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日立製作所が現行の6倍相当の記録密度を読み書きできるHDD磁気ヘッドを開発

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が推進するプロジェクト「超高密度ナノビット磁気記録技術の開発」のもとで、日立製作所は、3.3Tビット/平方inchという現行の6倍高密度のHDDを読みとるための磁気ヘッド技術を開発した。

現在の高密度HDD(ハードディスクドライブ)には垂直磁気記録技術が使われているが、NEDOのプロジェクトは垂直磁区(マグネティックドメイン)の表面寸法を微細化し、記録密度を現行の10倍の5Tビット/平方inchに増強するという目標を持って、2008年から5カ年計画で進められている。このプロジェクトは単に磁気ヘッドの開発だけではなく、HDDドライブ全体に渡って10倍の記録密度を安定に読み書きできるようにしようというもの。このため、磁性材料やディスクの開発から、ノイズに埋もれた信号を読み出すための読みだし技術、機械系の精密位置決め技術に至る総合ドライブ技術の開発となる。日立のほか、日立グローバルストレージテクノロジーズ、東芝などが参加している。

日立製作所の中央研究所が開発したのはこのうち、磁気ヘッド技術である。高密度なディスクは非常に微細な磁区が必要になるが、それを書き込み読み出すためのエネルギーは少なくて済むが、反面ビット反転しやすくなる。安定な磁化を確保するためには高いエネルギーで書きこまなければならない。反応の活性化エネルギーは大きくしておけば、簡単に磁区が反転することがなくなるからである。


磁化を安定に反転させるためマイクロ波共鳴を使う

図1 磁化を安定に反転させるためマイクロ波共鳴を使う


今回、日立が磁区書き込みに必要なエネルギーを、マイクロ波の共鳴によって電子を揺さぶることで追加できるような方法を使った。日立はこれをマイクロ波アシスト効果と呼んでいる。磁区内の磁化は歳差運動を行っており、ジャイロゴマのように根元を頂点とする逆円錐のような形でスピンの先は回転運動をしている。エネルギーを加えることは、歳差運動が激しくなり逆向きの力が加わると反転してしまうことになる。しかし、いったん反転すると、安定して小さなスピンに落ち着く。


スピントルク素子の基本構造

図2 スピントルク素子の基本構造


わずか60nmという微細な磁区にめがけてビームの細いマイクロ波を照射することは極めて難しい。そこで日立はマイクロ波を発生するためにスピントルク発振素子と呼ぶ発振素子を開発した。これは、磁気ヘッドと似たような構造の磁化自由層に存在する電子のスピンを磁区のスピンと交換することで磁化の歳差運動を活発にすることで高周波磁界を発生させようというもの。このため素子寸法は1辺100nm以下に加工する必要がある。

図2のように磁化固定層、非磁化層、磁化自由層に平行に直流電流(数mA)を流し、さらに外部から静磁界も印加する。電流の向きに対して逆向きの電子スピンが発生し、バランスをとろうとする。ここで電子のスピンと磁化のスピンが交換作用によって磁化のスピンが紙面に垂直方向に立つことになる。紙面に垂直方向にディスク媒体の垂直磁区が存在するため、この垂直方向のスピンからのトルクエネルギーによってマイクロ波が発生しディスク側の磁区に注入されることになる。

今回は自由層を2層の積層構造にすることで12GHzのシャープなスペクトルのマイクロ波を発生できた。この周波数と同じ周波数で、ディスクの磁化反転を共鳴させると、ディスクを磁化できるという訳である。ディスク媒体の磁区を12GHzで共鳴させるためにはディスク材料や構造を工夫するという。


記録ヘッドに加えたマイクロ波発生素子

図3 記録ヘッドに加えたマイクロ波発生素子


実験では、幅100数十nmで上下の向きで交互に磁化された磁性体表面を幅60nmの発振素子で走査させると、より広い幅の磁区の領域の中で反転できた部分が確認できた。素子の幅を30nm、マイクロ波アシストによってS/N 11dBの信号を読み出せるとしてシミュレーションしたところ、30nm幅の磁区反転できることを確認した。これによって記録密度にして3.3Tビット/平方inchという記録密度を得た。

流す電流は1磁区当たり、数mAオーダーだというが、高密度HDDでは電流をさらに下げて消費電力を下げる必要がある。このため、スピン交換作用の効率をもっと上げる、そのための材料を開発する、などの手法をこれから工夫していく。

(2010/11/08)

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