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テンシリカ、CEVA、スマホの音を豊かにするオーディオDSPコアを提案

オーディオ技術はもはや枯れた技術、と思っていないだろうか。昔のアナログオーディオは確かに枯れた技術。真空管を懐かしむマニアはいる。しかし、デジタルオーディオはスマートフォンが登場してから大きく変わろうとしている。オーディオコーデックとその周りに知恵を入れ込むことでユーザエクスペリエンスを豊かにできる。スマホを差別化するためのオーディオ向けIPベンダーを2社紹介する。

図1 デジタル音の後処理技術は3年以内に3倍成長へ 出典:Tensilica

図1 デジタル音の後処理技術は3年以内に3倍成長へ 出典:Tensilica


コンフィギュアラブルプロセッサコアで名声を築いていたテンシリカ(Tensilica)社は、その製品ポートフォリオを、オーディオDSPやビデオDSP、通信DSPなどにも広げてきた。特にオーディオDSPはこの4月に出荷累計で3億個を超え、2014年までに10億個に達すると期待している。その主な用途はスマホが半分以上占めると見ている。性能は3年後には現在の200MHzから600MHzへ進化し、特にオーディオコーデック、ノイズ抑制機能、コーデックの後処理(post processing)機能などが伸びると予測する(図1)。

オーディオコーデックでは音をA-D変換しデジタルで音を表現する。このデジタル信号をさらに圧縮し、データ量を減らす。人間の耳に聞こえない高調波成分をカットしたり、聞こえない低音成分を減らしたりしてデータを圧縮することが多い。

その後の処理では、音を3次元的に広げるサラウンド機能を付けたり、音の奥行きを表現するアルゴリズムを追加するなど、音に深みを持たせる機能を「後処理」として扱う。これは外形だけでは差別化しにくいスマホの機能として重要になりつつある。例えば2月のMWC(Mobile World Congress)会場でHTCは、スマホにDolby技術を導入した製品を発表した。Dolby研究所はスマホメーカーに音質の深みを訴求している。

テンシリカのファウンダ兼CTOであるクリス・ローエン(Chris Rowen)氏(図2)は、後処理で必要な機能を4つ上げた。1) 音量増強、2) 低音と高音を強めて周波数特性を平坦にするイコライズ機能、3) ステレオ音響の拡大(サラウンド)、4) 仮想的な5.1チャンネル、である。室内で聴くハイファイ音を携帯機器で聴けるようにすることがこれらの狙いといえる。


図2 TensilicaのCTO、Chris Rowen氏

図2 TensilicaのCTO、Chris Rowen氏


さらにスマートフォンで音質を問題にする理由は、騒がしい場所での通話を可能にするためである。音声認識(iPhoneのSiriなど)にはノイズの少ないきれいな音が欠かせない。このためにノイズキャンセルのための新しいアルゴリズムを生み出すと共に、クリアな声を作り出し音声認識エンジンに送り込む。これによって認識率の向上を狙う。

スマホ市場向け低消費電力技術のCEVA
もう一つのDSPコアベンダーはイスラエルのCEVA社だ。同社の強みは、汎用ではなく専用のDSPコアである。テキサス・インスツルメンツやアナログ・デバイセズ、クアルコム等DSPチップメーカーは汎用製品を扱うが、CEVAはオーディ専用、画像・映像処理専用、通信モデム専用とそれぞれ用途に応じたDSPコア製品を得意とする。今回新製品として、CEVA-TeakLite-4と呼ぶオーディオ/ボイスDSPコアをライセンス販売する。


図3 CEVAマーケティング担当VPのEran Briman氏

図3 CEVAマーケティング担当VPのEran Briman氏


同社マーケティング担当バイスプレジデントのEran Briman氏(図3)は、「オーディオコーデックはありふれた成熟製品だが、ユーザエクスペリエンスを決めるのはコーデックの後処理回路だ」と述べる。例えば、テレビやスマートフォン、タブレットは薄型化が進み、スピーカーも薄くなる。その結果、音質は悪くなってきた。この音質劣化を補償する回路が後処理回路である。小さなスピーカーや薄いスピーカーでも良質の音で音楽を聴けるのはこの後処理半導体技術による。

音声通話の場合でさえ、ボイスコーデックのサンプリング周波数は従来の8kHzから16kHzへと高音質化が進んでいる。音声認識がアップルiPhoneのSiriやスマートテレビなどに見られるように急速に発展しそうな勢いになっているが、このためには音質の良い声(クリアボイス)を音声認識回路へ送らなければ正確な認識はできなくなる。クリアボイスを実現するのがノイズ抑制機能であり、音声の届く範囲を操作するビームフォーミング技術である。こういったクリアボイスを実現するためには高いコンピュータ能力(最大1GHzのARM Cortex-A9相当)が求められるという。


図4 TeakLite DSPファミリーのロードマップ 出典:CEVA

図4 TeakLite DSPファミリーのロードマップ 出典:CEVA


携帯電話のような低消費電力のデバイスで高音質にするための後処理回路を実現するのがCEVA-TeakLite-4である。同社はこれまでもTeakLiteコアを販売してきており、累積で50社に90種類のオーディオ/ボイスコーデックをライセンス販売し、20億個のデバイスに搭載されているという。今回のTeakLite-4は第4世代に相当し、前世代のTeakLite-IIIと比べて、消費電力を最大30%削減し、ダイサイズは最大25%小さくし、回路規模は10万ゲート未満としている。32×32ビットと16×16ビットのMAC(積和演算)を集積し、256ポイントの複雑なFFT(高速フーリエ変換)演算を1500未満のクロックサイクルで実現する。28nmのHPMプロセスで製造すると最大1.5GHzで動作するとしている。

今回、4つの製品コアを発表している(図4)。シングルの32×32ビットMACとデュアルの16×16ビットMAC集積した製品、デュアルの32×32ビットMACとクアッドの16×16ビットMAC集積した製品、それぞれにキャッシュコントローラやAXIインターフェースを集積した製品の4種類である。

携帯機器向けに消費電力を下げるため、負荷状態に応じて電圧を変えるパワーゲーティングやクロック周波数を変えるクロックゲーティング技術に加えて、マイクロアーキテクチャやパイプラインの最適化も行った。さらに命令セットも32ビットだけではなく16ビット命令も活用しダイサイズを減らした。

CEVAは今回、オーディオDSPに加え、画像・ビデオ処理用DSPと通信用DSPも同時にライセンス発売を行う。画像・ビデオ処理では、出始めた顔認識とその解析、ジェスチャー認識などの応用がこれから拡大してくると見て、専用DSPであるCEVA-MM3101を発表している。通信用DSPではデジタル変調、特にOFDM変調がさまざまな機器やデバイスに載ってくる。通信ネットワークはLTEからLTE-Advancedになり、新しいWi-Fi規格や広域無線ネットワークの802.22規格も登場してくる。さまざまな規格にソフトウエアで対応できるようにするためソフトウエア無線(SDR: Software Defined Radio)モデムコアとしてCEVA-XC4000を発表している。

(2012/05/31)
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