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英国特集2010・新型インクジェットプリンタヘッドを有機エレ用に開発

プラチックエレクトロニクス製作の量産にはR2R(ロール-ツー-ロール)方式が向いているが、ロールから出てきたシートがほんのわずかでもずれるとシートの先端は大きくずれてしまう。特にTFTの1画素分の小さなパターンずれは致命的だ。このためR2Rマシンの途中に絶えず細かい位置制御が求められる。一方、インクジェット方式は今すぐという応用には出番がある。

ケンブリッジにあるザール(Xaar)社は、大面積にも対応できるような工業用途のインクジェットプリンタヘッド技術を開発している。この会社はプリンテッドエレクトロニクスの商用化を念頭に置き、インクジェットの1次元ラインモジュールを商品化した。このモジュールを複数個、互い違いに配置すると、メートル単位の大面積のプラスチックフィルム上に回路パターンを連続して描くことができる。


プラスチック上に配線パターンを作製している 出典:Xaar社

プラスチック上に配線パターンを作製している 出典:Xaar社


「インクジェットプリンタのメリットは何といってもオンデマンド」とザール社ビジネス開発日本担当 取締役補佐のデビッド・チャップマン(David Chapman)氏は言う。オンデマンド、すなわちいつでもすぐにプリントできることが特長である。加えて「少量多品種生産に向くし、印刷やフォトリソグラフィのマスクが要らない」とする。ケンブリッジのインキュベータである英Cambridge Consultants社を1980年代末にスピンオフして設立された同社のその製品こそ、1000個のノズルを1次元的に並べたプリンタヘッドXaar1001である。


ザール社 取締役補佐のデビッド・チャップマン氏

ザール社 取締役補佐のデビッド・チャップマン氏


Xaar1001一次元プリンタヘッド 長さは13cm

Xaar1001一次元プリンタヘッド 長さは13cm


このプリンタヘッドの特長は、ノズルの目詰まりを全く生じない新構造を採用したことで、従来の印刷用のインクだけではなく、プリンテッドエレクトロニクスに使うメタルの粉末を含ませたインクや、有機ELなどに使う発光ポリマー、生物活性体、ポリイミドなどを含ませたような、これまで使えなかったインクが使えるようになる。

このプリンタヘッドは圧電素子を使うが、従来とは違い構造を工夫した。従来の圧電素子によるインクを押し出す場合、インクの壺の一方向から押し出し、その方向に沿ってインクを飛び出させるノズルを配置していた。この方法では、インクの中に不純物パーティクルが含まれると、インク壺の中に溜まってしまう。時にはノズルに入り込むと目詰まりを起こしてしまう。このため、液体インクの中に配線用メタルの粉末などの顔料を溶かすようなプリンテッドエレクトロニクス分野で使うのは難しかった。

ザールの技術は、パーティクルやバブルを常に流しておくという方法で、インクの壺内部にパーティクルがたまらないように工夫している。インク壺の中には細長くて高い壁に囲まれた室が接しながら1000部屋ある形をしており、それぞれの部屋の床にノズルが1個開いている。インク流体は細長い壁に沿って流れるが、ノズルの穴は流れに垂直方向に開いている。この細長い壁をピエゾ電気で揺すり、その壁に並行にインク液を流して循環させると、底のノズルからインクが飛び出すという訳だ。具体的なイメージは、ビデオ(45MB)を参照。ノズルの密度は360ノズル/インチ。

この新しい方法だと、インク液とパーティクルは常に流れているため、溜まることはなく、パーティクルがたとえ入っていてもノズルから出てしまう。圧電素子を駆動する時の周波数は最大150kHzだが、ユーザーの要求によって変えることはできる。また、用途によってインクの濃度・粘度を変えられ、ノズルから1回の駆動で8滴(eight droplets)までのインクを出すことができ、印刷する1粒の大きさを8段階で替えることができる。これによって中間調を出せるようにしている。駆動周波数とインク濃度、制御温度でインクを応用やユーザーごとに調整する。

この幅13cmのプリンタヘッドのカートリッジを例えば5個互い違いにずらしながら並べることで印刷すべき媒体の幅を広げることができる。A4版の紙などの媒体に1時間当たり1万枚印刷できるという。媒体はロールで巻いており、媒体を動かし、インクカートリッジは固定しておく。装置にもよるが、25m/分という速度での印刷も可能という。カートリッジ5段構成を1組として4組重ねると大面積のフルカラー印刷もできるようになる。

チャップマン氏は、「インクジェットのようなアディティブ法はインクを無駄にしないため、運転コストは安くつく。インクによっては1リットル当たり1万ドルもする材料もある」という。

このインクジェットプリンタを使うプリンテッドエレクトロニクスの応用として、サイネージ用ディスプレイは商用化が比較的早いという。OLEDディスプレイはまだ寿命の問題が残っているが、テレビへの応用も可能ではある。そのほか、ポリカーボネート基板上にポリイミドのマイクロレンズを作るという応用もある。このプリンタヘッドを使い、CIT(導電性インクジェット技術)の製造装置を作る計画もある。さらに、ナノインプリントリソグラフィへの応用も期待している。

ザールのビジネスモデルは、プリンタメーカーにプリンタヘッドを供給するという販売と、プリンタヘッドのライセンスも行うとしている。この独自技術のパテントは成立している。開発拠点はこれまでスウェーデンにあったが、英国のハンチントンに3年前新工場を建設し、さらに製造をハンチントンに移しているとチャップマン氏は話す。

(2010/06/16)

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