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最大40本の指を36型画面まで検出可能なタッチスクリーンコントローラ

パワーマネジメントをはじめとするアナログ・ミクストシグナルLSIを手掛けるドイツのファブレス半導体メーカー、ダイアローグセミコンダクタ(Dialog Semiconductor)が11インチ〜36インチの大画面ディスプレイでタッチスクリーンを実現する半導体コントローラDA8901を開発(図1)、今年後半から出荷していく。

図1 DA8901の回路構成 出典:Dialog Semiconductor

図1 DA8901の回路構成 出典:Dialog Semiconductor


ダイアローグはマルチタッチのスクリーンでしかも最大36インチまでの大型パネルをターゲットとしている。Windows 8や、ウルトラブックなど、やや大型のスクリーンを複数の人間が同時にタッチし、それぞれの指を検出するという応用だ。

これまで、スマートフォンやタブレットのような複数本の指とその動きを利用するタッチスクリーンコントローラは、静電容量を利用したものが多かった。指10本を検出できるコントローラICもあった。しかし「スクリーンサイズが11インチを超えると高価になり14インチスクリーンだと60ドルにもなる。600ドルPCでは許容できない」とダイアローグ社開発&戦略担当バイスプレジデントのMark Tyndall氏は言う。しかも高価な透明電極ITOを形成する必要があった。

そこで、今回は赤外線の送受信機を多数並べ、導光路マトリクスを構成するという新しい方式を採り入れた。ただ、赤外線を利用する方法は従来にもあった。スクリーンの上部2カ所から赤外線を放射し、スクリーン表面を指で触ると指によって赤外線が遮られるため、その場所をタッチした点と認識していた。しかし、バックライトの拡散板のように表面を厚くせざるを得ない上にベゼルと呼ばれる枠を液晶スクリーン周囲に設けなければならなかった。しかも赤外線を検出するカメラは2台必要だった。


図2 タッチセンサを構成する枠(ワク)状のプリント基板 出典:Dialog Semiconductor

図2 タッチセンサを構成する枠(ワク)状のプリント基板 出典:Dialog Semiconductor


今回の赤外線を利用する方法は、スウェーデンのFlatfrog Laboratories社が開発した最大40点まで同時に検出できる手法であり、Flatfrogからライセンス供与を受けている。その方法を制御するためのコントローラICがDA8901という訳だ。この技術では、図2のようにスクリーンの周囲に設けた細く四角いプリント回路基板上に赤外線LED/受光素子のペアを多数並べている。プリント回路基板の幅は、ICの大きさ(5.7mm×5mm)に近い。

この技術では、赤外光はある1辺から放射され、対抗する1辺でそれを受け取る。LEDから発した赤外光はカバーガラスの表面と裏面を反射しながら伝達していく。ガラスの中は導光路となる。その途中の表面に指が置かれると、伝達する光は妨げられてしまうため、それで指を検出する(図3)。しかもガラス表面ではXY方向のマトリクス状に導光路が形成させているため、スクリーン表面上の位置がわかる。


図3 赤外光はガラス内部を上下に反射しながら進んでいく 出典:Dialog Semiconductor

図3 赤外光はガラス内部を上下に反射しながら進んでいく 出典:Dialog Semiconductor


このICは1チップで、12対のLED/受光素子をカバーできる。図2の例では、短辺に11対、長辺に20対のLED/受光素子のペアを並べているため、コントローラICを短辺1個、長辺2個の合計6個並べた構成を取る。それらを子ICとして1個の親ICが6個の子ICを制御する。発光側にはドライバ回路やその制御回路(エミッタエンジン)、検出側にはアンプとA-Dコンバータを、デジタル信号を意味のある信号へと変換する制御回路(ディテクタエンジン)をそれぞれ集積している(図1)。親ICが子ICを制御するための信号や映像信号を扱うためのSDIOインタフェースやLVDSインタフェースなども内蔵している。チップ全体の制御にはARM Cortex-M0を使う。59ピンのQFNパッケージに入っている。

親IC1個で最大15個の子ICを制御でき、タッチスクリーンの分解能は400dpiと高い。同社は、14インチLCDのウルトラブックなら1インチ当たり3ドル以下、23インチのモニターなら1インチ当たり4ドル以下を目指すとしている。コスト的に見合うのは11インチ以上だとしている。このコストには、DA8901チップに加え、赤外LED/受光素子のコストも含むという。

原理的に光の遮断・透過を利用するため、スタイラスペンやグローブをはめた手でも動作する。光の遮断や乱れを利用して圧力も検出できるという。


図4 Dialogは平均55%増で成長を続けてきた 出典:Dialog Semiconductor

図4 Dialogは平均55%増で成長を続けてきた 出典:Dialog Semiconductor


ダイアローグ社は、ドイツに本社を置くものの、英国やオランダ、イタリア、オーストリア、ギリシャ、トルコといった欧州だけではなく、米国のシリコンバレー(サンタクララ)や東京にも開発拠点を持つグローバルな企業である。このところ業績が好調で、2007年以来ずっと右肩上がりを続けている(図4)。2012年の売り上げは7億7400万ドル。6年間のCAGR(年平均成長率)は55%と極めて大きい。

(2013/03/22)
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