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フレキシブルに進化するテスターで半導体業界に本格参入する日本NI

筐体1台に数枚のボードモジュールを差し込む方式で、ディスプレイ表示やデータ処理にパソコンを使うという測定器を開発してきたNational Instrumentsは、半導体テスター分野にも本格的に乗り出してきた。同社の日本法人、日本ナショナルインスツルメンツは1日のイベントNIDaysを開催、半導体テスター(図1)開発の背景を明らかにした。

図1 National Instrumentsの半導体テスターの中身 空っぽの筐体にPXIシャーシを組み込み、テストヘッドなどを接続するだけの簡単な構成 出典:National Instruments

図1 National Instrumentsの半導体テスターの中身 空っぽの筐体にPXIシャーシを組み込み、テストヘッドなどを接続するだけの簡単な構成 出典:National Instruments


同社の半導体向けテスターSTS(Semiconductor Test System)は今年の8月に発表していたが(参考資料1)、そのテスターの最大のメリットは、フレキシブルにハードウエアを変えることができるという点だ。同社が提供しているPXIというシャーシ(筐体)(図2)に、例えばオシロスコープボードを入れればオシロになるし、スペクトルアナライザボードを入れるとスペアナになる。このSTSテスターでもその中身はPXIシャーシをベースにしている。PXIは、PCI Expressバスを基本としてさまざまなボードを接続できるアーキテクチャ。PXIを1台、2台、あるいは4台設置したものによって、テスター製品名をSTS T1、T2、T4と名付けている。テストすべき項目の数や量によって、これらの製品を使い分ける。このPXIにはFPGAが搭載されており、ユーザーが自由にハードウエア構成を変えることができる。テスト項目や測定条件などはソフトウエアで変えられる。


図2 National InstrumentsのPXIプラットフォーム 今はWindowsもこのシャーシに組み込んでいる

図2 National InstrumentsのPXIプラットフォーム 今はWindowsもこのシャーシに組み込んでいる


この新型テスターを発表する数年前から実は米国の半導体メーカーIDTやAnalog Devices(ADI)、ドイツのInfineon Technologiesなどと一緒に開発してきた。NIが半導体分野に参入してきた理由は、半導体の集積度がムーアの法則と共に上がり、トランジスタ当たりのコストは下がってきたのにもかかわらず、テスターのコストが横バイ、ないし少し上がり気味になってきたからだ。

そこで、NIの持つPXI方式をベースにすれば、新しい半導体チップのテスターを作り直す必要がなく、FPGAをプログラムするだけで済む。半導体メーカーのテストコストの軽減に寄与できる。実際にPXIベースのテスターを使ってきたIDTのテスト担当ディレクタ、Glen Peer氏はいみじくも次のように語っている。「従来の自動テスターでは、新しいテストの要求が来てテスターを全面変更するとなると、大きなコストがかかっていた。PXIベースのSTSシステムだとオープンアーキテクチャなので、既存のテスターの上に作り直すことができ、投資コストが少なくて済む」。Infineonもオーストリアのフィラハの工場でクルマ用半導体の特性試験に導入したという。

最初にPXIベースプラットフォームを使って半導体のテストをしたのが、2009年のADIだった。当時、ADIはMEMSデバイスのテストに他社の専用テスターを使っていた。ADIはスマートフォン向けのMEMSマイクロフォンをテストするのに当たりPXIプラットフォームを採用した。その理由は、同社が従来の専用テスターとオープンアーキテクチャのPXIとの比較表を独自に作成した結果、PXIベースの方がADIには向いていると判断した。これに自信を得たNIは、2010年にIDTやOSATなどにもアプローチし、導入することになった。現在、半導体業界向けにPXIプラットフォームは900台が量産に使われているという。この後、PXIベースのプラットフォームを半導体向けに標準化したプロトタイプが望まれ、今回のSTSの形になった。

これらのテスターが狙う市場は、ロジックやメモリではなく、アナログやミクストシグナル製品。なぜか。これまでのWSTSの実績と、IC Insightsのこれからの見通しによると、アナログとデジタルの数量の比率は1980年からずっとアナログの方が増えてきているからだ(図3)。デジタル時代と言われた1980年代中ごろ、Linear Technologyや Maxim Integratedなどの新興勢力が勃興し、現在は確固たる地位を築き上げた。今後もこの傾向が続くとNIも見ている。


図3 ICの数量はアナログがデジタルをじわじわ食ってきた 今後も続く 出典:WSTSおよびIC Insights

図3 ICの数量はアナログがデジタルをじわじわ食ってきた 今後も続く 出典:WSTSおよびIC Insights


NIが得意とするフレキシブルなテスターには、PXIハードウエアだけではなくLabVIEWと呼ばれる開発用のソフトウエアツールも持っている。このツールを使ってテスター向きのソフトをテストヘッドにアドオンできるという。

STSでは、最大26.5GHzの周波数帯域を持つモジュールVST(Vector System Module)を組み込むことができ、RFのテストも可能である。セミコンポータルですでにレポートしたように(参考資料2)、QualcommのWi-FiチームであるAtherosは新しい高速Wi-Fi規格802.11acのテストにVSTを使っており、テスト時間を従来よりも1/200に短縮したと述べている。

将来に向けてPXIベースのSTSが有利な点は、「PXIプラットフォームそのものが進化していることだ。PXIプラットフォームに使うCPUも進化するし、VSTを含むPXI測定ボードも進化する。FPGAも進化している。半導体専用テスターのSTSはPXIを取り換えるだけで進化できること」、と同社半導体テスト部門シニアマーケット開発マネージャーのJoey Tun氏(図4)は言う。加えて、半導体テスト部門バイスプレジデントのRon Wolfe氏は「だから価格や納期の点でも有利だ。PXIシャーシそのものを月産数千台も出荷実績があり、信頼性も向上している」と述べている。


図4 National InstrumentsのRon Wolfe氏(左)とJoey Tun氏(右)

図4 National InstrumentsのRon Wolfe氏(左)とJoey Tun氏(右)


STSは開発段階をもう過ぎたため、販売段階に入った、という。今は量産に必要なオンサイトキャリブレーションやオンサイトメンテナンスなどを強化していく。PXIそのものに進化に合わせて、STSに追加していき、新製品としていく。すでにサービス体制には世界的に自信を持っている。日本市場に対しては、「日本の半導体インフラは優れている。東芝やルネサス、ローム、ムラタ、ソニーなどアナログやミクストシグナル、RFに強い企業が揃っている。しかも企業はオープンマインドになってきたため、以前に比べビジネス機会は増えている」とTun氏は期待する。

参考資料
1. NI、RF/ミクストシグナルIC向けフレキシブルなテスターをリリース (2014/08/07)
2. NIがワイヤレス分野に本格参入、ハンドヘルドの802.11ac測定器を開発 (2012/08/09)

(2014/10/29)
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