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システムと一体化する第2世代のセンサ技術(1)−海に囲まれた英国に見る

センサ技術が第2世代を迎えている。従来のセンサ技術動向では、物理量を電気量(電圧や電流)に変換するデバイス単体に焦点が当たっていた。第2世代では、センサがシステムと一体になってシステムをより便利に使え、より詳細に解析でき、より正確に制御できるようにエコシステムを構築する。第2世代センサシステムに取り組む英国スコットランドの状況を紹介する。

スコットランドにおけるセンサ産業は現在23億ポンド(約2875億円)の売上規模である。「スコットランドには1000程度のテクノロジセンターがあるが、このうちの10〜15%がセンサシステム関係のグループであり、最大である」とスコットランド開発公社(Scottish Enterprise)のScott Wilson氏は言う。センサを利用する産業は極めて多岐にわたり、エネルギー、ライフサイエンス、化学、航空宇宙、防衛海事、自動車、食品・飲料、セキュリティ、環境モニタリング、石油・ガスなど幅広い。これらはニッチ市場と呼んでよい。

こういった分野では、センサを使った電子制御がエレクトロニクス産業やIT業界と比べて大きく遅れている。逆に言えばここに手つかずの巨大な市場が存在する。職人や技能者の機械の「勘」に頼っていた世界から、センサ+半導体を利用してインテリジェントな電子制御が可能になり、生産性や精度、再現性などが向上する。あるいは、無人の探査やモニターによってこれまで見えなかった所を見えるようにし、行けなかった所を行けるようにする。


図1 水中で利用されるセンサシステム 左からSeebyte社、WHS Technologies社、AC-CESS社の各ROV(Remotely Operated Vehicle:遠隔操作システム)

図1 水中で利用されるセンサシステム 左からSeebyte社、WHS Technologies社、AC-CESS社の各ROV(Remotely Operated Vehicle:遠隔操作システム)


英国の特徴は、日本と同様、海に囲まれていることだ。北に位置するスコットランドは海に面した場所が極めて多い。海上あるいは海中に設置する建造物の劣化防止や制御に使うセンサシステム(図1)は、スコットランドならではの応用となる。海上や海中に設けるシステム技術をオフショアエンジニアリング(Off-shore Engineering)と呼ぶ。海上における石油掘削やガス田開発、風力やソーラーなどの再生可能エネルギー発電所、船舶への応用など、オフショア応用はニッチだが、市場は確実にある。

こういった市場に向けスコットランドは大量生産ではなくハイエンド商品設計に注力しており、少量生産を得意としてグローバルな企業と競争している。しかも、競争だけではなく、センサ産業のサプライチェーンにはグローバルな協力が不可欠。センサそのもののメーカーだけではなく、システムインテグレータからソフトウエアメーカー、通信メーカー、パワーマネジメントメーカーなど極めて広い範囲に渡るコラボレーションが必要となる。

このコラボレーションを通して設計されるセンサシステムには、MEMS、超音波、フォトニクス、RF、画像処理、ミクストシグナル回路、システムインテグレーション、ワイヤレス、ネットワーク、情報処理などの技術を使う。これらの分野のプレーヤーにはスコットランドに拠点を置く企業もいる。MEMSだと、マイクロフォンのWoflson Microelectronics社や、ファウンドリとパッケージングのSemefab社がある。超音波ではピエゾ素子やアレイのAlba Ultrasound社、 IR(赤外線)/フォトニクスではフランス本社のThales社がある。レーダー/RFではSelex Galileo社、画像処理ではOptos社、ミクストシグナルではWolfsonや米Freescaleがいる。システムインテグレーションでは米国本社のHoneywellやRaytheon、ワイヤレス/通信ネットワークでは米国本社のCisco社、情報処理ではThalesやRaytheonがいる。

スコットランドが力を入れているセンサは、環境市場に向けたフォトニクスと光ファイバセンサだ。「例えば石油産業は旧態依然としており、昔からの機械に頼る非インテリジェントなシステムでできている。ここに圧力センサや温度センサ、振動センサなどを設置し、海中におけるシステムのインテリジェント化を図る」とWilson氏は述べる。ファイバベースのセンサシステムだと化学的な劣化は起きないというメリットがある。

光ファイバセンサとして、ファイバブラッググレーティング(Fiber Bragg grating)と呼ばれる手法を使う。これは、圧力と温度によって変わるブラッグ波長の変化を観測する。この光ファイバは、ファイバの途中にブラッグ(Bragg)格子を設けている。この格子において光がブラッグ反射され、戻り光の中心波長となるブラッグ波長を観測するという訳だ。光ファイバセンサの利点は海中で使えるということである。海中や海底の探査には、油田調査、地震調査といった用途にも使えるとしている。

第2世代のセンサシステムは、ビジネスモデルをも変えている。「面白い会社としてOptos社がある。ここは網膜画像を撮影し病気の診断に使う装置と、サービスを提供している」とWilson氏は言う。特長は、複数の波長を使って200度と広い視野角の画像を撮影できることだ。従来は30度程度と狭かった。今回の画像から、網膜剥離や緑内障などを診断できるだけではなく、糖尿病や高血圧のように眼とは直接関係のない病気の診断もできる。網膜の裏側構造や眼圧までも測定できるとしている。ビジネスモデルは、装置そのものは売らずに、撮影した画像写真に対してお金をもらうという方式である。1枚20ドル程度がセンサ会社に入金される。


図2 Optos社の網膜画像診断装置

図2 Optos社の網膜画像診断装置


もう一つの新しいビジネスモデルの例としてジェットエンジンのRolls-Royce社を同氏は上げる。同社はジェットエンジンのモニタリングサービスをリアルタイムで提供している。センサネットワークを利用して、エンジンが今どのような状態にあるのかをオペレータに報告する。顧客は、航空機メーカーである。この場合もセンサやセンサネットワークを売らずに、そのシステムから得られるサービスを売っている。

(2012/02/15)
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