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熱や電流などのシミュレーション結果をすぐ得られるSimAIをAnsysが開発

先端パッケージングで重要になる、流体解析や構造解析などのシミュレーション技術にAI/ML(機械学習)を利用すると、桁違いに結果が速く得られるAIシステム「SimAI」をシミュレーションベンダーのAnsysが開発した。AnsysはTSMCのエコシステムにもEDA3社と共に参加しており、これからの半導体パッケージには欠かせなくなりそうな存在だ。

Ansysは長年、自動車などの機械設計での構造解析や流体力学などの解析にシミュレーションを発展させてきた。もちろん機械だけではなく、エレクトロニクスやオプティクス、半導体などにも生かせる。シミュレーションのメリットは何といっても実際にモノを作らなくてもある程度の目安を得ることができることだ。シミュレーションを使うことで、実際にモノを作る前に精巧なシミュレーションで製品を評価できるため、開発から量産までの期間を大幅に短縮できる。製品のコンセプト開発だけではなく、量産する手間のテストでも欠かせない存在になる。


Machine learning models are ... / Ansys

図1 機械設計でのシミュレーションをAI/MLで行えば秒単位に短縮 出典:Ansys


Ansysはシミュレータを、オンプレミスだけではなくクラウドベースで使えるようにしているが、シミュレーションする計算時間をAI/MLによって大幅に減らすことができるという。MLのモデルを使えば、従来のCPU時間では48時間かかっていたシミュレーション結果が、機械学習のモデルの推論ではわずか数秒で予測できるとしている(図1)。

MLでは、学習しなかった部分でも予測できるうえ、データの質やバラつきも予測できる。また、データから学習させるため、多孔質媒体やビームの要素など細かい形状を物理的に解析する必要がない。データの中から、支配している特長を抽出するため、結果が速く得られる。

最近開発したAnsysの「SimAI」製品はクラウドベースのAIシミュレーションプラットフォームで、これを使って設計に生かす。実際には、顧客の過去の設計データを読み込ませ学習させておく。さらに求めたいシミュレーションのAIモデルを5日〜1日かけて追加学習させると、推論を使って数秒で予測を出力する(図2)。


SIMAI - Predict at the Speed of AI / Ansys

図2 SimAIで推論によって予測すると従来のシミュレーションと近い数秒で結果が得られる 出典:Ansys

クルマの風洞実験だと大規模な設備が必要だが、空気力学を使ったシミュレーションだと計算時間が長くモデルを作ることも難しい。しかも、200CPUコアで5時間かかっていたシミュレーション演算が、「SimAI」を使った予測ではわずか30秒で得られるという(図3)。


SUV Aero Performance / Ansys

図3 SimAIを使えば空気力学の予測が30秒ですむという 出典:Ansys


半導体では、特にチップを積層させる場合の熱や電磁界解析、また電源ラインの設計などにシミュレーションモデルを立ててシミュレーションすることが先端パッケージ技術や超先端の2nm以下のプロセスでは欠かせなくなる。しかし「SimAI」を使えば、物理モデルを立てるのではなくこれまでのデータを学習させさえすれば、追加学習だけで済むうえに、推論による予測はたちどころに結果が得られる。先端パッケージ技術の設計には頼もしい味方となりうる。

(2024/03/14)
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