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Mentor、パワー半導体のオンオフ試験を1/10に短縮するテスターを開発

パワー半導体の故障モードには、金属部分のクラックやはがれ、溶融ショートなど、デジタルや汎用アナログなどとは異なることが多い。数A以上を流すパワー半導体では熱による故障がよくある。EDAだけではなく組み込み系やパワー分野にも手を広げているMentor Graphicsがパワー半導体の信頼性を評価する装置(図1)を発売した。

図1 Mentorが発売するパワー半導体テスター 出典:Mentor Graphics

図1 Mentorが発売するパワー半導体テスター 出典:Mentor Graphics


Mentorはプリント基板の配線CADや半導体EDAが得意な企業である。最近は組み込みシステムやそのソフト開発ツールなどと手を広げているが、今回パワー半導体の試験装置に進出した。この装置の中に故障解析するためのモデル化とそのアルゴリズムを組み込んでいる。

発表した新製品は、パワー半導体のオンオフ動作を数万回から数百万回繰り返しながら電気的特性を自動的に測定できる検査装置。パワー半導体は、パルスで動作させることが多い。例えば3相モーターは3個のパワートランジスタ(耐圧によっては6個)を使い、回転角120度ごとに順次オンさせていくことで1回転させる。デジタルアンプ(D級アンプ)はPWM(パルス幅変調)制御によりパルス幅で電流値を制御する。

パワー半導体は1回のパルスに流す電流は小さくても数Aなので、半導体そのものが発熱する。ボンディングパッド上のワイヤー、ダイボンディング状況などでは、繰り返しの熱と高温状態によって、金属材料にクラックが入ったり、はがれやすくなったりする。異なる材料が接している状態では熱膨張係数が異なるからだ。そこで、何万回のオンオフサイクルに耐えられるか、試験する。

オンオフを繰り返して発熱・冷却を繰り返した後に電気的特性を測るには、手間がかかる。例えば1000回程度、オンオフパルスを繰り返した後で、恒温槽から取り出して測定し、データを取り、さらに2000回へと進む。オンオフサイクルを増やしながら数万回、数十万回へと進んでいくと時間がかかる。しかも、モジュールや半導体のパッケージを開けて初めて故障を特定できることが多い。

Mentorのテスト装置は、オンオフテストをしながら診断情報を完全自動で記録することができる。装置のHMIインターフェースにはタッチパネルのメニュー方式を採用、負荷条件や測定条件などを簡単に操作できる。装置には3個のデバイスやモジュールを測定できる端子を揃えており、デバイスあたりに印加できる電流は最大500A。それらの端子を並列動作させれば装置は、最大電流1500Aのデバイスまで対応できる。

電気的な測定だけではない。この装置には、「構造関数」と呼ばれるアルゴリズムが組み込まれている。これを使って故障モードや故障の原因となっている部分をほぼ特定できるという。その仕組みは以下のようである。半導体デバイスは、基本的にチップ表面にはボンディングワイヤー、チップの裏面にはダイアタッチ材料、絶縁基板、金属基板、放熱グリース、放熱フィンなどから成っている(図2)。チップ内のpn接合からこれらの材料を経て、放熱フィンまでの熱伝導経路を熱容量Cと熱抵抗Rのラダー回路で近似する。初期の良品サンプルのRとCの曲線を保存しておき、それを参照関数データとする。その関数データからずれていく様子を見て、故障個所を特定するというもの。


図2 パワー半導体の劣化を近似する構造関数のモデル 出典:Mentor Graphics

図2 パワー半導体の劣化を近似する構造関数のモデル 出典:Mentor Graphics


図2では、pn接合から熱の伝わり方において、RとCが大きくなっていく様子を示しているが、最初の平坦な部分は、ダイアタッチの部分において熱抵抗が大きくなっていることを示しているという。次の平坦な部分は基板とのアタッチメントによるものだとしている。接合から周囲(アンビエント)温度に到達するまでの熱抵抗を分解して見積もることができる

この曲線(構造関数)の様子から、基板のひび(クラック)あるいは層間の剥離などさまざまな状態を対応させておくことで、オンオフ試験を数万回経た後の関数の類似性から故障個所を疑う。図3の左の曲線群はその劣化状態を示している。電気的な測定からも例えばゲート電流が増加傾向にあればゲート酸化膜の劣化を疑い、ドレイン電圧などが増加傾向にあればボンディングパッドの劣化を疑う。電気的な測定と、構造関数の曲線傾向から総合的に故障を特定する。英国University of Nottinghamと共同でこの構造関数モデルを作り出したという。


図3 パワー半導体の劣化を近似する構造関数のモデル 出典:Mentor Graphics

図3 パワー半導体の劣化を近似する構造関数のモデル 出典:Mentor Graphics


Mentorはこの試験装置を使うことでオンオフ試験の総時間は最大1/10まで短縮できたとする。装置の見込み顧客はパワーエレクトロニクスのサプライヤ、自動車産業のティア1サプライヤなど。

(2014/05/14)
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