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富士通研、集中定数回路モデルでワイヤレス給電設計時間を1/150に短縮

富士通研究所は、磁気共鳴方式のワイヤレス給電の設計法を確立、従来方法よりも計算時間が1/150で済むアルゴリズムを考案した。この設計手法を使い、携帯電話向けの充電ステーションを試作したり、3個の受電デバイスの動作をデモンストレーションしたりした。

磁界共鳴のワイヤレス充電ステーション 複数の電話を充電できる

図1 磁界共鳴のワイヤレス充電ステーション 複数の電話を充電できる


ワイヤレス給電技術は配線不要ということで最近注目を集めているが、富士通研は磁界共鳴法に力を入れている。やや離しても充電できる、複数の受電デバイスが使えるなどのメリットが大きいからだ。これに対して電磁誘導方式はトランスと同じ仕組みで働き、コイルを十分近くに接近させなければ1次側の電力を2次側に伝えられない。

従来のコードレスフォンなどの無線給電は電磁誘導方式であるため、電話機をきっちり立てておかなければ充電できないが、磁界共鳴方式だと電話機をどの向きにおいてもよく、使い勝手の自由度は高い。このため自動車での携帯電話の充電などの応用が考えられる。


1台の充電コイルで豆ランプ2個とモーター1個を動かすデモ

図2 1台の充電コイルで豆ランプ2個とモーター1個を動かすデモ


磁界共鳴方式だと共鳴周波数さえぴったり一致すれば、電力を伝えることができる。送電側にコイルを置き、充電側は別のコイルを置く。その共鳴周波数を決めるのは、LC共振だという。Lはコイルを作製することで得られるが、キャパシタンスCはコイル同士を合わせている空間キャパシタンスで決まる。すなわち、送電コイルと受電コイルとの間のキャパシタンス、あるいは近くにある金属との空間キャパシタンスなどの影響もある。

コイルのインダクタンスLはコイルの巻き数、巻き線の太さや断面構造などによって決まるが、空間キャパシタをシミュレーションすることは容易ではない。従来のモデルでは、マクスウェルの電磁界方程式と、コイルと空間キャパシタを考慮した空間メッシュを切りながら、電磁界方程式を解くといった方法を使っていたが、計算時間が非常に長くかかっていた。電磁界方程式は3次元の微分方程式を解く場合に級数展開し数値計算しなければならないが、さらに空間キャパシタンスの分布も考慮しながら解いていたため時間がかかっていた。

そこで富士通研は空間キャパシタの等価回路を分布定数回路ではなく、集中定数回路として考えることで、計算負荷を減らした。集中定数回路だと、メッシュを切る必要がなく、数値計算は楽になる。この工夫によって従来の空間メッシュを使う分布定数回路モデルと比べ計算時間が1/150に減ったという訳だ。

図3 コイル設計に生かす

図3 コイル設計に生かす


富士通研が1台の充電ステーションに3台の携帯電話を置くという場合を計算してみた。コイルサイズをパラメータにして変えてみると、3台同時に給電するのに必要な電力を求めることができ、従来の計算方法だと一晩かかっていたが今回の計算法だと10分で解が求められたとしている。

富士通はこの解析手法を9月15日の電子情報通信学会で発表するが、この設計手法をIPとして対外的に売ることはまだ考えていないとしている。

(2010/09/14)

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