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日立製作所、加速電圧1.2MVの超高圧透過型電子顕微鏡を公開

日立製作所は、分解能が43pm(ピコメートル)と極めて高い透過型電子顕微鏡(TEM)を開発、このほどメディアに公開した(図1)。このTEMの加速電圧は1.2MV(120万ボルト)と非常に高圧で、そのため分解能が上がり、従来より厚い試料も観察できるようになった。

図1 日立が公開した1.2MVの透過電子顕微鏡

図1 日立が公開した1.2MVの透過電子顕微鏡

図1 日立が公開した1.2MVの透過電子顕微鏡 高さは7.4mある(上) その内部(下)


この顕微鏡は、故外村彰フェローがナノ領域の電磁場を計測できるホログラフィー電子顕微鏡を1978年に初めて実用化した技術をベースにしている。ホログラフィー顕微鏡は、電界放射銃から放出される電子ビームが試料を通過した像と、通過しなかった像との干渉縞を逆変換して、像を合成する。文字通り原子レベルの試料内部の電磁波を観察する装置である。

原子の姿を捉えることのできる、この透過電顕を使えば、磁性体や新型電池、超電導、トポロジカル絶縁体など新材料の構造を観察・解析でき、新しい材料を生み出す手段になりうる。日立は2010年3月からの国家プロジェクト「最先端研究開発支援プログラム」の助成を受けて、この電子顕微鏡を開発した。電子線の加速電圧を1.2MVと上げることで電子の波長を短くし、分解能を挙げられるようになった。

そのために新たに開発した技術は主に四つある。一つは球面収差を抑えた、二つ目は電子ビームのエネルギーバラつきを抑えた、三つ目は電子銃を安定にした、四つ目はノイズを極力抑える環境を作った、である。最初の球面収差の低減には、ビームを絞る凸レンズに加え、収差を抑えるための凹レンズを追加・工夫した。電顕のレンズは、もちろん電磁界で構成するが、その安定性が何よりも重要だった。球面収差係数が補正前は2.4mmだったが、補正後は0.01mm未満に減少したという。

二つ目のエネルギーのバラつきには、ノイズ対策と温度変化に対して電気抵抗の変化が少ない抵抗器や超高圧ケーブル、さらに超高電圧レギュレータなどをフル活用した。その結果、安定度は0.3ppmという低い電圧変化を1.2MVシステムで達成した。この結果エネルギーの揃った高速電子ビームを放射することが可能になった。

三つ目の電子銃の安定動作には、先端の径が0.1µm以下という細い電子銃の放出電流が劣化するという問題があり、1日に1〜2回メンテナンス電圧調整をしなければならなかった。これを解決するため、真空度を従来よりも100倍上げ3×10の-10乗パスカルまで圧力を下げた。


図2 透過電子顕微鏡の専用建屋 周囲は静かな森の中

図2 透過電子顕微鏡の専用建屋 周囲は静かな森の中


振動に対しては、外部要因を排除するように努めた。電子顕微鏡の分解能を上げれば上げるほど、ちょっとした振動でも画像が震えてしまうため、ごくわずかな振動との戦いだった。電顕をしっかり固定するため、専用建屋(図2)を建設、音の振動さえ嫌い、電顕の部屋を防音室にした。また、観察する時は真空ポンプを十分に引いたらポンプを止め、その振動も排除した。また、電顕の操作は別室で行い、操作室にも吸音材を張り巡らせた。外部磁場に対しては電顕の周りをパーマロイでカバーするだけで十分だとしている。


図3 電顕室の屋上 外見は透過電顕のアタマの部分と変わりないが、左のタンクが高電圧発生器、右のタンクは電子銃制御電源 写真には写っていないがその右に電顕がある

図3 電顕室の屋上 外見は透過電顕のアタマの部分と変わりないが、左のタンクが高電圧発生器、右のタンクは電子銃制御電源 写真には写っていないがその右に電顕がある


この電顕に使う1.2MVという超高電圧は専用の昇圧器と専用の電子銃制御電源も電顕のそばに設置されており(図3)、それらを超高圧に耐えるケーブルでつないでいる。ただし、これだけ高電圧となると空気中にケーブルが露出すると放電するため、SF6ガスで気密封止している。昇圧は、40kVずつ44段のポンピング回路で上げていくという。

(2015/04/14)

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