャートを描くことで複素面での特性を評価できる。VSWR(電圧定在波比)もわかるため、インピーダンス整合をとりやすくなる。こういった特殊な仕様であるため、価格は高かった。最も低い価格の製品でさえ、200万円〜300万円程度はした。

ワイヤレス技術は携帯電話だけではなく、IoTやWi-Fiなど身近になってきた。IoTには専用の無線周波数やネットワークを使うため、RF回路とアンテナが必要になる。どちらの部品も市販品で入手できるが、RF回路をアンテナにつなぐ場合にインピーダンスを整合しなければ接合部分で反射が生じてしまい、信号が十分に伝わらなくなる。だから、測定が必要なのだ。このためだけに高価なネットワークアナライザを購入する訳にはいかない。Tektronixはこのような市場を狙った。

Tektronixが提供する新しいネットワークアナライザ製品VNA(ベクトルネットワークアナライザ)TTR500シリーズには100kHz〜6GHzと100kHz〜3GHzの2種類の製品がある。それぞれ163万円からと、118万円からの価格帯で、206.4mm(幅)×285.8mm(奥行)×44.5mm(高さ)という弁当箱大の大きさで重量は1.59kgと軽い。信号発生器を内蔵しており、その出力周波数帯がそれぞれ異なっている。

また、DUT(被試験デバイス)に電圧を加えるバイアスティーは、測定機に内蔵しておりその出力は0〜±24V、0〜200mAである。高周波の半導体ICやトランジスタ、RFモジュールの測定に必要なバイアスティーを用意する必要はない。測定器の正面には2ポート設置されており、それぞれ送受信の2パスが可能になっている。

この新製品の出力表示はパソコンで対応し、従来の高価なネットワークアナライザの正面操作ボタンと同じようなGUI画面が表示される。RF計測になじみの薄いエンジニアにはプルダウンメニュー、日本語対応もソフトウエアで用意している。このVectorVu-PCソフトウエアをパソコンにインストールするとGUIが表れる。sパラメータのファイルを簡単にインポート/エクスポートできる。


図2 計測用のアクセサリ 出典:Tektronix

図2 計測用のアクセサリ 出典:Tektronix


この測定器にはオンボードコンピュータの回路はなく、コンピュータで見せるデータはUSB2.0から送受信される。また、測定するためのケーブルやコネクタなどのアクセサリ(図2)も提供する。

安くできるようになったカギは、半導体チップである。RF信号発生器や信号の受信・送信、リファレンス信号受信などの回路をASICで1チップにしたことによるという(図3)。


図3 送受信回路をIC化することで高性能・低価格を実現した 出典:Tektronix

図3 送受信回路をIC化することで高性能・低価格を実現した 出典:Tektronix


Tektronixはかつて高速・高周波回路のためのGaAsの製造ラインを持っていたが、半導体製造ラインはGlobalFoundries社に売却した。しかし、半導体設計は手放さない。今では製造ラインは外部のファウンドリを使うことができるため、自前で持つ必要はない。とはいえ、半導体チップは差別化するためのツールであるからこそ、チップ設計は自社で保有しておく。

(2017/05/09)

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