STMicro、推論専用NPU集積のマイコンを量産開始
STMicroelectronicsは、ニューラルプロセッサを集積したマイコンを製品化した。AI性能600 GOPS(Giga Operations per Second)、その電力効率は3 TOPS/Wとなっており、AI性能重視とはいえISP(画像処理プロセッサ)やコーデックなども集積したSoCライクなマイコンとなっている。ここまで高性能な画像を対象としたAIプロセッサをマイコンに組み込んだのはなぜか。

図1 量産開始したAIマイコン 出典:STMicroelectronics
これまでのAIプロセッサ回路を搭載したSoCやマイクロプロセッサは、高価で演算リッチなプロセッサチップだった。しかしSTは安価なマイコンにこだわり、マイコンにAIプロセッサ(NPU)と、ISP(画像信号処理プロセッサ)やコーデックなどの画像処理機能を載せた。いわば盛りだくさんのマイコンとなった。特にAI専用のプロセッサを集積しなかった、これまでのST32マイコンと比べると、機械学習性能は600倍にもなったという。専用のNPUを集積する効果が出ている。
今回のハイエンドマイコンSTM32N6を開発した背景には、ちょっとしたところをAIで便利にしようというエッジAIの流れがある。例えばSTは、これまで展示会などで、重量センサを取り付けにくい洗濯機に洗濯物の重量を推定するAIのデモを見せていた。重量に合わせてモータの回転速度を最適値に合わせ、消費電力を減らすというデモだった。このような身近なところにもAIを使って快適な生活を送るというエッジAIのコンセプトをSTは、安価なマイコンに託したのである。
STM32N6は、ドローンやスマート産業機器、家電製品、スマートビルディング、ロボット、スマートホーム、ウェアラブル機器、スマート農場、ヘルスケア、車載アフターマーケットなどの応用分野に安価なエッジAIを採り入れるような組み込み系をターゲットとしている(図2)。組み込み系のエッジシステムで推論処理すると、クラウドを通さないため遅延を短縮でき、データ通信量を減らし、プライバシーやセキュリティを強化できるというメリットがある。しかも運用コストは安い。学習はしない、推論専用のAIだとしている。
図2 エッジAIのアプリケーションは広い 出典:STMicroelectronics
また、特に応用として、イメージセンサからのデータをAIで画像認識して、それをスケルトンなどで表示するようなシーンをイメージしている。このため、600 GOPSの性能で、3 TOPS/Wの電力効率を持つニューラルプロセッサに加えて、コンピュータビジョンを想定してISPやMIPI-CSIインターフェイスなどを備えており、2.5DグラフィックプロセッサやH.264エンコーダ、JPEGコーデックなどの機能に加え、ArmのTrustZoneでNPUや周辺回路、Arm Cortex-M55コアなどを保護し、Armのセキュリティ認証PSAレベル3などを備えている。
STが想定する応用には、人物検出や音響データの解析、音声認識などのBOMコストを削減できるほか、物体や画像を認識し判別、姿勢を推定、分類分けなどのサービスを、クラウドを通さずに行える。
AI開発に必要な開発ツールも用意している。同社のST Edge AI Suiteでは、サンプルモデルやサンプルコードをST Edge AI Model Zooから取り込むことができるほか、ST Edge AI Developer Cloudから様々な分野での学習データを、分野ごとにマイコンに取り込み、AIモデルを評価できる上にSTM32 Cube.AIを用いてモデルを最適化するなど総合的な開発ツールとなっている。