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キーサイトの新型1/fノイズ測定器、IoTのセンサ、ジッタの評価にも

「1/fノイズを測りたい」と思うエンジニアに福音。Agilent Technologiesから測定器部門が独立したKeysight Technologiesの日本法人、キーサイト・テクノロジーは、低周波雑音が極めて低い1/f測定器を開発した。1/fノイズの観測できる周波数が20Hz以下と低く、ホワイトノイズが占めるノイズフロアも従来の-177dB2/Hzから-183dB2/Hzと下がった。

図1 低い1/fノイズ測定が可能に 出典:キーサイト・テクノロジー

図1 低い1/fノイズ測定が可能に 出典:キーサイト・テクノロジー


低周波ノイズの1/fノイズ測定器のユーザーとして、キーサイトが狙うのはローノイズトランジスタやICの開発設計者。ローノイズデバイスの開発には、1/fノイズを減らすことが必須。そのためには1/fノイズのレベルを測定しなければならない。

正確な1/fノイズを測定するには、測定器自身のノイズレベルが低くなければならない。ローノイズデバイスの方が測定器の検出レベルよりもはるかに低ければ意味がないからだ。従来の1/fノイズ測定器は、1/fノイズを観測できるコーナー周波数は10kHzと高かったが(図1)、今回のノイズ測定器E4727Aのノイズフロアのレベルは最も低いという。

ローノイズデバイスが求められるのは、何よりも入力信号を増幅する初段のアンプ。このノイズが大きいと、信号と共にノイズも増幅されて次段へ送られるからだ。これまではオーディオアンプなどのローノイズ化のためにローノイズデバイスが求められたが、これからはIoT(Internet of Things)のようにさまざまなセンサを使う用途でも力を発揮する。微小のセンサ信号を増幅する場合にローノイズ化が求められるようになるからだ。この場合でも信号がノイズに埋もれてしまっては、FFT(高速フーリエ変換)のような回路を付けなければならず、コストアップにつながる。

1/fノイズは自然界に広く存在しており、人がその揺らぎ(ノイズ)を感じると気持ち良くなると言われている。半導体デバイスでは、結晶性の良い優れたシリコン結晶だと、ノイズは少なく、欠陥の多い結晶では電子や正孔がトラップされ、トラップレベルでの揺らぎがノイズを引き起こす。例えば、シリコン結晶表面を電流が流れるMOSFETではやはり表面準位の影響を受けるため、1/fノイズが観測されるが、JFETのようにバルクを電流が流れるデバイスでは1/fノイズは低い。オーディオアンプなどの低周波特性が問題になる応用やVCO(電圧制御発振器)の位相ノイズでは1/fノイズは厄介者だが、実はデジタル回路でも厄介者だという。アナログの位相揺らぎに相当するジッタがまさにビットエラー率に影響を及ぼすとキーサイトは言う。

半導体デバイスだけではない。抵抗器でさえ、ナイキスト雑音で決まるホワイトノイズだけではなく、1/fノイズが観測されるとしている。薄膜、厚膜、半導体とも抵抗器には1/fノイズが載るという。抵抗器にはセラミックのグレインバウンダリが半導体のMOS表面と同じように、やはり1/fノイズを発生させるのだと見ている。

これまでのノイズ測定器では、印加電圧は50Vまで、観測できる周波数は1Hz以上と範囲は狭かったが、今回新製品では最大200V、周波数0.03Hz以上、と精度は高まった。高電圧が必要なのは、GaNやSiCなどのパワーデバイスで高電圧バイアス状態での測定が求められるためだとしている。これまでの常識では、ローノイズの要求はアンプなどのフロントエンドのトランジスタであった。なぜパワー段でも1/fノイズが求められるのか、まだはっきりしない。送受信の1チップ化、LED光通信応用などと関係するのではないかという。

また新製品は、これまでのノイズ測定器と比べ、小型になり、床面積もかなり小さくなった(図2)。DC電源に加え、電圧アンプ、電流アンプとも日本法人が開発した。加えて、PXIeを採用し、モジュール構造を採った。デバイス(DUT:device under test)と測定器との距離も1/2〜1/3に減らし(図3)、外来ノイズの影響を少なくした。また、これまでは電圧アンプだったが、今回は電流アンプも追加したことで、出力抵抗の小さなデバイスも測定できるようになった。


図2 小型で高精度にした1/fノイズ測定器 出典:キーサイト・テクノロジー

図2 小型で高精度にした1/fノイズ測定器 出典:キーサイト・テクノロジー


図3  DUTとバイアス回路との距離を短縮 出典:キーサイト・テクノロジー

図3  DUTとバイアス回路との距離を短縮 出典:キーサイト・テクノロジー


1/fノイズのような低周波領域を広げれば広げるほど、測定に時間がかかる。1Hzは1秒、0.1Hzは10秒であるから、低周波での測定を繰り返して平均値をとる訳だが、その平均化時間を周波数ごとに設定できるようにした。低い周波数だと平均化の回数を減らし、周波数が高いと測定回数を増やすことで精度を上げた。

想定ユーザーとしては、半導体や電子部品メーカーに加え、大学や公立の研究所がある。例えば加速器の研究所では、センサ信号を拾う初段のアンプの評価にも使える。この測定器の開発は日本法人が行い、しかもシミュレーションエンジニアが深く係わったという。

(2015/03/05)

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