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TI、子供の車内置き去り検出などEuro NCAP 2026に対応する3種のICをデモ

Texas Instruments(TI)が将来のクルマに向け車内用のレーダーセンサチップ「AWRL6844」と、リッチなオーディオを聞くためのチップ「AM275x-Q1」、「AM62D-Q1」、をリリースした。車内用に力を入れるのは、子供の置き去りやシートベルトなどの検出にこれまでのように多数のセンサを使わずに高集積の1チップで処理するなど車内環境を改善するためだ。

未来に向けた次世代自動車 / Texas Instruments

図1 Euro NCAP 2026規制に対応するための機能を集積 出典:Texas Instruments


TIは多くのOEM(自動車メーカー)が未来のクルマ作りで取り組んでいる目標として、年々厳しくなる乗員の安全機能に対する法規制と、没入感の高いプレミアムオーディオ体験があるという。この2つの目標を実現するためのICが今回CES 2025で発表された新製品である。そこで、TIは60GHzのレーダーセンサとその処理プロセッサ「AWRL6844」、プレミアムオーディオの高性能を生み出す「AM275x-Q1」マイコンと「AM62D-Q1」SoC、さらにインダクタの数を減らしながら高性能を実現したD級アンプ「TAS6754-Q1」の新製品をリリースした。

これまでの車内システムでは、子供の置き去り検出、シートベルト着用検出などはそれぞれのセンサで行ってきた。シートベルト検出と乗員判別機能はEuro NCAP 2026プロトコルの必須の機能である。新製品「AWRL6844」は、1チップで両方の状況を検出するだけではなく、車外から侵入者に対する検出精度を上げ、車体の振動や外部の動きに起因する誤った侵入者検知アラートを減らすことができる。

さらに、子供の置き去り検出の精度も上げており、レーザー照射によって生物か無生物かを判別するだけではなく、大人か子供かもAI(ニューラルネットワークによる学習・推論アルゴリズム)によって判別する。その精度は90%以上の認識率だという。生物か無生物かの判定でも、無生物である水のペットボトルがたくさんある場合でさえ、AIで学習させているため判別できるという。もちろん、バイタルセンシングにも使える。


AWRL6844:業界で初めてエッジAIに対応し、3つの機能を一体化したレーダーセンサ / Texas Instruments

図2 子供の置き去り検出やシートベルト着用検出などを1チップで行う 出典:Texas Instruments


レーダーセンサチップ(図2)は、4つの送受信機を備え、空間分解能を上げているだけではなく、AIモデルを実行し推論するためのアクセラレータとDSP(積和演算専用のマイクロプロセッサ)を集積している。さらに制御用のArmコアやセキュリティ青実行するHSM(Hardware Security Module)回路も集積している。

現在のアーキテクチャでは4つのセンサチップで実現可能だが、TIの高集積チップだと同じ機能を1チップで実現できる。このためシステムコストは半分の20ドルで済むと見積もっている。

オーディオ用ICで没入体験を豊かにしようとすると、音の遅延をわざと作り出して反響させたり、一つのスピーカーでまるで後ろから音が出ているかのような立体感を出すなど、DSPで演算処理するする必要がある。TIが長年得意としてきたDSP技術を、「AM275x-Q1」マイコンと「AM62D-Q1」SoCは集積している(図3)。


2種類のアーキテクチャで幅広い活用事例に対応 / Texas Instruments

図3 2種類のオーディオ処理用のマイコンとSoC 出典:Texas Instruments


DSPコアは最新のC7xコア製品で、SoCではDSPをもう一つデュアルで集積できるようになっている。マイコンには10.75MBのSRAMを集積しており外部メモリを使わずに対応するが、SoCにはあえて1.25MBの小さなSRAMだけに留め、外部の大容量LPDDR4を接続できるようにインターフェイス回路を集積している。またSoCにはマイコン用のCortex-R5コアだけではなく演算用のCortex-A53コアも集積している。共に同じソフトウエアを使えるため、大衆車にはマイコン、高級車にはSoCというソリューションがありうる。

オーディオ機能であるため、DSPはノイズキャンセラで音を打ち消し合ったり、あるいはEVは静かなので歩行者に車が近づいていることを知らせるためにわざとエンジン音を創り出したりできる。オーディオチップにもAIアルゴリズムを導入したのは、DSPによる演算だけでは処理時間がかかるため、チューニングや音声認識などの応用も考慮してNPU(ニューラルプロセッサ)アクセラレータも集積している。ノイズキャンセラやチューニングなども今やAIのアルゴリズムで処理速度を向上させている。

TIはオーディオ処理した後のアンプとしてD級アンプ「TAS6754-Q1」もCES 2025でデモした。このチップには1L(インダクタ)変調技術を集積し、外部コイルの数を半減させている。コイルは体積も重量も大きいため、半減はシステムの小型化にとってメリットが大きい。

これら4つの新製品には全て評価ボードも提供されており、サンプル評価を行うことはできるが量産は評価の後になる。

(2025/01/16)
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