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テクトロニクス、500MS/sながら4万円台という低価格のオシロを発売

テクトロニクス(Tektronix)が4万円台と極めて低価格なデジタルオシロスコープTBS1000シリーズを発売した。学生や初心者が使う計測器であるが、開発現場でも波形を確認したいだけという手軽な用途にも向く。

図1 テクトロが発売した4万円台のオシロ

図1 テクトロが発売した4万円台のオシロ

これまでテクトロニクスといえば、ハイエンドな数100万円から1000万円以上のハイエンドな製品を作るメーカー、というイメージであったが、これを払しょくする。現実にはテクトロニクスはハイエンドからミッドレンジ、ベーシックという3つのジャンルの製品を扱ってきた。ベーシックとしてはTDS2000シリーズ(周波数帯域50MHz)という入門向けオシロを持っていたが、10万円以上した。このため、初心者が個人で買うという価格ではなかった。一方で、安さだけなら台湾や中国製の3万円台のオシロもあるが、ブランド力がない。

今回は、税抜きで4万8700円と初めての4万円台を実現した。最も低価格のTBS1022は、最高サンプリングレートが500 Mサンプル/秒、測定周波数帯域25MHzであり、入力チャンネルは2個ある。測定器本体に加え、プローブ2本とソフトウエア、学習コンテンツCDも付く。ちなみに製品名のTBSはTektronix Basic Scopeの略。ほとんど同じ仕様で帯域を40MHz、60MHzという製品も揃えた。これらはそれぞれ税抜きで6万3700円、7万7800円であり、やはり10万円を切っている。しかも5年保証が付いている。

狙う用途は工業技術センターや高等専門学校(高専)など、電子回路を教える教育機関。オシロスコープの基礎を学ぶためのCDも標準添付されている。1校に1台ではなく、数台設置することを狙っている。

ただし、安かろう悪かろうでは決してない。測定周波数帯域はさらに100MHz、150MHz、サンプリングレート1Gサンプル/秒というモデルもある。これまでなじみの深かったTDS2000シリーズのユーザーインターフェースを用い、16種類の自動測定や周波数カウンタ機能なども付く。USB端子からパソコンにつないでデータ処理も可能でそのためのソフトウエアOpenChoiceも揃えている。サージなどの高い過渡電圧が入力された時のリミッタも備えている。また、2チャンネルの入力信号を、サンプリングレートを落とすことなく独立に観測できる。測定波形の10倍のオーバーサンプリングを実現しているため、正確な波形を表示できる。

最低価格4万円台を実現できたのは、これまでTDS2000で累計50万台の実績を持つ半導体チップ(A-Dコンバータ)をはじめとして、できる限り共通部品を活用することや、上海に生産工場を作り、カイゼンを導入し、コスト競争力を付けたこと、さらにDBS(Danaher Business System)を導入したこと、が大きいとする。新たに半導体チップを起こしたのではなく、従来の部品をできるだけ流用した。

最後のDBSは、ダナハーがトヨタ流の「カイゼン」を採りいれダナハー流にアレンジした生産活動の名称。2007年11月に米大手産業向け機械メーカーのダナハー(Danaher)がテクトロニクスを買収し、テクトロはダナハー流のカイゼンを叩き込まれた。ダナハーは「Go to Gemba(現場)!」と「Why」を常に意識し、生産ラインの改善を日ごろから行っていた。景気後退期に業績が落ちた場合でも、景気のせいにするのではなく、「なぜ」を5回繰り返し、売れ行きが落ちた真の原因を探り当ててきた。これによって対策を施し、製品の品質と納期、コストが大幅に改善したという。テクトロニクス日本法人代表取締役の米山不器氏(図2)は、DBSというカイゼン手法の導入のおかげで低コストにするための努力を真剣に重ねたと述べる。

図2 テクトロニクス代表取締役の米山不器氏

(2012/11/29)
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